臨床心理士指定大学院受験講座が提供している、心理学・臨床心理学を学ぶ方を対象とした、メールマガジンのバックナンバーサイトです。 http://www.clinicalpsychology.jp/

最新のバックナンバー

2006年4月25日火曜日

【Clip!アカデミー】第40回:エッセイ号「心の対象図の再検討」

【Clip! アカデミー】 第40回 2006/4/25
第1週 エッセイ号「心の対象図の再検討」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/
  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【心の対象図の限界】
            3)【説明しきれるか否か】
            4)【説明しきれる】
            5)【説明しきれない】
            6)【解けない方程式】
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】

 ※文中の図が正しく表示されない場合、等幅フォントでご覧ください※

  メルマガの最後に【Outlook Express・Netscape Messengerの場合】
  のフォント設定のやり方を載せてあります。

==================================================================


   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
     無料心理学メールマガジンです。
   
            ■ 基本サイクル ■
  ※【今回はこちら!】第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
            第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

   ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  ○


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1)【前回のまとめ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

● 心の対象図2(仮)
=============================

 ┌-----┐   ┌-----------┐
 |”こころ”| ⇔ |     対象    |
 └-----┘   └-----------┘
                 ↓
┌------┐   ┌-----┬-----┐
| 構成概念 | + | 概念  | 実在  |
└------┘   └-----┴-----┘
=============================

前回エッセイ号では心の対象図を用いて、
現在の心理学が、構成概念という、一種の仮説モデルを通して、
“こころ”を捉えるということについて検討しました。

このことを、心の対象図2で表すと、以下の様になるでしょうか。

     ┌-----┐   ┌-----------┐
A    |”こころ”| ⇔ |     対象    |
     └-----┘   └-----------┘
       ↑
    ┌------┐   ┌-----┬-----┐
B   | 構成概念 | ← | 概念  | 実在  |
    └------┘   └-----┴-----┘

対象との対比において浮かび上がる“こころ”がAだとすると、
Bは、それを、科学的手続きとして表したものということができるでしょう。

対象の観察・研究を通して、
それなくしては、人間の行動を説明できない要因を仮定し、
それに、たとえば認知、知能、パーソナリティなどの、名前をつける。

それなくしては人間の行動を説明できない、
というところから、デカルトは人間の中に、
身体や物質と対立するもの(意識)を仮定せざるを得ませんでした。

我々現代人も、
人間の行動の背後に、説明しきれない何か、
を感じるからこそ、心理学という学問を必要とするといえます。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2)【心の対象図の限界】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


しかし、このように、
今までの議論をまとめてみると、
この心の対象図の限界が見えてきます。

お気づきの方も多いでしょぅ。

それなくしては人間の行動を説明できない、
というものを、構成概念として仮定する、ということは、
説明できてしまったあかつきには、不必要なものとして、
捨てられることもありうる、ということなのです。

これは、心理学そのものの存在を危うくする事実ですね。

このことについて、
もう少し検討してみましょう。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
3)【説明しきれるか否か】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 Cさん「構成概念なしで人間の行動を説明しきれてしまうなら、
     心理学は必要ないのではないか。」

 Dさん「いや、そもそも人間の行動を、
     客観的な観察をもと説明しつくすことは不可能だ。」

我々の心の動きや行動は、
いつかは客観的な観察をもとに、説明が可能なのでしょうか。

それとも、やはり、人間の行動の背景には、
“それなくしては人間の行動を説明しきれない何か”、
が常に存在し続けるのでしょうか。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
4)【説明しきれる】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


Cさんの、説明しきれる、という立場の、
かつての代表格が、行動主義です。

行動主義全盛の時代には、
どんな複雑な行動や心理過程も、
刺激と反応の連合の連鎖によって出来ている、
という考えが、主流派をなしていたようです。

だから、それをたどっていけば、
いつかはすべてを観察可能なS-Rの図式だけで説明できる。

こうした立場では、構成概念は不必要どころか、
事態を複雑にするだけの、天敵になります。

もっとシンプルに説明できるはずのことを、
わざわざ複雑にするわけですから。

だからこそ、行動主義は心の存在さえも否定し、
心理学ではなく、行動の科学として人間を理解しようとしたわけです。

こうした古典的な行動主義的人間観は、
現在では主流ではありません。

現代においては、
脳科学や認知心理学において、心の存在を否定するような証拠や、
考え方が台頭してきつつあります。

脳の働きが解明されれば、
“こころ”という言葉を使わなければ説明のつかないことはなくなる、
という主張です。

すべては、脳の構造と、ニューロンの神経活動のパターンに
還元されることになります。

この場合、構成概念は、
我々人間が、自分の実感として物事を把握するための、
一種の比喩表現としての価値しかないのかもしれません。

それはたとえば、
自由意志をめぐる議論がそれです。

自由意志は実際に存在するのか、
それとも、自由意志がある、と感じるように出来ているだけなのか。

すこし怖い想像ですが、
自由意志がある、と感じるように出来ているだけならば、
われわれは、人間とそっくり同じロボットを作れるようになるかもしれません。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
5)【説明しきれない】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


もうひとつのDさんの立場は、
そもそも人間や人間の行動を、
客観的な観察のもとに説明しきることは出来ない、
というものでした。

どこまでいっても、
“それなしには人間の行動を説明しきれない何か”
が残る、ということです。

これを、科学的手続きや、実証的視点を保ちつつ、
主張することは、難しいことです。

近年の試みに共通しているのは、
“こころ”と“対象”に分け、対比することよりも、
対象と対象の間の“関係性”の中に、
“それなしには人間の行動を説明しきれない何か”
を求めていこうとする態度です。

心理学において、こうした傾向を主張しだしたのは、
ヘルムホルツや、ゲシュタルト心理学だといえます。

ヘルムホルツの名づけた、
知覚における無意識的推論とは、
我々の知覚体験が、先行経験に依存する、
ということです。

枯れ木を見たことがなければ、
遠くの枯れ木を見ても、
人が立っているように見えるかもしれません。

知覚も、対象との関係によって変化するのです。

ゲシュタルト心理学ではそれに加えて、
視知覚の対象となる各要素が、
ひとつのまとまりを成すときの法則が重視されました。
(プレグナンツの法則)

すなわち、各要素間の関係性に、
ある法則が見られるとき、
それらは、ひとつのまとまりを形作る、というわけです。

ここでは、
対象自体ではなく、対象間の関係性の中にこそ、
まとまりや、知覚を形作る“何か”が存在する、
という発想がされています。

しかし、ゲシュタルト心理学は、
そうした“何か”を、体系的に研究し、
幅広く理論立てるまではいきませんでした。

ただ、関係性の中に、
説明しきれない何か、を見るまなざしは、
コネクショニズムやシステム理論、生態学的心理学など、
近年の様々なアプローチに引き継がれています。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
6)【解けない方程式】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


説明しきれる、という立場も、
しきれない、という立場も、
ともに、
現時点では決定的な理論を生み出すには至っていません。

と、このように書くと、読者の皆さんの中には、

   「いつも同じようなことを言っている」

と感じる方がいるかもしれません。

でも、実際、そのとおりなのです。

こうした対立構図と、答えの出ない状況について、
本メルマがでも、これまで、
繰り返し論じてきました。

繰り返し繰り返し。

同じことを、様々な側面から、
繰り返し論じる。

いつまでも、すっきりはしません。

しかし、それが答えだということも出来ると思います。

ドゥルーズという哲学者は、
この世のあらゆることは、数学の方程式で表現することが出来る、
といいます。

しかし、その方程式は、解くことが出来ないのだ、と。

我々の人生が、
どんなに答えの出ない方程式であっても、
我々はそれを実際に生き、なんらかの結果を出さざるをえないのです。

繰り返し、繰り返し。

臨床も、研究も、その丁寧な繰り返しでありたいものです。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【次回配信】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   次回 【問題号】… 5月2日(火)にお送りする予定です。
             
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【参考文献】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


● ドゥルーズの哲学-生命・自然・未来のために 小泉 義之 2000
  講談社現代新書

● 心理学物語-テーマの歴史 R.C.ボールズ著 富田達彦訳 2004 
  北大路書房

● 意識の神経哲学 河村次郎 著 2004 萌書房


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

心の対象図の検討も、今回が最後です。

「対象」という言葉自体は、
我々の日常にもよく登場する言葉です。

しかし、そのような言葉であるほど、
深く考えていくと、
人間とは何か、世界とは何か、
という問いと無関係には議論できなくなっていきます。

そのため今回は、心理学を学ぶ上で関係の深い
哲学的なテーマや研究者を、
少し紹介する内容にしました。

哲学は、言葉と論理だけで、
本質的なテーマを検討していきます。

その分、言葉や論理の扱いは、
心理学の及びも付かないほどに厳格です。

ここでは、そうした厳格さを犠牲にして、
大まかなイメージを持ってもらうことを
目指しました。

そのフォローは、
この後に続く、来週以降の
問題号、解説号に譲ることにしましょう。



====================================================================
送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。   

2006年4月11日火曜日

【Clip!アカデミー】第39回:解説号「心の対象図あれこれ」

【Clip! アカデミー】 第39回 2006/4/11
第3週 解説号「心の対象図あれこれ」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/

  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【問題号の解説】
           【Q1】対象の研究に関する問題
           【Q2】基礎と臨床の比較に関する問題
           【Q3】構成概念についての問題
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】

 ※文中の図が正しく表示されない場合、等幅フォントでご覧ください※

  メルマガの最後に【Outlook Express・Netscape Messengerの場合】
  のフォント設定のやり方を載せてあります。

==================================================================


   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
     無料心理学メールマガジンです。
   
            ■ 基本サイクル ■
            第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
            第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
  ※【今回はこちら!】第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

   ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  ○


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1)【前回のまとめ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

前回エッセイ号は、心の対象図検討の第2回をお送りしました。

34回でお送りした第1回目の検討では、
”こころ”を、これまでからは一歩引いた視点、
すなわち、”対象”との対比から現れてくるものとして
捉える試みをしました。

検討を通して、便宜的に立てたのが、
以下の図です。

● 心の対象図(仮)
=======================

時間的広がり
  ↑
  |   ┌-----┐   ┌----┐
  |   |”こころ”| ⇔ | 対象 |
  |   └-----┘   └----┘
 ←+-------------------→
  |              空間的広がり
  ↓
=======================

第2回であった前回ではさらに進んで、
”対象”自体を、より詳細に、
「概念」と「実在」という側面から検討しました。

● 心の対象図2(仮)
=============================

 ┌-----┐   ┌-----------┐
 |”こころ”| ⇔ |     対象    |
 └-----┘   └-----------┘
                 ↓
┌------┐   ┌-----┬-----┐
| 構成概念 | + | 概念  | 実在  |
└------┘   └-----┴-----┘
                  ======
                   自然科学
                  (大脳生理学等)
            ============
               基礎心理学
 =================
       臨床心理学

=============================

対象に、概念と実在の側面を置くと、
実在の側面は観察可能で科学的検証が有効な
側面になるでしょう。

概念の側面は、一見確かな事実に見えても、
我々の見方、捉え方によって変化するし、
変化させることが出来ます。

舞台セットを対象とすると、
それがベニヤ板(実在的側面)で出来ていても、
見る側は、それをベニヤ板にも、風車にも、
ドン・キホーテが突進していく竜にも、
見ることが出来る。

これは、我々の”こころ”の働きといえます。

基礎心理学は、自然科学における様々な成果を前提に、
こうした、科学的に捉えにくい側面を捉えるために、
構成概念という仕組みを作り、検証していく。

では臨床はどうか。

その辺を考えつつ、
考えを深めるための刺激剤、
問題号3問をごらんください。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2)【 問題号の解説 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【Q1】 対象の研究に関する問題

以下の図のうち、対象の広がりを研究するために、
(A)と(B)に入る最も適当と思われる研究法の組み合わせを、
以下の選択肢から選びなさい。

● 心の対象図(仮)
=======================

 時間的広がり ←(A)
  ↑
  |   ┌-----┐   ┌----┐
  |   |”こころ”| ⇔ | 対象 |
  |   └-----┘   └----┘       
 ←+-------------------→
  |             空間的広がり ←(B)
  ↓
======================= 

======選択肢=======

   (A)  (B)
a. 横断的研究  コホート研究
b. 縦断的研究  コホート研究
c. 縦断的研究  横断的研究
d. コホート研究 縦断的研究

=================

正解は、   【 c. 】
…感覚的に捉えれば簡単に答えが出てきます。


時間を縦断して、対象の時間的変化を捉えるのが縦断的研究、
空間を横断して、対象というカテゴリ内の差を捉えるのが横断的研究です。

縦断的研究が、
もっともシンプルに当てはまるのは、
発達研究の分野です。

アイデンティティにせよ、認知機能にせよ、
身体能力にせよ、対象を時系列で研究し続けることで、
その目に見えない変化を形にすることができます。

逆に、横断的研究の代表格は、
社会学における社会調査や、
心理学における個人差研究です。

社会学は社会全体を対象にする学問であるため、
特に横断的研究の方法論を工夫する必要がありました。

なぜなら、
社会全体というとき、本当なら、
社会成員全員について調査することが必要になるからです。

成員全員を対象に行う調査を全数調査といいますが、
国勢調査など、対象が大きすぎる場合、
なるべく社会全体を平等に代表するような、
データの集め方が工夫され、心理学でも用いられています。

ただ、縦断的研究、横断的研究だけで、
フォローしきれない部分があります。

それが、コホートです。

コホートは、「バブル世代」「丙午の生まれ」「旧制高校卒」など、
ある特定の時期に、同一の社会経験をした人たちのことです。

たとえば、出生率が年々増加している、
という縦断的研究の結果があるとします。

しかし、毎年の出生率をグラフにしてみると、
ある年だけ、ぽこっと出生率が低い年がある。

これを無視して、
「年々増加している」と言い切ってしまうのは、
研究としてはNGです。

丙午の年に生まれた女性は、
気性が荒く、嫁の貰い手がつかない、
というジンクスを重視した人たちが、
妊娠出産を控えた、という説明が正しければ、
出生率は年々増加している、という結果を、
もっと自信を持って主張することができます。


【Q2】 基礎と臨床の比較に関する問題

(A)と(B)にはいるものとして、
もっとも適当な組み合わせを、
以下の選択肢から選びなさい。

基礎心理学 
┌------┐   ┌-------┐
| 構成概念 | ← | “対象”  |
└------┘   └-------┘
    学習障害        ( A )

臨床心理学 
┌------┐   ┌-------┐
| 構成概念 | → | “対象”  |
└------┘   └-------┘
     学習障害       ( B )

1 脳細胞の損傷 2 学校成績
3 観察や検査における個人差 4 その人自身

   ====選択肢=====
   
      (A) (B)
    a.  1   2
    b.  1   3
    c.  2   4
    d.  3   4
   
   ============


正解は、   【 d. 】
…一見、(A)にはどれでも入るように見えますが、
 基礎心理学が、対象を科学的に一般化し、モデル構築に進むことを
 考慮すると、3になります。


基礎心理学は一般化に向かい、
対象の中の例外や細部のディテールは切り捨てていく。

臨床心理学は個人に向かい、
むしろ例外やディテールに注意を向ける。

同じ現象を扱っていても、
ふたつの心理学では、
そもそも“対象”として仮定しているものが、
ズレているとさえ、いえるかもしれません。

学習障害は、
なんらかの脳内の情報処理のアンバランスや、
偏りが原因として仮定されているが、
脳内の損傷など、器質的変化は特定されておらず、
生物学的な根拠には乏しい。

構成概念としては、
まだまだ慎重に扱う必要のある概念だといえます。


【Q3】 構成概念についての問題

「血液型占い」を、構成概念として見ると、
その前提には、以下のような対象が存在すると考えられる。

================================
   【構成概念】  ∥   【概念】   |  【実在】
           ∥          |
血液型パーソナリティ ∥「A型」「B型」  | ヘモグロビンタイプ
           ∥「O型」「AB型」 |
================================

上の図の説明として最も適切な文章を、以下の選択肢から選びなさい。

==============選択肢=====================

a. 血液型占いは、これまで十分に科学的検証を経てきたパーソナリティ類型である。
b. 赤血球のヘモグロビンのタイプが性格を決定する
c. 血液型パーソナリティという構成概念は、十分な科学的根拠を持つとはいえない。
d. 科学的根拠に乏しい血液型占いを、個人に当てはめるのは無駄である。

=======================================

正解は、   【 c. 】
…ヘモグロビンのタイプの違いが、なぜパーソナリティの違いに結びつくのか、
 という問いは、これまで多くの科学的検証をされていますが、
 実証されていません。


血液型占いは、我々人間が個々に持っている血液型によって、
行動や人格の傾向を類型化することができる、
と考えるものです。

ここで、血液型パーソナリティなる構成概念が
存在すると考えると、
この構成概念が前提とし、依拠している“対象”はどこにあるのか、
これまで検討してきた図式から考えてみましょう。

ひとつには、我々が、実際に、
「BさんはB型っぽいよね」「OさんはいかにもO型だ」
というときの、B型らしさ、O型らしさ、
といったものがあります。

次に、そうした我々の言う、
B型らしさ、の根拠はどこに見出せるでしょうか。

ここでは、話を単純化するために、
「B型らしさ」の根拠として、
個人の血液型を決定している赤血球内のヘモグロビンのタイプを
挙げましょう。

ヘモグロビンのタイプは、科学的に観察可能な実在物ですから、
構成概念の信頼性を裏付ける科学的根拠としては、
文句なしです。

…でも、ちょっとまってください。

そもそも、どうやって、
血液型を決定するだけのヘモグロビンのタイプが、
個人の行動や、人格を規定しているのでしょうか。

古川竹二によって学説として提唱された当時は、
様々な追試が行われましたが、
これまで、血液型とパーソナリティに相関がある、
という結果は見られていません。

可能性は一概に否定できませんが、
このヘモグロビンから、きちんと研究結果を積み上げて、
我々のパーソナリティへの影響を実証するまでの道のりは、
遠いように思われます。

しかし、選択肢のd.のように、
科学の裏づけがないのだから、血液型占いには意味がないのだ、
と切り捨ててしまうのも、心理学徒としてはいかがなものか、
という感じがします。

なぜなら、
血液型でお互いを類型化し、批評し合うことで、
コミュニケーションが促進されたり、
理解しがたい相手の行動や、その動機を自分なりに納得したり、
といった効果も、決して少なくないからです。

このような捉え方は、社会心理学的な視点になります。

一面では科学的とはいえないもの、
科学的に研究が難しいものも、
別の面からは、科学的に研究することができます。

血液型占いを、
科学的でないという理由だけから退けてしまうことは、
科学の楽しみだけでなく、
人生の楽しみの一部も、
ちょっぴりなくしてしまことがあるかもしれませんね。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【次回配信】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   次回 【エッセイ号】… 4月25日(火)にお送りする予定です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【参考文献】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

● 流れを読む心理学史 世界と日本の心理学 サトウタツヤ 高砂美樹
2003 有斐閣 
 
● 心理学研究法 心を見つめる科学のまなざし 高野陽太郎・岡隆 編
  2004 有斐閣

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

“対象”にまつわる、
こころの対象図をめぐる検討も、
残すところあと3回になりますが、
皆さんはどう受け止められているでしょうか。

こころの歴史図や、研究法図などは、
心理学史、心理学研究法などに対応していますから、
なじみやすいのです。

この図式は、心理学概論のテキストでそのまま扱われることのない
領域ですから、とっつきにくいと感じている人も多いでしょう。

どちらかといえば、哲学に片足を突っ込んだ議論だからです。

それをあえて取り上げているのは、
特に臨床心理学においては、
こうした、哲学の初歩を前提にした議論が、
非常に重要な意味を持つからです。

ただ、ここで扱えるのは、
哲学のテの字が出てくる前、
専門用語が出てくる手前の、イメージくらいです。

もう少しお付き合いいただいて、
哲学のモノの見方にも、すこし親近感を感じてもらえると、
あとで勉強するときに、
抵抗が少ないかもしれません。

====================================================================
送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。   

2006年4月4日火曜日

【Clip!アカデミー】第38回:問題号「心の対象図あれこれ」

【Clip! アカデミー】 第38回2006/4/4
第2週 問題号「心の対象図あれこれ」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/

  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【それでは問題です】
           【Q1】対象の研究に関する問題
           【Q2】基礎と臨床の比較に関する問題
           【Q3】構成概念についての問題
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】

 ※文中の図が正しく表示されない場合、等幅フォントでご覧ください※

  メルマガの最後に【Outlook Express・Netscape Messengerの場合】
  のフォント設定のやり方を載せてあります。

==================================================================


   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
     無料心理学メールマガジンです。
   
            ■ 基本サイクル ■
            第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
 ※【今回はこちら!】 第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

   ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  ○


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1)【前回のまとめ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


前回エッセイ号は、心の対象図検討の第2回をお送りしました。

34回でお送りした第1回目の検討では、
”こころ”を、これまでからは一歩引いた視点、
すなわち、”対象”との対比から現れてくるものとして
捉える試みをしました。

検討を通して、便宜的に立てたのが、
以下の図です。

● 心の対象図(仮)
=======================

時間的広がり
  ↑
  |   ┌-----┐   ┌----┐
  |   |”こころ”| ⇔ | 対象 |
  |   └-----┘   └----┘
 ←+-------------------→
  |              空間的広がり
  ↓
=======================

第2回であった前回ではさらに進んで、
”対象”自体を、より詳細に、
「概念」と「実在」という側面から検討しました。

● 心の対象図2(仮)
=============================

 ┌-----┐   ┌-----------┐
 |”こころ”| ⇔ |     対象    |
 └-----┘   └-----------┘
                 ↓
┌------┐   ┌-----┬-----┐
| 構成概念 | + | 概念  | 実在  |
└------┘   └-----┴-----┘
                  ======
                   自然科学
                  (大脳生理学等)
            ============
               基礎心理学
 =================
       臨床心理学

=============================

対象に、概念と実在の側面を置くと、
実在の側面は観察可能で科学的検証が有効な
側面になるでしょう。

概念の側面は、一見確かな事実に見えても、
我々の見方、捉え方によって変化するし、
変化させることが出来ます。

舞台セットを対象とすると、
それがベニヤ板(実在的側面)で出来ていても、
見る側は、それをベニヤ板にも、風車にも、
ドン・キホーテが突進していく竜にも、
見ることが出来る。

これは、我々の”こころ”の働きといえます。

基礎心理学は、自然科学における様々な成果を前提に、
こうした、科学的に捉えにくい側面を捉えるために、
構成概念という仕組みを作り、検証していく。

では臨床はどうか。

その辺を考えつつ、
考えを深めるための刺激剤、
問題号3問をごらんください。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2)【それでは問題です】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【Q1】 対象の研究に関する問題

以下の図のうち、対象の広がりを研究するために、
(A)と(B)に入る最も適当と思われる研究法の組み合わせを、
以下の選択肢から選びなさい。

● 心の対象図(仮)
=======================

 時間的広がり ←(A)
  ↑
  |   ┌-----┐   ┌----┐
  |   |”こころ”| ⇔ | 対象 |
  |   └-----┘   └----┘       
 ←+-------------------→
  |             空間的広がり ←(B)
  ↓
======================= 

======選択肢=======

   (A)  (B)
a. 横断的研究  コホート研究
b. 縦断的研究  コホート研究
c. 縦断的研究  横断的研究
d. コホート研究 縦断的研究

=================


【Q2】 基礎と臨床の比較に関する問題

(A)と(B)にはいるものとして、
もっとも適当な組み合わせを、
以下の選択肢から選びなさい。

基礎心理学 
┌------┐   ┌-------┐
| 構成概念 | ← | “対象”  |
└------┘   └-------┘
    学習障害        ( A )

臨床心理学 
┌------┐   ┌-------┐
| 構成概念 | → | “対象”  |
└------┘   └-------┘
     学習障害       ( B )

1 脳細胞の損傷 2 学校成績
3 観察や検査における個人差 4 その人自身

   ====選択肢=====
   
      (A) (B)
    a.  1   2
    b.  1   3
    c.  2   4
    d.  3   4
   
   ============


【Q3】 構成概念についての問題

「血液型占い」を、構成概念として見ると、
その前提には、以下のような対象が存在すると考えられる。

================================
   【構成概念】  ∥   【概念】   |  【実在】
           ∥          |
血液型パーソナリティ ∥「A型」「B型」  | ヘモグロビンタイプ
           ∥「O型」「AB型」 |
================================

上の図の説明として最も適切な文章を、以下の選択肢から選びなさい。

==============選択肢=====================

a. 血液型占いは、これまで十分に
  科学的検証を経てきたパーソナリティ類型である。

b. 赤血球のヘモグロビンのタイプが性格を決定する

c. 血液型パーソナリティという構成概念は、
  十分な科学的根拠を持つとはいえない。

d. 科学的根拠に乏しい血液型占いを、個人に当てはめるのは無駄である。

=======================================


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【次回配信】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   次回 【解説号】… 4月11日(火)にお送りする予定です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【参考文献】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

● 流れを読む心理学史 世界と日本の心理学 サトウタツヤ 高砂美樹
2003 有斐閣 
 
● 心理学研究法 心を見つめる科学のまなざし 高野陽太郎・岡隆 編
  2004 有斐閣


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

先週の雨で散ってしまうかと思われた桜が、
4月に入った今も、まだ元気に咲いています。

いよいよ、新しい始まりの4月、
入学式、入社式、配置転換など、
立場が変わる人が多いかと思います。

新しい職場へと、胸を膨らませて向かう
臨床家1年生も多いでしょう。

…こんな文章を読みながら、
自分にはなにも変化がない、
晴れやかな気持ちにはなれないな、
とちょっと残念な気持ちの皆さん。

特に、これから心理学の勉強を始めようという皆さん。

様々な気持ちを胸に収めて、
桜を見ながら、こころの中で、
第一歩を踏み出しましょう。

====================================================================
送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。