【Clip! アカデミー】 第69回 2007/1/30
第1週 エッセイ号「心の総合図は作りえるか?」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
1)【前回のまとめ】
2)【心理学の全体像を、
ひとつの図式で捉えることは可能か】
3)【パラダイム】
4)【プレ・パラダイム状態による不便】
5)【心の総合図の在り様】
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
==================================================================
○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
◆ 【Clip!アカデミー】は、
心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
無料心理学メールマガジンです。
■ 基本サイクル ■
第1週「エッセイ号」…問題提起
↓
※【今回はこちら!】 第2週「問題号」…練習問題
↓
第3週「解説号」…確認とフィードバック
↓
第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
↓
■ 第2サイクルへ続く ■
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
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1)【前回のまとめ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
これまで我々は、“こころ”なるものを捉えるための、
心理学の様々な視点を検討してきました。
心の構造図、心の過程図、心の歴史図、
心の研究法図、心の対象図、心の関係図、
心の物語図、心の実践図…。
“こころ”を捉えるために、
ひとつの図式を立て、
その図式から説明できることを考えていく。
そして、その図式で説明しきれないところまできたら、
次の図式に移る。
そのようにして、
我々は、あいまいで捉えどころのない“こころ”を、
様々な角度から光を当て、立体的に浮かび上がらせようと
してきたということが出来るでしょう。
今回からは、これまでのClip!アカデミーにおける
取り組みを振り返るとともに、
これからのClip!アカデミーのあり方について、
検討していきたいと思います。
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2)【心理学の全体像を、ひとつの図式で捉えることは可能か】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
このような形式を通して、
終始皆さんにも問いかけ、検討してきたテーマは、
「心の全体像を、ひとつの図式で捉えることは可能か」
というものです。
すなわち、心の総合図とでもいうものを、
作ることができるかどうか。
なぜこんなことがテーマになるのかといえば、
あるひとつの捉え方から、こころ全体を説明するということが、
難しいことだからです。
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3)【パラダイム】
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学問において、対象の捉え方、
というものは、決定的に重要です。
例えば、物理学者とは、研究論文をたくさん読んで、
研究結果の知識をもっている人をいうのではなく、
その物理学が立っているモノの見方から、
世界や対象を捉えられる人です。
そうしたモノの見方を身につけていれば、
知識自体の大小は、それほど大勢に影響を与えない。
それくらい重要なもの、といっていいかもしれません。
こうしたモノの見方を、
科学哲学においては、パラダイム(学問の枠組み)といいます。
パラダイムは、○○学者の、
「○○学者らしさ」を規定している要因です。
科学者は、このパラダイムに従って訓練され、
パラダイムから対象を見ることを学び、
パラダイムに従って研究の手続きを踏むことを学びます。
そうした経験の中で、パラダイム、
すなわち、その時代の学問のあり方の「当たり前」
を学ぶのです。
それが、中学校の理科の授業と、
大学院の物理学の教育との違いということができると思います。
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4)【プレ・パラダイム状態による不便】
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心理学における、パラダイムの在り様は、
プレ・パラダイム状態と呼ばれます。
すなわち、他の自然科学のように、
学問領域全体を、ひとつのパラダイムで説明することができないのです。
もちろん、それぞれの研究パラダイム(=ここでいう図式)は、
自分たちの捉え方によって、
心の働きを全て説明しようとしています。
ですから、もちろん心理学者にも、
心理学者にとっての「当たり前」な部分があり、
その「当たり前」に従って、教育が行われています。
しかし、その「当たり前」は、
心理学全体というよりも、
ほとんどローカルルールなのです。
そのため、もし自分が属している「当たり前」を越えて
心理学全体について勉強しようとすると、
困難に直面します。
「当たり前」が、たくさんあるからです。
これが、心理学の初学者、
とくに臨床心理学の志望者がぶつかる不便の正体
であるように思います。
臨床心理学者は、
実践家でもあり、研究者でもあり、
様々な心理学理論の応用に関わっているため、
どうしても、複数のパラダイムにコミット
せざるをえないことが多いからです。
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5)【心の総合図の在り様】
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だからこそ、臨床心理学を学ぶ上では、
基礎心理学や、その様々なパラダイムを、
どのパラダイムにも、どっぷり浸りこむのではなく、
比較しながら学ぶ必要があります。
そこで、この「当たり前」を、ひとつひとつ整理して、
図式化して検討してきたのが、
これまでの心の側面の検討でした。
心全体をひとつの図式で捉え、
それでは、心を捉えきれないことを確認してから、
次の図式に進む。
これは、いつまででも繰り返すことができます。
なぜなら、どこまで行っても、
うまくあらゆる心理学分野を統合できるような
パラダイムが出てこないからです。
その意味で、心の総合図は、
ひとつのパラダイムとして独立したそれぞれの図式が、
無限に連なっている、
いつまでも完結しない図になるのかもしれません。
●【心の総合図】(イメージ)
============================
□
□
■ ■ □
■ ■ □
■ * * * * ■ □
□ * “心” * ■ □
□ * ■ □
□ * + + ■ ■ □
□ □
□ □
□ □
============================
*や□のそれぞれ…独立した“こころ”の捉え方
============================
このようにして、
我々は、心理学について、
「ひとつのパラダイム」の代わりに、
無数のサブパラダイムが独立して関係しあう、
心の総合図を得ました。
ここには、それに従っていれば
安心して○○学者と名乗れるような
「○○学者としての当たり前」はなく、
ただ、それぞれのパラダイムとの付き合い方があるだけです。
その、臨床心理学の学習者が身につけるべき、
心理学の様々なパラダイムとの付き合い方とは、
● 心理学においては、「正しさ」や「当たり前」は、
心の捉え方の数だけ存在することを認める
● 自らの心の捉え方を、常に相対化する視点を持つ
● 複数の、無数の「正しさ」の基準を、
白黒を付けず、どれも否定せずに抱える
という、非常にあいまいで不安定な、
常に矛盾を強いられるようなあり方であるように思います。
このことは例えば、
古くから問われ続けている、
「心理学は科学なのか?」
という問いにも関わってきます。
もちろん、基礎心理学者ならば、
己の信義と沽券にかけて、心理学は科学である、
と断言するでしょう。
しかし、結局、この問いに対して、
この心の総合図の在り様から言えることは、
「分からない」ということです。
科学であると断言することも、科学であることを放棄する、
ことも、しないこと。
むしろ、そこでどちらと割り切らないことこそ、
臨床心理学のモノの見方であるようにも思えるのです。
しかし、その上でもう一つ重要なことがあります。
それは、「分からない」と言った後で、
その上で、あくまで科学であろうとすることです。
おそらく、「分からない」と己の不安定な立場を認め、
それで、納得してしまってはいけないのです。
「分からない」けれど、
科学の基本的なルールの中で、
勝負をしなければならないのです。
それができなければ、
臨床心理学は、心理学の中でも、他の自然科学の中でも、
同等の立場を確立し得ないでしょう。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【次回配信】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
次回 【問題号】… 2月6日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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● 心理学者のための科学入門 中丸茂 1999 北大路書房
● 心理学論の誕生 サトウタツヤ 渡邊芳之 尾見康博 2000 北大路書房
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【編集後記】
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勉強は、バームクーヘンのように、
薄くてもいいので全体をざっくり捉え、
繰り返し積み重ねていくことで、
深みが増していきます。
ここでClip!アカデミーも、
もう一度最初に戻って、
心理学初学者にとっての基礎心理学について、
捉えなおしていきたいと思います。
それと、参考文献に挙げた文献は、
とてもいい本なので、
ご覧になってみてはいかがでしょうか。
とはいえ、
真正面から心理学の重要な問いに
取り組んだ良書ほど、
なぜかあまり売れていそうな気配がない…。
これは残念なことだと思います。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
2007年1月30日火曜日
【Clip!アカデミー】新章突入!第69回:エッセイ号「心の総合図は作りえるか?」
2007年1月16日火曜日
【Clip!アカデミー】第68回:解説号「心の未知の側面と取り組む」
【Clip! アカデミー】 第68回 2007/1/16
第3週 解説号「心の未知の側面に取り組む」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
1)【前回のまとめ】
2)【問題号の解説】
【Q1】心理学モデルについての問題
【Q2】事例と理論についての問題
【Q3】想像力に関する問題
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
==================================================================
○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
◆ 【Clip!アカデミー】は、
心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
無料心理学メールマガジンです。
■ 基本サイクル ■
第1週「エッセイ号」…問題提起
↓
第2週「問題号」…練習問題
↓
※【今回はこちら!】 第3週「解説号」…確認とフィードバック
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第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
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■ 第2サイクルへ続く ■
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
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【Clip!勉強会のお知らせ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●心理学やその周辺状況について、熱く語りたい方
●大学院でのディスカッションに飽き足らない方、
●ディスカッションしようにも、そもそも周りに相手が見つからない方。
【Clip!アカデミー】では、
現在勉強会を行っています。
心理学史や研究法など、
心理学の基礎的な文献を読みながら、
重要なトピックについてディスカッションするものです。
もしかしたら、それを元に、
メールマガジンを配信することになるかもしれません。
Clip!アカデミー事務局までご連絡下さい。
↓ご連絡はこちら↓
clip-academy@clinicalpsychology.jp
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1)【前回のまとめ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
心の実践図(仮)
====================================
●論理・科学→「語りえないもの」を「(仮に)語りえるものとみなして語る」
●物語・文学→「語りえないもの」を「語らないまま語ろうとする」
●宗教 →「語りえないもの」を「“語られたもの”として信じる」
●芸術 →「語りえないもの」を「語らないまま表現する」
====================================
心の実践図2(仮)
====================================
○「語りえないもの」に対する実践
●物語・文学→「語らないまま語ろうとする」
●宗教 →「“語られたもの”として信じる」
●芸術 →「語らないまま表現する」
↓
○実践を自覚・検証・修正する手段
●論理・科学→「(仮に)語りえるものとみなして語る」
↓
◎心理学的実践=心理臨床
====================================
現在、「語りえないもの」(=心の未知の側面)
からの検討を行っています。
第3回目のエッセイ号となった前回は、
検討のそうまとめとして、
「語りえないもの」との取り組みとしての心理臨床実践について、
その限界と行く末について検討していきました。
「人の心を理解する学問」というイメージで
語られることの多い心理学、
特にその中でも臨床心理学が、
果たして実際に、「人の心」=ここでは他人の気持ちを、
説明することが出来るのか。
それは、突き詰めていくと、
否、という答えしか出てきません。
そして、心理臨床家は「人の心を理解」できるか、
という地点まで行くと、
答えはグレーゾーンへと突入していきます。
答えはNoでもあり、Yesでもある。
どこまで行っても、
心理学を用いて人の心を理解することはできないでしょう。
それは、どんなに度の強いメガネをかけても、
そのせいで外国語の本の内容を理解できるようには
ならない、ということです。
心理学は心を日常とは違った角度から見るための道具であり、
最終的に、人の心について、
それまでとは異なる視野を与えるのは、
本人の想像力なのではないか。
その意味では、
用いる道具が違うだけで、
他の職業やアプローチとなんら変わるところはない。
そこでようやく、
「それでは、他のアプローチとは異なる、
心理学にしか見えない景色とはどんなものか」
という問いを考えることができそうです。
以上が、前々回、エッセイ号の趣旨でした。
今回は、上述のエッセイ号の細部について、
より詳細な議論を進めていくための補足問題、
解説編です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2)【問題号の解説】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【Q1】心理学モデルについての問題
心理学において、ある現象の因果関係を説明するモデルを
構築するためによく用いられる統計的手法として、
もっとも適当なものを、
以下の選択肢からひとつ選びなさい。
====選択肢=====
a. 因子分析
b. パス解析
c. 重回帰分析
d. 共分散構造解析
============
正解は、 【 d. 】
…実際には、共分散構造分析は、
a.~c.の分析手法の応用です。
心理学を初めて学ぶ人は、実際に論文を読み、
自分で分析をしたり、研究をしてみるまでは、
統計的な手続きについて、ピンとこない人が多いのではないでしょうか。
心理学モデルの検証に用いられる統計的分析手法としては、
共分散構造分析がメジャーです。
たとえば、いくつかの変数の間の関係について、
あるモデルを立てるとします。
共分散構造分析では、「あるモデル」が、
測定した変数同士の関係を、実際にどれだけ説明しているか、
という「当てはまりの良さ」を調べることができるのです。
心理学において、モデルによって現象の因果関係を検証するという手続きは、
心理学概念の検証としては最終段階に近いものになります。
なぜかというと、
たとえば職場のストレスの高さを説明するモデルは、
職場のストレスに関連する主要な要因を、ほぼ網羅している必要があります。
ストレスとは何か(概念の定義)とか、
どうやって測るか(ストレス要因を測定するための手段(尺度)の作成)、
何が関係しているか(関連する変数のあぶり出し)、
などを、多くの研究を通して明らかにしていきます。
ここまでやってみて、
ようやく、ストレスにはこれこれの要因が関係しているらしいのだが、
要因同士は、どのように関係しているのか、
という、関係についての研究(モデル)に進むことができます。
そして、モデルの検証を通して、
ようやく、関連する変数のどれが原因で、どれが結果か、
などといった話ができるのです。
大学院修士レベルだと、
心理尺度の改善とか、尺度を用いた相関関係の研究などが、
とっつきやすくてよく行われています。
ある概念について研究したい場合、
今その分野がどのような段階にあるのか、
という大きな流れを念頭に置けば、
いきなり共分散構造分析をやろう、という結論は出てこないはずですね。
【Q2】事例と理論についての問題
ある人が、パートナーから
「逃げようと思えば逃げられるのに、逃げようとしない」場面を、
心理学理論から説明するとしたら、
もっとも適当でないものは、どれか。
以下の選択肢から1つ選びなさい。
=======選択肢========
a. オペラント条件付けが生じている
b. ダブルバインド状況にある
c. 内的要因に原因帰属させている
d. 共依存が生じている
==================
正解は、 【 a. 】
…オペラント条件付けというよりも、
古典的条件付け。
ただ、オペラント条件付けでも
説明しようと思えばできるのかもしれません。
明確な正解が与えられない、いじわる問題を作ってみました。
基本的には、どの選択肢も間違いではないでしょう。
どれからでも説明は出来る、
理屈をつけることができるという意味では、
心理学理論は、
自然科学理論がもっているような厳密性を持っていません。
新しい発見があり、新しい心理療法が作られたとしても、
古い心理療法が、全くすたれてしまう、
ということは、あまり見られません。
もちろん、お国柄や時代によって、
はやりすたりはありますが。
ここには欠点もありますが、
心理臨床家、心理学の実践家が共有している、
ひとつの現実的な知恵も潜んでいるように思われます。
もともと、
当事者の気持ちや、実際の状況などというものは、
当事者にも分からない、あいまいなものです。
そのため、事態が行き詰まっているときには、
論理的に正しく説明するよりも、
何かを語っているように見えつつ、
いかにはっきりさせないか、
ということが大事になることがあるからです。
また、一つの説明が受け入れられなくても、
別の説明なら受け入れられるかもしれません。
いかに「あいまいさ」に耐えるか。
ambiguity toleranceが必要な状況において、
いくつもの説明というオプションは、
一定の効果を発揮しているのかもしれません。
【Q3】想像力に関する問題
自閉症スペクトラムの特徴として、
「社会性」「コミュニケーション」
「想像力とそれにともなう行動」の3つ組み
の障害が強調される。
ここでいう「想像力」の障害とは、
どのような意味か。
以下の選択肢から、もっとも不適切な
ものをひとつ選びなさい。
========選択肢=========
a. 他人の気持ちを推測することが難しい
b. 想像する能力の欠如
c. 反復的で常同的な行動へのこだわり
d. 興味や行動の限局
====================
正解は、 【 b. 】
…文字通りの想像する能力は、
もちろん自閉症スペクトラムの人たちも
持っています。
自閉症スペクトラムとは、
ウィングの提唱する自閉症のとらえ方です。
スペクトラムとしてとらえる場合、
自閉性という特徴を共有するグループを、
なだらかな連続線(スペクトラム)上に位置づけるということです。
ですから、知的障害のある古典的な自閉症(カナー型)も、
アスペルガー障害などの高機能型も、
このスペクトラムのどこかにいることになります。
この自閉性を説明する場合に用いられることの多い
モデルが、「3つ組み」の障害、と呼ばれるものです。
近年、アスペルガータイプの人々が、
自分たちの内面や、自分たちから見た社会や世界について、
積極的に発表するようになってきました。
彼らが抱える困難の多くは、
その視点が、あまりに普段
“常識”とされる視点とは異なるために生じていることが、
著作を読むことで伝わってきます。
自分たちの常識が、
他の文化、他の認知的特徴の中では、
必ずしも常識ではない、と気づかせてくれる点で、
これらは自閉症者の世界への、
優れた旅行記であるともいえそうです。
これらの著作は、
一般に「想像力に欠ける」と見られる行動に、
異なる説明を与えてくれます。
それは、初めて訪れた未知の国で
誰もが侵してしまうルール違反であり、
人格的な欠点では決してないということです。
もし彼らが、
定型発達の世界に対して「想像力に欠ける」
というのであれば、
定型発達の人間も、彼らの世界に対して、
同じ意味で想像力に欠けているということができます。
自閉性の障害を含む広汎性発達障害の研究は、
まだまだ社会的に適切な理解がされているとはいえません。
しかし、
文化人類学が西洋文明に突きつけたショックと、
同様の影響を、
現代社会にもたらす可能性を秘めているといえそうです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【次回配信】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
次回 【エッセイ号】… 1月30日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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● DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引 American Psychiatric Association
高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳 1994 医学書院
● あなたにもできるデータの処理と解析 岩渕千明編著 1997 福村出版
● 俺ルール ~自閉は急に止まれない~ ニキリンコ 2005 花風社
● 自閉症だった私へ ドナ・ウィリアムズ 2000 新潮社
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
想像力、という言葉は、
心理臨床にかかわらず、
多くのヒューマンサービスにおいて、
キーワードとなる概念だと思います。
心理療法の多くも、
想像力の働きなくしては、
その効果を発揮することができません。
逆に、想像力がまったく関与しない
心理療法というものは、
面白いテーマですが、実際には考えにくいですね。
どんな時代にも、
その時代の視野を大きく変えるような、
”異文化体験”が求められます。
20世紀初頭には、
それが西洋文明から遠く離れた地域の、
人々の暮らしでした。
フロイトの精神分析学にはじまる、
力動的精神医学の潮流も、
その意味で、非常に大きな”異文化体験”
から、人間について学ぶことだったということができます。
想像できる範囲が広がるということは、
自分の生きている世界が広がるということでもあります。
心理学を学ぶからには、
すこしずつでも、想像力の及ぶ範囲を広げたいものです。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
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※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
2007年1月9日火曜日
【Clip!アカデミー】第67回:問題号「心の未知の側面と取り組む」
【Clip! アカデミー】 第67回 2006/1/9
第2週 問題号「心の未知の側面と取り組む」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
1)【前回のまとめ】
2)【それでは問題です】
【Q1】心理学モデルについての問題
【Q2】事例と理論についての問題
【Q3】想像力に関する問題
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
==================================================================
○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
◆ 【Clip!アカデミー】は、
心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
無料心理学メールマガジンです。
■ 基本サイクル ■
第1週「エッセイ号」…問題提起
↓
※【今回はこちら!】 第2週「問題号」…練習問題
↓
第3週「解説号」…確認とフィードバック
↓
第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
↓
■ 第2サイクルへ続く ■
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
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【Clip!勉強会のお知らせ】
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●心理学やその周辺状況について、熱く語りたい方
●大学院でのディスカッションに飽き足らない方、
●ディスカッションしようにも、そもそも周りに相手が見つからない方。
【Clip!アカデミー】では、
現在勉強会を行っています。
心理学史や研究法など、
心理学の基礎的な文献を読みながら、
重要なトピックについてディスカッションするものです。
もしかしたら、それを元に、
メールマガジンを配信することになるかもしれません。
Clip!アカデミー事務局までご連絡下さい。
↓ご連絡はこちら↓
clip-academy@clinicalpsychology.jp
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1)【前回のまとめ】
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心の実践図(仮)
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●論理・科学→「語りえないもの」を「(仮に)語りえるものとみなして語る」
●物語・文学→「語りえないもの」を「語らないまま語ろうとする」
●宗教 →「語りえないもの」を「“語られたもの”として信じる」
●芸術 →「語りえないもの」を「語らないまま表現する」
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心の実践図2(仮)
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○「語りえないもの」に対する実践
●物語・文学→「語らないまま語ろうとする」
●宗教 →「“語られたもの”として信じる」
●芸術 →「語らないまま表現する」
↓
○実践を自覚・検証・修正する手段
●論理・科学→「(仮に)語りえるものとみなして語る」
↓
◎心理学的実践=心理臨床
====================================
現在、「語りえないもの」(=心の未知の側面)
からの検討を行っています。
第3回目のエッセイ号となった前回は、
検討のそうまとめとして、
「語りえないもの」との取り組みとしての心理臨床実践について、
その限界と行く末について検討していきました。
「人の心を理解する学問」というイメージで
語られることの多い心理学、
特にその中でも臨床心理学が、
果たして実際に、「人の心」=ここでは他人の気持ちを、
説明することが出来るのか。
それは、突き詰めていくと、
否、という答えしか出てきません。
そして、心理臨床家は「人の心を理解」できるか、
という地点まで行くと、
答えはグレーゾーンへと突入していきます。
答えはNoでもあり、Yesでもある。
どこまで行っても、
心理学を用いて人の心を理解することはできないでしょう。
それは、どんなに度の強いメガネをかけても、
そのせいで外国語の本の内容を理解できるようには
ならない、ということです。
心理学は心を日常とは違った角度から見るための道具であり、
最終的に、人の心について、
それまでとは異なる視野を与えるのは、
本人の想像力なのではないか。
その意味では、
用いる道具が違うだけで、
他の職業やアプローチとなんら変わるところはない。
そこでようやく、
「それでは、他のアプローチとは異なる、
心理学にしか見えない景色とはどんなものか」
という問いを考えることができそうです。
以上が、前回の趣旨でした。
今回は、上述のエッセイ号の細部について、
より詳細な議論を進めていくための補足問題です。
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2)【それでは問題です】
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【Q1】心理学モデルについての問題
心理学において、ある現象の因果関係を説明するモデルを
構築するためによく用いられる統計的手法として、
もっとも適当なものを、
以下の選択肢からひとつ選びなさい。
====選択肢=====
a. 因子分析
b. パス解析
c. 重回帰分析
d. 共分散構造解析
============
【Q2】事例と理論についての問題
ある人が、パートナーから
「逃げようと思えば逃げられるのに、逃げようとしない」場面を、
心理学理論から説明するとしたら、
もっとも適当でないものは、どれか。
以下の選択肢から1つ選びなさい。
=======選択肢========
a. オペラント条件付けが生じている
b. ダブルバインド状況にある
c. 内的要因に原因帰属させている
d. 共依存が生じている
==================
【Q3】想像力に関する問題
自閉症スペクトラムの特徴として、
「社会性」「コミュニケーション」
「想像力とそれにともなう行動」の3つ組み
の障害が強調される。
ここでいう「想像力」の障害とは、
どのような意味か。
以下の選択肢から、もっとも不適切な
ものをひとつ選びなさい。
========選択肢=========
a. 他人の気持ちを推測することが難しい
b. 想像する能力の欠如
c. 反復的で常同的な行動へのこだわり
d. 興味や行動の限局
====================
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【次回配信】
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次回 【解説号】… 1月16日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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● DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引 American Psychiatric Association
高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳 1994 医学書院
● あなたにもできるデータの処理と解析 岩渕千明編著 1997 福村出版
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【編集後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
前回エッセイ号で扱っている事柄は、
当たり前といえば当たり前のことがらです。
ただ、実践を通さずに理論や知識だけから
同様の結果を導き出そうとすると、
前回のような回りくどい話になります。
その意味で、実践の持つ性質を、
よく表しているといえるかもしれません。
ただ、ここでいう実践とは、
特別高度な経験、特別な体験を指している
わけではありません。
他人の気持ちを理解しようとすることは、
我々が日々行っている実践の最たるものです。
自分が生きている日常の中の「当たり前」。
そこにきちんとつなげていくことが、
専門性を日常に役立てるための重要な仕事
であるように思います。
====================================================================
送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
2007年1月2日火曜日
【Clip! アカデミー】第66回:エッセイ号「心の未知の側面に触れること
【Clip! アカデミー】 第66回 2007/1/2
第1週 エッセイ号「心の未知の側面に触れること」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
1)【前回のまとめ】
2)【臨床心理学によって、人の心が理解できるか】
3)【理解への欲求】
4)【心理学の捉え方】
5)【研究のためのモデル】
6)【観察するためのモデル】
7)【心理臨床家は人の心が分かるか】
8)【想像力】
9)【心を理解するための労力】
10)【最後に言いたいこと】
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
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○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
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■ 基本サイクル ■
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■ 第2サイクルへ続く ■
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1)【前回のまとめ】
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心の実践図(仮)
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●論理・科学→「語りえないもの」を「(仮に)語りえるものとみなして語る」
●物語・文学→「語りえないもの」を「語らないまま語ろうとする」
●宗教 →「語りえないもの」を「“語られたもの”として信じる」
●芸術 →「語りえないもの」を「語らないまま表現する」
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心の実践図2(仮)
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○「語りえないもの」に対する実践
●物語・文学→「語らないまま語ろうとする」
●宗教 →「“語られたもの”として信じる」
●芸術 →「語らないまま表現する」
↓
○実践を自覚・検証・修正する手段
●論理・科学→「(仮に)語りえるものとみなして語る」
↓
◎心理学的実践=心理臨床
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心の実践図の検討では、
「語りえないもの」を捉えるには、
論理ではなく、実践によるしかない、
という観点から、心理臨床実践について検討してきました。
その結果、心理臨床と、物語や芸術、宗教といった、
「語りえないもの」に対する取り組み方との違いを、
実践を科学によって自覚し、検証し、修正する態度に見出すことができました。
今回は、第3回目の検討として、
“こころ”を捉える上での、
臨床心理学の限界について考えて行きましょう。
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2)【臨床心理学によって、人の心が理解できるか】
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これまでの検討の中で、
心の未知の側面=「語りえないもの」を捉えるには、
論理よりも、実践が効果的であるということが、
分かってきました。
そして、心理学的実践においては、
自らの実践を科学的に自覚し、検証し、修正する
枠組みを持っているところに
特徴があるという結論に至りました。
しかし、臨床心理学においても、
科学的枠組みは、単に実践の補助だけでなく、
研究によってモデルを構築し、その一般化を図るという、
学問本来のあり方も重要視されています。
ここでは、実践を自覚する、
という科学的視点が重要な意味を持ってきます。
文学や芸術に必要なのは非凡な直観であり、
端的に言えば、自らが実践していることを、
理解している必要はなかったのです。
しかし、心理学的実践である、
心理臨床は、科学的な実践である以上、
その実践の理解を必要とするはずです。
つまり、
臨床心理学によって、人の心を理解できるか
という問題が出てくることになります。
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3)【理解への欲求】
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そもそも、現代において、
なぜ心理学がこのような関心を集めているのか。
それは、心理学によって人の心を理解できる、
と期待するから、ではないでしょうか。
ここでの「人の心」とは、
簡単にいうと他人の気持ちといっていいでしょう。
●なぜ不可解な殺人が起こるのか。
●なぜ彼氏は彼女を愛しているのに邪険に扱うのか。
●なぜ自分はこんなにつらい思いをしなければならないのか…。
挙げだしたらキリがないくらい、
我々は「なぜ」をたくさん持っています。
皆さんもおそらく、
自分だけの「なぜ」をたくさん持っているでしょう。
でなければ、心理学に関心を持つことは
少ないだろうと思います。
そして、その答えは、
結局は人の心の不可解さ、理解しがたさ、という点に集約され、
謎というベールによって、我々から隔てられている、
と感じられる。
それに妥当な答えを与えれくれそうに見えるのが、
昔であれば文学であったり、今であれば、
心理学であったりするわけです。
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4)【心理学の捉え方】
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それでは、心理学は、人の心を、
どのように捉えようとするのでしょうか。
今回はじめてご覧になった方でなければ、
皆さんは、本メルマガが、
このテーマを繰り返し様々な角度から取り扱ってきたことを、
ご存知だと思います。
ここでは、現在の心理学の主流になりつつある、
認知的な捉え方に従いたいと思います。
認知心理学が捉えようとするもの。
それは、心の模型=モデルですね。
模型を作って見せて、
「心ってこんなものではないか」ということ。
たとえば“記憶”は、
パソコンのハードディスク上の、
データのようなものではないか、
と仮に考えてみることにするわけです。
ただし、心理学における模型も、
それを設計図にして実物を再現できるくらい、
具体的なものである必要があります。
そこで、心理尺度によって潜在因子を探し出し、
因子同士の関係性を探る中で、
最終的に因果関係を説明できるモデルを作り出す、
という手続きが一般的にとられています。
とても、心全体についての模型を
一人で作ることはできそうにない。
だからそのために、
日々の研究においては、
心理学者は、“こころ”そのものではなく、
記憶や感情といった、全体を構成するであろう、
重要な一部分についてのモデルを検証することに力を注ぎます。
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5)【研究のためのモデル】
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こうして、日夜様々な心理尺度が構成され、
心理学モデルが提唱されていますが、
これは、人の心を理解した、ということになるのでしょうか。
重要な点でありながら、
誤解されていることが多いのは、
基礎心理学における心理学モデルは、
あくまで研究のための模型だ、という点です。
少し意地悪な言い方を許してもらえるならば、
それは、
カエルの神経のホルマリン漬け、
のさらに模型
のようなものなのです。
つまり、心がどういうつくりになっているのか。
たとえば「注意力」は、
ブロードベンドのフィルター仮説においては、
こう説明されています。
外界からの情報を取捨選択するための「フィルター」
を想定することで、カクテルパーティー効果といった、
注意を向けた音だけが鮮明に聞こえる、という現象を説明できる。
カエルの全身の神経がホルマリンに浮いている様子は、
子ども心には強烈な印象を与えますが、
それはさておき、
模型を作ってみることで、注意力という現象を、
様々な角度から観察し、研究することができます。
しかし、それによって、ここで検討している「なぜ」を
理解することはできるでしょうか。
役に立たないというよりも、
そもそも目的が異なるのだ、
という点に注意する必要があります。
つまり、基礎心理学による研究の積み重ねは、
そのままで実践に適用するというより、
応用のための土台として用いるためのものなのです。
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6)【観察するためのモデル】
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それでは、臨床心理学におけるモデル
ならば、「なぜ」を理解することができるのでしょうか。
我々は核心に近づきつつありますが、
答えはここでもNoでしょう。
心理学モデルである以上、
基礎心理学であろうと、臨床心理学であろうと、
条件も限界も変わらないはずです。
たとえば、セリグマンの
学習性無力感というモデルを見てみましょう。
自分の努力と不幸な結果が無関係であること(随伴性の欠如)を
学習してしまうと、
何をしても無駄だ、という無力感を生じ、
抑うつ状態の形成につながる。
なにをしても逃げられないようにして、
犬に電気ショックを与え続ける。
すると、逃げられるようにしても、
犬は電気ショックから逃げないようになる。
自分の努力はすべて無駄だ、
と考えるようになるというのです。
ずいぶん残酷な実験ですね。
ここから、
人間におけるある種の抑うつ状態の形成にも、
学習性無力感が関与している、
というモデルを作ることが出来ます。
こうしたモデルの利点は何でしょうか。
それは、現象を違った観点から見ることが出来る、
という点にあるでしょう。
DV(domestic violence)を夫から受ける女性が、
逃げようと思えば逃げられるのに、
いつまでたっても逃げようとしないのは不可解です。
しかし、学習性無力感というモデルから見ると、
そこに、一定の理屈を見ることが出来るのです。
つまり、ここでは、
心理学モデルは研究のための道具ではなくて、
相手を観察するための道具として用いられているのです。
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7)【心理臨床家は人の心が分かるか】
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ここまでくると、
なんだか、「なぜ」といいたくなる、
人の心の不可解さ、を少し理解したような気分になりますね。
これが、心理学を勉強するということなのか、
と思われた方も多いのではないでしょうか。
さて、ここで、くどいようですが、
もう一度繰り返します。
●…だからといって、心理臨床家が、
人の心を理解できる、といえるか。
これも、あえてNoと言いたいと思います。
学習性無力感についてなら、
書店に出かけてモノの本を読めば、
いくらでも書いてあるでしょう。
しかし、そうした心理学モデルで、
人の心を理解できる、という発想は、
少なくとも心理学者に許されるものではない。
おそらく文献の著者も、
その辺は厳しく区別しているはずです。
あくまで“それ”は、
死んだカエルの模型に過ぎないからです。
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8)【想像力】
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しかし、この辺まで来ると、
果たして本当にNoなのか?
というモヤモヤが出てきている人が多いのでは
ないでしょうか。
特に、DVの女性の話など、
なぜだろう、と不可解に思ったとところで、
学習性無力感の話が出てくると、
なるほど、と納得させられるところがあります。
これはなぜでしょうか。
DVを受けている女性が逃げない心情を
一瞬想像できたからではないでしょうか。
異なる視点から見ることで、
不可解だった世界の中での他者の気持ちを想像する。
ここまできて、はじめて、
相手の心についての理解の糸口が見えてきたようです。
そう、想像力。
一般と異なる角度から現象を見る中で、
相手の世界、気持ちを、それまでとは違った形で想像すること
ができるようになったということです。
もし、ある心理臨床家が人の心を理解できるとしたら、
おそらくそれは、こうした想像を繰り返しする中で、
相手の世界を、様々な角度から違った形で想像することが、
できるようになったということでしょう。
それでも、あくまで相手の世界、気持ちを理解する、
糸口に過ぎませんが。
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9)【心を理解するための労力】
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そして、ここまでくると、その理解は、
心理学のおかげ、とは言えないことが分かります。
というのは、こうした理解は、
真剣に相手の気持ちを理解しようと
想像力を働かせ続けてきた人々の理解と、
ほとんど変わらないものだからです。
一流の作家、芸術家、宗教家、ほかにも、
一流の営業マン、教師、医者…。
異なるのは、道具や角度。
実際、現象や相手を見る角度や、道具は、
心理学モデルでなくても全く構わない。
つまり、心理臨床家が
相手の気持ちを理解するために行っていることは、
他の人間の営みと全く変わるところがない。
心理学によって、
魔法のように引っかかっていた「なぜ」が分かる、
ということはないということです。
心理学によって他人の心を理解するために必要な労力は、
日常において必要とする労力と、
まったく変わらないということになります。
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10)【最後に言いたいこと】
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つまり、臨床心理学によって人の心は分からない。
人の心を理解するのは、人の心だということ。
人の心を理解するための苦労は、
心理学を用いてもまったく軽減されない。
しかし、文学によってしか捉えられない人間理解があるように、
心理学によってしか見ることが出来ない角度というものが
あるのではないでしょうか。
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【次回配信】
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次回 【問題号】… 1月9日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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● 新訂 方法としての面接-臨床家のために 土居健郎 1992 医学書院
● 心理臨床大辞典[改訂版] 氏原寛 亀口憲治 成田義弘 東山紘久
山中康弘 共編 2004 培風館
● 新版 心理臨床家の手引 鑪 幹八郎 名島 潤慈 編 2000 誠信書房
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【編集後記】
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ここで言いたいことは、とてもシンプルです。
心理学を学んだだけでは、
コミュニケーション能力や思いやりや、
共感能力は身に付かない、ということです。
特に、文献の上では難しいでしょう。
ただし、想像力だけで様々なことに気づいていくことが
出来る人も、中にはいるかもしれません。
逆に、心理学を学んでいなくても、
コミュニケーションのセンスがいい人というのは、
想像力によって学びを積み重ねていける人なのだと思います。
人付き合いが苦手だとか、
会社勤めが嫌だから、という理由で
心理学の世界に飛び込もうとしている人は、
もう一度考えてみてください。
何かから目をそむけていませんか?
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
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