【Clip! アカデミー】 第11回2005/07/26
第2週 問題号「心の流れを追う 」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
●再度【アンケートのお願い】
1)【前回のまとめ】
2)【それでは問題です】
【Q1】“身体”の側面に関する問題
【Q2】“知覚”の側面に関する問題
【Q3】“認知過程”の側面に関する問題
【Q4】“意識”の側面に関する問題
【Q5】“行動”の側面に関する問題
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
====================================================================
○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
■ 基本サイクル ■
第1週「エッセイ号」…問題提起
↓
※【今回はこちら!】 第2週「問題号」…練習問題
↓
第3週「解説号」…確認とフィードバック
↓
第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
↓
■ 第2サイクルへ続く ■
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
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1) 【前回のまとめ】
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前回は、心を捉える新しい図式として、
心を「流れ」として見る試みを行いました。
心的プロセスを具体的に追って行くために、
ある日Aさんの日常のヒトコマにご登場頂きました。
【7月19日のAさんの日記 ※一部抜粋】
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
| 「朝、道を歩いていると、 |
| 通りの向こうに、 |
| Bさんが歩いているのが見えた。 |
| |
| とっさに顔を伏せたくなったが、 |
| 思いなおして、軽く会釈した。」 |
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
┌―――――――┐
|物理エネルギー| 「朝、道を歩いていると、
└―――――――┘
---------
●感覚刺激の符号化 ↓
---------
------
●知覚の成立 ↓ 通りの向こうに、
------ Bさんが歩いているのが見えた。
-----
●状況判断 ↓
-----
-------
●自我防衛機制 ↓ とっさに顔を伏せたくなったが、
-------
-------
●総合的な判断 ↓ 思いなおして、軽く会釈した。」
-------
----- ┌――┐
●軽く会釈 ←→ |他者|
----- └――┘
このような比較から、
以下のような図式を得たのでした。
● 心の過程図(仮)
┌――――――――┐
|物理的エネルギー|
└――――――――┘
↓
┌--------------------------┐
|身体|→|知覚|→|認知過程|→|潜在意識|→|意識|
└--------------------------┘
↓
┌――┐
|行動|
└――┘
さて、今回は問題号です。
前回の流れを少し捕捉できるような問題を用意しました。
ちなみに、
皆さんは、問題を解くとき、
出題者の意図というものを、考えてみることがありますか。
例えばClip!アカデミーで言えば、
毎回5問の出題です。
5問の中で、何をしたいのか。
ここに、毎回苦しみつつ問題を作成しています。
問題を、どういう意図で作っているかにも
気を配りながら解いてみてください。
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2)【それでは問題です。】
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【Q1】”身体”の側面に関する問題
感覚モダリティに関する文章について、
以下の選択肢から、不適切なものを選びなさい。
============================選択肢============================
a. 感覚のモダリティは、ヘルムホルツが提唱した概念である。
b. 同じモダリティに属する感覚は、質的に連続である。
c. 異なるモダリティが連続して体験される共感覚は、
条件付けで生じる。
d. 感覚をモダリティで分類すると、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、
皮膚感覚、運動感覚、平衡感覚、内臓感覚などに分けられる。
==============================================================
【Q2】”知覚”の側面に関する問題
モジュールは、独立して働く情報処理の単位。
我々の知覚を成立させている情報処理過程の少なくとも一部は、
高度にモジュール化されていると考えられます。
複雑な情報処理が、複数のモジュールによる
多重構造から生じているとすると、
一部が損傷しても全体の機能が止まることはないという利点が挙げられます。
以上のようなモジュールを考えたとき、
不必要と考えられる特徴を以下から選びなさい。
=============選択肢=============
a.強制的で高速
b.記憶の参照を必要とする
c.領域固有的に働く
d.他のモジュールと干渉しない
===============================
【Q3】”認知過程”の側面に関する問題
以下に、カクテルパーティー効果のような
選択的注意に関する説明文があります。
(A)~(C)の空白に入る、適切な語句の組み合わせを
選択肢から答えなさい。
● ブロードベンドは、(A)が多くの情報から
一部を選別する機能を(B)と考え、
選別された情報のみが中枢で処理されると考えた。
…これを(A)モデルという。
● これに対し、トレイスマンは、
(B)の関与しない情報も、弱められるが中枢に送られることで、
自分の名前など重要な情報の場合、それに気づくことが出来るとした。
…これを(C)説という。
==================選択肢=================
(A) (B) (C)
a. 注意 刺激の減衰 フィルター
b. フィルター 注意 刺激の減衰
c. 注意 フィルター 刺激の減衰
=========================================
【Q4】”意識”の側面に関する問題
【哲学的ゾンビ】
「我々と同じように振るまい、同じように感情を表現し、
同じ知能を持つように見えるが、
我々のような意識や主体だけが存在しない仮想的存在。」
このような存在を想定することから、何が分かるでしょうか。
以下の選択肢から、もっとも適切なものを選びなさい。
===========================選択肢===========================
a.他人に意識があるかどうかを客観的に証明することは出来ない。
b.哲学的ゾンビを作り出すような大脳の損傷部位から、
意識の座を脳の機能として証明することが出来る。
c.哲学的ゾンビは存在しない。
============================================================
【Q5】”行動”の側面に関する問題
運動を引き起こす筋や腺は、効果器と呼ばれます。
効果器への神経経路を示した以下の図のうち、
空白を埋める語句の適切な組み合わせを、以下の選択肢から答えなさい。
中枢神経系→脊椎前柱→体性運動ニューロン→(1)→(2)運動(オペラント反応)
→交感神経幹・神経節→自律性運動ニューロン→(3)・(4)→(5)運動
(3)は、内臓を構成し、(4)は、外分泌(涙や汗)、
内分泌(各種ホルモン)を行う。
A 随意 B 腺 C 骨格筋 D 平滑筋 E 不随意
===============選択肢=============
(1)(2)(3)(4)(5)
a. B C D E A
b. D E B C A
c. D A C B E
d. C A D B E
=================================
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【次回配信】
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次回 【解説号】… 8月2日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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● 現代心理学〈理論〉事典 2001 中島義明 編 朝倉書店
● 心理用語の基礎知識 東洋・大山正・詫摩武俊 他 1973 有斐閣
● キーワードコレクション 心理学 重野純 1994 新曜社
● 脳内現象〈私〉はいかに創られるか 2004 茂木健一郎
日本放送出版協会
● 認知心理学を知る 第3版 1987 市川伸一 伊東裕司 編著
ブレーン出版
● 自分を知り、自分を変える―適応的無意識の心理学 2005
ティモシー・ウィルソン 著村田 光二 訳 新曜社
● 意識の神経哲学 2004 河村 次郎 著 萌書房
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【編集後記】
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前回、アンケートにご回答くださった方々、ありがとうございました。
おかげさまで多くの方々にご協力いただいています。
やはり、バーチャル指定校入試が人気のようですね。
模擬面接が含まれたものは、
これまで類を見ないものだと思います。
ご要望がおおければ、実施していきたいと思っています。
アンケートはまだ継続していますので、
選択肢以外にも、
こんなのがあったらいいなと思うけど、
どこにもない、というアイデアがあったら
どんどんお寄せください。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
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2005年7月26日火曜日
【Clip!アカデミー】第11回:問題号「心の流れを追う」
2005年7月19日火曜日
【Clip!アカデミー】第10回:エッセイ号「心の流れを追う」
【Clip! アカデミー】 第10回2005/07/19
第1週 エッセイ号「心の流れを追う」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
【セミナー企画アンケートのお願い】
1)【前回のまとめ】
2)【7月19日のAさんの日記から】
3)【「朝、道を歩いていると、」】
4)【「通りの向こうに、
Bさんが歩いているのが見えた。」】
5)【「とっさに顔を伏せたくなったが、
思いなおして、軽く会釈した。」】
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
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○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
■ 基本サイクル ■
※【今回はこちら!】第1週「エッセイ号」…問題提起
↓
第2週「問題号」…練習問題
↓
第3週「解説号」…確認とフィードバック
↓
第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
↓
■ 第2サイクルへ続く ■
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
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1) 【前回のまとめ】
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今回のエッセイ号からは、
今までの“心の構造図(仮)”に続いて、
新しい図式を検討していきましょう。
前回までのサイクルでは、
心を静的な(スタティックな)構造として、
心理学がどのように捉えてきたのか、を見てきました。
我々は、手にとって確かめられるものを好みます。
目で見るときも、輪郭をつかめるものを探してしまいます。
環境において変わらないものを不変項といいますが、
不変項の探索は、我々の認知の特徴といえそうです。
図式化を始め、あらゆるものに構造を見ようとする態度は、
こうした人間の認知の特徴とよくマッチするので、
理解を促進してくれます。
しかし、
シャーロック・ホームズを代表とするミステリー小説の探偵たちは、
むしろ、目に見えないものを、その場に欠けているモノを
感じ取ろうとします。
図式化することで欠落するもの、
それは、動的な(ダイナミックな)プロセスです。
「流れ」や「働き」、といってもいいでしょう。
それは、我々を常に取り巻いていて、
我々もそれを利用して生きているにもかかわらず、
それと意識しづらいものです。
水の流れを手でつかむことは出来ないし、
生きている人間の人生を、生のまま分析の対象にすることは不可能です。
天気予報にしても、しばしば外れることがある。
天候を決めているのが、
地球を覆っている複雑な空気の流れだからです。
しかし、
こうしてみると、我々が知りたい、理解したい大切なものとは、
多くがこうした“流れ”としての性質を持っていることに気づくでしょう。
心理学の対象になる心の側面も、
実際に存在するのは、多くの場合“認知システム”ではなくて、
ダイナミックな情報処理のプロセスです。
それも、ベルトコンベアーのような単一のプロセスではなく、
ひとときも止まることなく進行する、
無数のプロセスの流れであるといえるでしょう。
そこで今回は、
また例によってひとつのシュチュエーションを設定して、
こうした“流れ”としての、心の各側面の図式化を試みましょう。
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2)【7月19日のAさんの日記から】
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【7月19日のAさんの日記 ※一部抜粋】
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
| 「朝、道を歩いていると、 |
| 通りの向こうに、 |
| Bさんが歩いているのが見えた。 |
| |
| とっさに顔を伏せたくなったが、 |
| 思いなおして、軽く会釈した。」 |
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
上記の文章は、Aさんの日記を抜粋して、一部拝借したものです。
ここから、Aさんの日記にあった朝、
Aさんの心の中では、何が起こっていたのかを、
おおざっぱに、なぞってみましょう。
流れは、目に見えません。
しかし、だからこそ、想像力が必要です。
断片的な情報から、全体を想像しようとすること。
陶器の破片から、古代文明に思いをはせる考古学者のように、
我々は、我々自身の心の流れに思いをはせてみましょう。
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3)【「朝、道を歩いていると、」】
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通勤の途中でしょうか、それとも逆に朝帰りかもしれません。
考え事をしているのか、
それとも半分眠りながら歩いているのか。
いずれにしても我々は、
瞬間瞬間に、周囲の状況を判断する必要があります。
そのための第一歩が、感覚器による物理的エネルギーの感知から始まります。
太陽からふりそそぐ朝の光は、
周囲にあるもの、アスファルト、街路樹、自動車、歩行者、ビルなど、
あらゆるものに反射して、目の網膜に投影されます。
物体の移動などによって空気が振動すると、
それは音波として耳の鼓膜を震わせることになります。
五感のほかにも我々は、
圧力・振動・温度、痛みやかゆみ、平衡感覚や内臓感覚など、
周囲や体内に関する多くの感覚を感知するための受容体を
発達させてきました。
すべてを追うことは出来ないので、
ここでは、もっとも研究が進んでいるといわれる視覚を中心に、
もう少し流れを追ってみましょう。
網膜に映った光は、視神経を通して電気信号に変換されます。
┌―――――――┐ --------------------
|物理エネルギー| → ●感覚刺激の符号化(コーディング) →
└―――――――┘ --------------------
心理学においては、
この時点では、まだ「朝の街」という状況には至っていないと考えます。
網膜に映って、感覚情報に変換された映像は、
パソコンの画面と同じようなものです。
神経を伝わる情報は、
おおざっぱにいうと、「…00100001001111110010000100…」
のようなものです。
これだけでは何の意味もありません。
しかし、我々が見ている世界は、
我々に多くの情報を示しています。
これはなぜでしょう。
たとえば、先ほどの数列を、以下のように並べてあげると、
00100
00100
11111
00100
00100
我々には、たとえば白地に黒いバッテンとか、
そういったパターンを認めることが出来ます。
ここには、網膜から挙がってきた無意味な刺激から、
我々が生きている世界についての映像を作り出すプロセスが
存在しているのです。
大脳に送られた視覚情報は、視覚野によって、
→色や形態、
→動きや位置
の二つのまとまりに分かれつつ、それぞれ別々に処理されます。
近年では、こうした固有の処理だけを担当するプロセスの存在が、
認められつつあります。
会社でいえば、
仕事をするために必要な要素のうち、
マニュアル化できる繰り返しの部分を
専門の部署として独立させているようなものです。
こうしたプロセスは、
家を建てるときのレンガにもたとえられます。
ひとつのレンガは、いつも同じ情報を同じように処理している
単純な処理プロセスと考えられます。
レンガのひとつひとつが、それぞれ別の情報を処理しており、
それらの情報処理の結果の上に、
家という高度の情報処理が成立している、という考え方です。
たとえば、動き。
パラパラ漫画をすばやくめくるとキャラクターが動いて見えるのは、
視神経がそこに動きを見出す(検出する)
ためであることがわかっています。
めくるスピードが遅いと、動いて見えません。
脳が動きとして認めないためです。
あるいは、奥行き。
様々な手がかりから、感じられるはずの奥行きを計算し、
復元している過程が存在していると考えられます。
だから、この過程をうまくだませば、
飛び出す絵本や3Dステレオグラムのように、
存在しない奥行きを作り出すことが出来ます。
もちろん、ビデオカメラの手ぶれ防止機能に似た処理も存在します。
視界がいつも安定して見えるよう、
修正が行われるのです(知覚の恒常性)。
色(街路樹の緑のコントラスト、朝日の照り返し、
学生の白いシャツに、黒いズボン、OLの水色のパンプス、アスファルト…)
形(ビルの直線的な輪郭、街路樹の曲線、横断歩道のシマシマ模様…)
こうした情報が、
奥行きに関する手がかりや、目の前を流れていく風景の流れ、
動きなどの情報、他の感覚器からの情報とすりあわされ、
矛盾のないように統合されていきます。
こうした無数の加工、複数の処理が統合されることではじめて、
「朝、道を歩いている」という知覚、
Aさんが見ている世界、が立ち上がってくるのだと考えられます。
こうした知覚はもともと
「そういうもの(アプリオリ)」として存在するのではなく、
脳が、バラして、別々に処理して、あとで統合する、
という、手間のかかる方式を、選択したために存在している。
こうした考えは、
人類史上でもかなり最近のことであり、
驚くべきことです。
そして、かなり手間のかかるこの統合のプロセスは、
その複雑さから、いまだ最先端の研究者たちの頭を悩ませています。
---------------------
感覚刺激の符号化 → ●知覚の成立 →
---------------------
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4)【「通りの向こうに、Bさんが歩いているのが見えた。」】
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寝ぼけ気味に歩いていたAさんですが、
ここで、遠くにBさんらしき人を発見します。
ここでは何が起こっているのでしょうか。
先ほどの流れに続いて、
検討してみましょう。
ただし、我々がBさんに出会うのは、まだ先のことになりそうです。
知覚はまず、すばやい状況判断のために用いられます。
ここでは、たとえば、自転車や人の流れの予測や、
周囲の人の身なりや表情のチェックなどがあげられます。
遠くから近づいてくる自転車を避けるとき、
我々は、あらかじめ、自転車の進路を大まかに推測しています。
おかしな動きをしているときは注意が喚起され、
より意識的な分析にもとづく、臨機応変な対処をすることができます。
意識的な問題解決は、より詳細で、創造的な解決を必要とする場合に、
効力を発揮します。
カクテルパーティー効果が代表的ですが、
興味のある事柄や、自分の名前などの重要な語句は、
パーティー会場のような騒音の中でも気付くことが出来ます。
Aさんは、ここでBさんらしき人影に目を向けます。
その瞬間、関連する記憶が喚起され、
「!」がAさんの頭の上につきます。
しかし、この時点では、
対象がより詳細な、意識的な注意に足りる、
という判断がなされただけであり、
実際には何が注意をひきつけたのか、
Aさん自身にも分からない、という状況になります。
もしかして、
その人が変わった格好だっただけかもしれないし、
誰かと喧嘩しているのかもしれない、
険しい顔をして、こちらをにらんでいるのかもしれません。
-----------------
知覚の成立 → ●状況判断 →
-----------------
Aさんの目から入った膨大な感覚情報は、
なんらかのフィルターを通過して、
注意を喚起した情報は短期記憶として意識に上ることになります。
その際、
◆ 情報はより詳細に分析されたり、
◆ 「危険なものか無害か」「人間か動物か」「どこを見ているか」
「知っている人か知らない人か」などスキーマに当てはめられたり、
◆ 知っている人の姿勢や外見といった記憶と照合されたり、
といった操作をされながら、繰り返し反復(リハーサル)されています。
このことによって、
短期記憶はより長期的な保存のために必要な形式(心的表象)
に加工されて、長期記憶に送られると考えられています。
Bさんに関する記憶が喚起され、連想や、ふさわしい情動も喚起される
かもしれません。
ここでは、目の前の人物の特徴が比較されて、
Bさんらしいという結論が出たとします。
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5)【「とっさに顔を伏せたくなったが、
思いなおして、軽く会釈した。」】
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Aさんからすると、一瞬に感じられるかもしれませんが(心理的時間)、
実際には、Bさんに関する連想や、情動の喚起から、
すでに様々なプロセスが進行しているでしょう。
「嫌われているかもしれない」とか、
以前の似たような状況であいさつしても、
返事がなかったという経験を想起したりだとか、
Bさんが同郷人で、ケンカ別れして飛び出した田舎のことを思い出したり、
実際にはBさんに会うのはこれで2回目で、
どういう人なのか、まだよく分かっていないとか…。
意識に上らない、様々な考え。
それは、先ほどの流れの一部でありながらも、
神経細胞の発火に還元できない、独自のルールや、
構造を持っているようにみえます。
Aさんの意識が正常に機能するためには、こうした考えを
そのまま意識に昇らせない仕組みがあることが想定されます。
その結果、Aさんの緊張や不安は、
非常に複雑で未分化な感情としてだけ意識に昇るかもしれません。
Aさんはこうした訳のわからない感情に対して、
いつものスタイルによって事態に対処しようとします。
------------------
状況判断 → ●自我防衛機制 →
------------------
Aさんは、ここにいたってようやく、
とっさに顔をふせたくなって、今まさにふせようとしている自分に気づく。
意識は、自分の行動や特性に関して、他人と同程度の情報しか持たず、
外からの原因の推測によって自分の行動に後付けの理由を付けている、
という考え方があります(自己知覚理論)。
例えば、手がひっきりなしに鼻やあご、髪の毛に行くのは、
自己愛撫行動といってストレスのサインであり、
緊張をゆるめようとする行動です。
我々は、自分が自己愛撫行動をくりかえしていることに気づいて、
初めてどれだけ緊張しているかに気づくことがあります。
ここでは、Aさんは自らの行動以外にも、
訳のわからない感情という、Aさんだけが体験している主観的な情報をも、
自分の状態を理解するために利用することが出来ます。
近年の認知研究においては、意識を、
覚醒、アウェアネス、自己意識
の3つに分けて考えることがあります。
Aさんの自分の行動への気づきは、アウェアネスにあたるでしょう。
さて、ここでAさんは、自分の行動をどのように理由付けるでしょうか。
1、「昨日は飲みすぎたから、しんどいな」
2、「やっぱりBさんは好きになれない」
3、「なんであいさつくらいできないんだろう」
行動の原因を、自分の体調のせいにしたり、
相手のせいにしたり、自分の性格のせいにしたり、
様々な理由(原因帰属過程)が考えられます。
このとき、現状や損得や信念(ビリーフシステム)などを総合して、
自分の行動を決断する必要があります。
自分の無意識的な欲求と、意識的な決断が大きくかけ離れている場合、
葛藤が生じるかもしれません。
相手が自分に気づいているかどうか。
気づいているのに、避けていることが分かった場合、
どれくらいの損失になるのか。
自分はこのような状況でどう振舞いたいのか。
------------------
防衛機制 → ●総合的な判断 →
------------------
どんな背景があったにせよ、
Aさんは、Bさんに軽く会釈をするという行動で、
自分の気持ちを示しました。
-------------- ┌――┐
総合的な判断→ ●軽く会釈 ←→ |他者|
-------------- └――┘
このときの、表情や姿勢、タイミングなどの諸要素にも、
ここまでたどってきた心理プロセスは反映されているでしょう。
また、こうした社会的ジェスチャーは、
相手にどういう影響を与えるか、相手との間でどのように調整され、
関係が維持されるか、などのプロセスにつながっていきます。
ここまでの流れを、心の捉え方の各側面に当てはめてみると、
感覚刺激の感知・検出・符号化=「身体」
知覚の成立=「知覚・ゲシュタルト」
状況判断=「認知過程」
自我防衛機制=「潜在意識」
総合的な決断=「意識」
軽く会釈=「行動」
そこから、以下のような図式が導き出せます。
┌――――――――┐
|物理的エネルギー|
└――――――――┘
↓
┌--------------------------┐
|身体|→|知覚|→|認知過程|→|潜在意識|→|意識|
└--------------------------┘
↓
┌――┐
|行動|
└――┘
これを、仮に、「心の機能図(仮)」と呼ぶことにしましょう。
※ 「行動」のあとのプロセスは、
またあとで改めて取り上げたいと思います。
心の流れをたどる旅、お疲れ様です。
さて、我々は、また新しい図式を得ました。
そこで、次回エッセイ号では、またこの図式について、
議論をしていきたいと思います。
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【次回配信】
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次回 【問題号】… 7月26日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】● 著者 出版社 等 確認
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● 現代心理学〈理論〉事典 2001 中島義明 編 朝倉書店
● 心の棲である脳 2001 T.B .チェルナー 著 新井康允 訳
東京図書
● 脳内現象〈私〉はいかに創られるか 2004 茂木健一郎
日本放送出版協会
● 認知心理学を知る 第3版 1987 市川伸一 伊東裕司 編著
ブレーン出版
● 自分を知り、自分を変える―適応的無意識の心理学 2005
ティモシー・ウィルソン 著村田 光二 訳 新曜社
● 意識の神経哲学 2004 河村 次郎 著 萌書房
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【編集後記】
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暑くなってきました。
夏が終わると、もう受験シーズンですね。
そこで、現在企画しているのが、
受験生の皆さんに役立つセミナーです。
どうせなら、皆さんがもっとも参加したい、
と感じるようなものを作りたいので、
Clip!アカデミー読者の皆さんも、ぜひご意見をお寄せくださいね。
コチラ↓
http://k.d.mail-magazine.co.jp/t/k9wv/40vx1sz0d8nhvez218
エッセイ号も、ようやく、新しい図式に入りました。
前回は、”構造”的な側面から捉えたので、
今回は、”過程”的な側面から捉える試みです。
目から光が入って・・・意識的な決断の結果として、
行動を起こすまでの、心理的プロセスを、
追ってみました。
今回の図式も、かなり強引です。
そのまま真に受けてほしくはないのですが、
こうした視点から、
心理的プロセスをイメージしてみる助けにしてもらえればと思います。
細かい突っ込みは、
次回エッセイ号で行っていきましょう。
なお、今回は、現代心理学〈理論〉事典を、
全体のプロセスの下敷きに用いました。
神経科学から、社会的相互作用まで、
現代心理学において論じられている主要な理論が、
よくまとまっていると思います。
入門書にできるほど簡単な内容ではありませんが、
参考や確認には使える文献かもしれません。
おすすめです。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
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2005年7月12日火曜日
◆【Clip!アカデミー特別号】不定期連載「心理”学外”人物伝(第2回)デュルケム」
◆【Clip! アカデミー特別号】2005/07/12
不定期連載「心理“学外”人物伝(第2回)デュルケム」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
1)【心理“学外”人物伝とは】
2)【エミール・デュルケム】
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
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○ ~~~~~~~~~お知らせ~~~~~~~~~~ ○
【Clip!アカデミー特別号】をお送りします。
特別号では、皆さんに役立つ様々な情報を、
今後不定期で発信しています。
配信は、主にアカデミー休刊の、火曜日を予定しています。
【Clip!アカデミー】ともども、
これからもよろしくお願いいたします。
Clip!アカデミー事務局一同
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1)【心理“学外”人物伝とは】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
哲学、文化人類学、社会学…などなど、心理学に大きな影響を与えた巨人を、
心理学の“外”からピックアップして読者の皆さんにご紹介するコーナー
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【心理“学外”人物伝】第1回 デカルト はこちら↓
http://k.d.mail-magazine.co.jp/t/k9wv/40goqrz0d8eo8rxcac
● 心理学そのものより、関連分野こそ、ガイドを必要とする分野です。
● ここであげる人々や、彼らの代表する学問全てについて、
知識を深める必要はありません。
● ただ、ひとりでも関心を持った人がいれば、
その分野を読み進め、自分の世界を広げてみてください。
● 自然科学、人文科学の区別はさておき、
外にひとつでもお気に入りの学問を持つことで、
心理学をまた新しい視点から見ることが出来るようになるでしょう。
特別号今回の 心理“学外”人物 は、
社会学界の巨人エミール・デュルケムです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2)エミール・デュルケム(Durkheim, 1858-1917) 【社会学】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
かつての世界観が、
神の存在を絶対視する単一の価値観から成るものであったことは
既に第1回目の心理“学外”人物伝で述べた。
そうした価値観が、教会の根強い支配により、まだ続いていた頃
デュルケムが生まれる少し前から自殺率が急激な上昇を見せ始めていた。
そのような社会的事象に対し、
集団単位で客観的かつ実証的な分析を始めたのが、
社会学の巨人、デュルケムであった。
エミール・デュルケムは1858年に
北フランスのエピナルのラビ(ユダヤ教の律法学者)の家系に生まれた。
成績は優秀で、コレージュ時代は学年を二つ、飛び級した程であった。
彼は彼の主著である「自殺論」の中で、
自殺をその原因に従って以下の4類型に分けている。
◆ 宿命的自殺‐ 閉鎖感など欲求への過度の抑圧から起こる
◆ 自己本位的自殺‐ 孤独感や焦燥感など
エゴイスティックなものによって起こる
◆ 集団本意的自殺‐ 自殺せざるを得なくなるような
集団の圧力によって起こる
◆ アノミー的自殺‐ 社会的規則・規制がない状態において起こる
特筆すべきは彼の造語であるアノミーという語を用いた
アノミー的自殺であろう。
アノミー(anomie)とは、
規制や規則がなく自由な状態において、
個人が不安定な状況に陥ることを指す。
デュルケムはこれを近代社会の病理とみなし、
自殺率の上昇もこれによって説明した。
即ち、これまでと違い、多くの価値が認められ始めたからこそ人々が迷い、
その結果、自殺が増えたと説いたのである。
このように、自殺率の増加といった現象を、
社会の変動や価値観の変化などといった社会的要因から考察するところに、
社会学の今日的意義がある。
デュルケムは、その中興の祖として、
今でも社会学の学習に不可欠な古典となっているのである。
【デュルケムの主な著作】
●『社会分業論』(1893)
●『社会学的方法の規準』(1895)
●『自殺論』(1897)
●『宗教生活の原初形態』(1912)
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【次回配信日】
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次回、
フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure, 1857- 1913)
【言語学】
※ 特別号のため、心理“学外”人物伝は不定期連載となります。
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【参考文献】
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● 『社会分業論(上)講談社学術文庫』 1989 デュルケム, E. 著
井伊玄太郎 訳 講談社
● 『社会分業論(下)講談社学術文庫』 1989 デュルケム, E. 著
井伊玄太郎 訳 講談社
● 『エミール・デュルケム-社会の道徳的再建と社会学』2001
中島道男 東信堂
● 『自殺論 中公文庫』 1985 宮島喬 中央公論社
● 『デュルケム「自殺論」を読む 岩波セミナーブックス(29)』 1989
宮島喬 岩波書店.
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【編集後記】
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社会現象、という言葉があります。
例えば、「引きこもり」「アダルトチルドレン」「ADHD」などの概念も、
一度マスメディアに載って社会に出回ることによって、
社会現象化していくと考えられます。
「最近“引きこもり”がちでさ」
「おれ“ADHD”だから」
それまで、存在はしていても人の目に触れなかった現象が、
一度名前を与えられることで、周辺的な現象まで含みながら
強烈に意識されるようになっていく。
それは、しばしば、
新しいレッテルになって、いじめや差別につながっていくこともあります。
こうしたレッテル貼りや、差別といった現象も、
社会学者の関心事のひとつです。
しかし、それが個人の身に降りかかったとき、
心理学、特に臨床心理学にとっても大きな関心事になります。
個人の問題にかかわる人間にとって、心理学的な側面だけでなく、
こうした社会学的な側面も、もちろん意識しておく必要があるのだと思います。
コラムの延長のような編集後記になってしまいました。
ただ、この点は、Clip!アカデミーでも大切にしている視点なので、
これからも再三繰り返していきたいと思っています。
不定期ではありますが、
Clip!アカデミーともども、よろしくお願いいたします。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
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2005年7月6日水曜日
【Clip!アカデミー】第9回:解説号「心の構造図を検討する」
【Clip! アカデミー】 第9回2005/07/06
第3週 解説号「心の構造図を検討する」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
1)【前回のまとめ】
2)【問題号の解説】
【Q1】 “身体”の側面に関する問題
【Q2】 “行動”の側面に関する問題
【Q3】 “ゲシュタルト”の側面に関する問題
【Q4】 “潜在意識”の側面に関する問題
【Q5】 “仮説的構成概念”に関する問題
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
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○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
■ 基本サイクル ■
第1週「エッセイ号」…問題提起
↓
第2週「問題号」…練習問題
↓
※【今回はこちら!】 第3週「解説号」…確認とフィードバック
↓
第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
↓
■ 第2サイクルへ続く ■
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1) 【前回のまとめ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本サイクルでは、
全サイクルで心理学における心の捉え方を見渡すために提示した
「心の構造図(仮)」を、検討しなおす、という作業を行っています。
●「心の構造図(仮)」
┏━━┳━━━━━━┳━━━━┳━━━━┳━━━╋━━┓
┃ ┃ | | ┃ ┃ |
┃ ┃ 知覚 | | ┃ ┃ |
┃意識┃ゲシュタルト|潜在意識|認知過程┃身体 ┃行動|
┃ ┃ | | ┃ ┃ |
┃ ┃ | | ┃ ┃ |
┗━━┻━━━━━━┻━━━━┻━━━━┻━━━╋━━┛
ここでは、仮に、心理学における心の捉え方として、
6つの側面をあげています。
前回問題号では、
いつもの心の各側面に関する問題以外に、
「心の構造図」の検討作業に伴って出てきた概念も、
心理学の基礎にかかわるものは、いくつか問題として取り上げています。
前回問題号バックナンバーはこちら↓
【Clip!アカデミー】第8回:問題号「心の構造図を検討する」
http://k.d.mail-magazine.co.jp/t/k9wv/400lbqz0d81u3evuag
初学者の方には、
ちょっと難しい問題もあったのではありませんか?
本メルマガの問題は、
問題をきっかけに、
皆さんの考えを深めてもらうために作られています。
正解不正解にはこだわらず、
興味を持った問題については自分で調べてみたり、
出題者の意図を考えたりしてみてください。
それでは、解説号をお届けします。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2) 【問題号の解説】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【Q1】 “身体”の側面に関する問題
大脳の以下の領域が司るとされる機能の、
正しい組み合わせを述べなさい。
(1) 前頭葉(frontal lobe) (2)頭頂葉(parietal lobe)
(3)側頭葉(temporal lobe) (4)後頭葉(occipital lobe)
A 体性感覚(somatic sensation) B 運動(kinesthesis)
C 聴覚(auditory sensation) D 視覚(visual sensation)
==============選択肢=============
(1) (2) (3) (4)
a. A C B D
b. B A C D
c. B A D C
d. C B A D
================================
【解説】
※大脳の機能的局在に関する問題です。
大脳皮質(cerebral cortex)の中で、もっとも有名?なのは、
前頭葉かもしれません。
前頭連合野は、
意志や計画といった機能も司っていると考えられているからです。
この部位を損傷すると、行動から積極性が失われ、
いつ行うか、やめるか、など行動の計画が立てられなくなる
ともいわれます。
ただ、A~Dの選択肢にはないようですね。
このなかで前頭葉にあるのは、Bの運動野です。
(1)前頭葉 … B 運動
大脳の機能的局在は、
◆ ブローカ(Broca,P.)やヴェルニッケ(Wernicke,C.)らの
失語症(ahasia)研究で有名な、
患者の症状と関連する脳の損傷部位の特定から調べる方法。
◆ ペンフィールド(Penfield,W.)らの、脳の皮質に直接電気刺激を
与えることで、被験者の反応を調べる方法。
◆ fMRI(機能的磁気共鳴画像法)など、
脳の血流量を測定する最新技術を用いて、
特定の活動に対応する部位を特定する方法。
などを通して研究が進められています。
その中でも、後頭葉を中心とした、
視覚関連領域は、よく研究されています。
よって、
(4)後頭葉 … D 視覚
脳や神経系に関する基礎知識は、
「心理用語の基礎知識」14章の「心理学の生理的基礎」
によくまとまっています。
(※ 「心理用語の基礎知識」には現在新版が出ていますが、
ここでは、普及している旧版を挙げておきます。)
とはいえ、
最近は、脳科学について入門書レベルでも
興味深い文献が多く出ています。
それを読みながら、
「心理用語の基礎知識」を知識の確認に使うといいでしょう。
前頭葉の機能から押さえていくと
憶えやすいと思います。
また、はじめは後頭葉=視覚という記憶の仕方でも
いいでしょう。
この問題は、この二つが分かれば、
正解がわかるようになっています。
正解は、
【 b. 】
大脳の機能的局在は、
現在、ニューロンレベルで解明が進められています。
(例えば「おばあちゃん細胞」)
ただ、最近では、単純に機能的局在を明らかにするだけでは、
脳の機能を明らかにすることは出来ない、
とする考え方も多くあります。
【Q2】 “行動”の側面に関する問題
「A男がB子の人形をとって、B子は泣いた」という状況があるとき、
「行動」の側面に注目する考え方としてもっとも適当なものを、
以下の選択肢から選びなさい。
======================選択肢========================
a. A男は、何らかの葛藤を抱えている。
b. A男は、発達障害である。
c. A男は、突然人形をとられたB子の気持ちを
推測できない。
d. A男が、B子の人形をとったことに、意味はない。
e. A男が、今何を感じているかが問題である。
====================================================
【解説】
※ ひとつの状況に関して、心の捉え方によって、
どのような考え方の違いが出てくるか、という問題です。
考え方の違いを強調するためかなり誇張した表現になっています。
いずれエッセイ号で詳しく取り扱いたいと思いますが、
「心の構造図」においてあげている6つの側面から、
この状況を考えてみると以下のようになります。
a. A男は、何らかの葛藤を抱えている。→ 【潜在意識】
b. A男は、発達障害である。→ 【身体】
c. A男は、突然人形をとられたB子の気持ちを
推測できない。→ 【認知過程】
d. A男が、B子の人形をとったことに、意味はない。→ 【行動】
e. A男が、今何を感じているかが問題である。→ 【意識】
よって、
正解は、【 d. 】
「行動」の側面に注目する行動主義では、
行動の背後にあるものについて意味付けをすることを好みません。
そのためここでは、A男の行動は、
単純に自発的に生じた行動
=オペラント行動(operant behavior)と考えられます。
オペラント行動は、
特定の誘発刺激を伴わない行動で、
その結果によって、生起率が変わります。
A男の行動が問題行動であるなら、
その行動を強化している随伴刺激を除去したり、
嫌悪刺激の随伴による抑制を行ったりすることで、
生起率を低下させる手続きをとることができます。
もちろん、同時に適応的な行動の強化も必要です。
例えば、ここが学校で、
A男が教師の注目を求めてB子をいじめるとします。
A男への感情的な注目を避け、
B子に人形を返してあげた瞬間にすかさず誉めることで、
A男の適応的な行動を強化することができます。
こうした考え方の利点は、
A男の内面を問題とすることなく、
A男の行動を扱うことが出来る点です。
A男自身と、A男の行動を切り離して扱うことは、
特に教育の場面では重要になります。
他の側面の選択肢に見られるように、
特に、難しい状況になるほど、
A男の内面を推し量り、
その行動をA男自身に帰属させることは、
状況を悪化させる場合があるためです。
ただし、この問題では、
A男とB子を取り巻く状況、関係についてはなんの情報もありません。
もしかしたらその人形は、
B子がC子から取り上げたものだったかもしれないし、
そもそもA男は30歳の父親で、
おもちゃ売り場でぐずるわが子に手を焼いていたのかもしれません。
行動の意味は、状況によって、
まったく異なったものになってしまいます。
この場合、上の選択肢の中で、
ナンセンスになってしまわないのは、
d.のほかはe.のみです。
現場の状況に心理学を応用しようとするときは、
このような点にも注意が必要です。
【Q3】 “ゲシュタルト”の側面に関する問題
ゲシュタルト心理学では現象学(phenomenology)が重視された。
現象学についての記述のうち、不適切なものを次の選択肢から選びなさい。
=======================選択肢========================
a. 現象学における「現象」は、客観的な実在というより、
意識上の現象のことである。
b. 現象学は、我々が現象についての
一切の判断を停止することによって行われる。
c. 現象学を創始したのはフッサール(Husserl,E.)だが、
学問として体系化したのは
メルロ・ポンティ(Merleau-Ponty,M.)である。
======================================================
【解説】
※ 現象学は、
意識や世界について考えるために哲学が作り出した方法です。
心理学を研究するにあたっても、
意識や世界を考える上での基本的な態度として、
身に着けておく必要のある知識といえるでしょう。
現象学を創始したのは、ドイツの哲学者フッサールです。
フッサールが明らかにしようとしたのは、
我々の認識が、客観的な世界と“どのように”一致するのか、
という点でした。
しかしそこには、今でも多くの人が確信している、
ひとつの前提があります。
我々の外には確固とした客観的な世界があって、
我々が世界について不確かなことしか分からないのは、
単に努力が足りないだけなのだ。
フッサールの現象学は、客観的な世界の認識は、
どこまでいっても原理的に不可能なのだ、
ということを証明することになりました。
哲学は、我々が当たり前と考えていることを、
疑ってみることから始まります。
人間は、普段、目に見えているものが、
客観的に存在しているという前提に立って、毎日を生活している。
しかし、そもそも世界が客観的に存在している、
という我々の確信には、どのような根拠があるのか。
フッサールは、このような問いを考えるため、
一度、世界は客観的に存在している、という我々の側の前提を、
“カッコに入れる”、という作業から始めます。
根拠もわからないままに、素朴に下している判断を、
一時的に保留しておくのです。
これが、判断停止(epoche:エポケー)という、
現象学的還元(phenomenological reduction)のプロセスです。
よって、
【 b. 】は正しい記述。
判断停止によって、客観的な世界は、
とりあえず存在するとは限らないことになります。
あるのは、我々の意識上に現れるものだけです。
フッサールの現象学は、このようにして、
人間が、意識の中に現れた世界についての像だけから、
どのようにして“客観的な世界”という確信を作り上げていくのか、
という過程を検討しようとしたのです。
ここから、
【 a. 】も、正しい記述。
よって、残りの
【 c. 】が正解。
現象学を創始したのはフッサールであって、
メルロ・ポンティがその影響の元に、
身体に関して彼独自の現象学的考察を行ったのは事実です。
しかし、現象学が、彼によって「体系化された」
という記述は不適切といえるでしょう。
ここから先は、興味を持った方が自分で調べてみてください。
ただ、ここまで見てきただけでも、
現象学が、ゲシュタルト心理学に与えた影響は顕著です。
ゲシュタルト心理学においては、
人間の知覚がいかなる仕組みによって構造化されるのかを、
主観的な体験から導き出そうとした点に、
現象学の影響を見ることが出来そうです。
【Q4】 “潜在意識”の側面に関する問題
「潜在意識」の特徴のうち、
もっとも不適切なものを以下の選択肢から選びなさい。
==============================選択肢================================
a. 精神分析など、主に人格理論において仮定される。
b. 意識されない動機として、人間の行動を規定していると考えられる。
c. その構造には、生理学的基盤は想定されない。
d. 催眠状態において、意識水準が低下したとき観察される。
====================================================================
【解説】
※ 初学者の方達は、潜在意識、無意識というと、
反射的にフロイト(Freud,S.)の無意識を思い浮かべるでしょう。
フロイト的無意識は、
長年ここでいう“潜在意識”の側面
において、唯一の存在で在りつづけました。
逆にいうと、こころの潜在意識的側面について、
他の考え方を許さなかった、
という言い方をすることもできます。
そこで、一度そうした認識を
相対化する視点を取り上げてみたく思い、
この問題を載せることにしました。
したがって、問題の正解不正解よりも、
自分の持っている
無意識についての先入観について考えてみてください。
どの選択肢も紛らわしいのですが、
b.の、「意識されない動機」としての無意識は、
フロイト的無意識の重要な特徴です。
それ以外でも、
催眠状態において暗示され、
覚醒した後は忘れるよう指示された行動は、
本人によって、別の理由を与えられることが知られています。
たとえばとなりの女性の肩に手を置く、などの行動は、
催眠状態において暗示されたにもかかわらず、
本人は「悲しそうに見えたから」「ゴミくずがついていたから」等の
理由を挙げます。
また、右半球と左半球が切り離された
分離脳(split brain)の研究においては、
両半球に情報の連絡がないため、
言語野のない右半球の司る行動は、行っている本人にも
理由を答えられない、
という現象が報告されています。
こうした現象も、意識できない動機という点で、
心の潜在意識的側面の存在を示唆しています。
しかし、
その根拠は脳科学や認知科学など、
フロイト的無意識とは異なるところに求められています。
無意識を、単に意識的にアクセスできないだけの、
潜在的な処理システムの集まりであると考えると、
これらの現象はうまく説明できそうです。
実際、無意識の概念は、フロイト以前には、
ライプニッツ(Leibniz,G.W.)やヘルバルト(Herbart,J.F.)ら
19世紀の哲学者によって予感されていますが、
これらはむしろ、
潜在的な処理システムとしての側面に近いようです。
すなわち、潜在意識的側面は、
精神分析的な捉え方によって
心理学の重要な研究テーマとなったのですが、
それ以外にも捉え方が存在するということです。
そして、そうした捉え方は、催眠状態や、脳の働きからも、
アプローチ可能であると考えられます。
フロイトは、無意識を対象とした実証的研究の可能性に
積極的ではありませんでした。
そのため、彼の理論は、ほとんどが臨床的な観察と、
理論的な考察から成り立っています。
それに対して、
こうしたアプローチは、
生理学的基礎に基づく実証的研究の
可能性を示唆しています。
はたして、フロイト的無意識は、
実証的研究から、異なる説明によって代替されうるのか。
あるいは、どこまでが潜在意識的プロセスで、
どこまでが認知過程的プロセスなのか。
この点は、まだ明らかになっていません。
よって、
正解は、【 a. 】
【Q5】 “仮説的構成概念”に関する問題
以下の文章の(1)(2)に当てはまる語句の組み合わせを、
選択肢から選びなさい。
---------------------------------------------------------
仮説的構成概念(hypothetical construct)は、
(1)を検討する必要があるが、(2)と同じように用いられる。
---------------------------------------------------------
A 仲介変数(intervening variable) B 妥当性(validity)
C 剰余意味(surplus meanings)
=========選択肢========
(1) (2)
a. C B
b. B A
c. A C
=======================
【解説】
※ 仮説的構成概念は、心理学では特に問題になります。
議論は尽きず、心理学内部でも立場が分かれますが、
基本的なことは押さえておきましょう。
仮説的構成概念は、
理論的構成概念とも、仮説的構成体とも呼ばれます。
仲介変数とは、仮説的構成概念とほぼ同じ意味ですが、
関数の形であらわされます。
よって、
(2)に入るのは、A 仲介変数
仮説的構成概念は、
観察結果に還元しきれない剰余意味を持つことが特徴です。
前々回エッセイ号「心の構造図」の議論でも
いくつかを取り上げたように、
心理学では、人間の行動の原因に、様々な心理的要因を仮定します。
例えば、成績の良し悪しという観察結果を、
「知能」という言葉で説明しようとする場合がそうです。
こうした心理的要因は、
目に見える、つまり観察可能な行動から推測は出来ても、
観察結果と完全に一致はしません。
知能指数とは、成績の単なる言い換えではない、ということです。
そこには、すでに成績の差を生じさせる、
個人内の心理過程についての仮定が含まれている。
このズレが、C 剰余意味です。
仮説的構成概念は、このように、
観察結果が生じた原因等を説明する上で用いられます。
しかし、ここで出てくるのが、
仮説的構成概念を、どのように測定し、実証するのか、
という問題です。
なんとか、成績の差として観察可能な、
特定の心理過程の存在を証明したいのです。
そこで重要になってくるのが、妥当性の検討です。
仮説的構成概念は、実際に目で見ることは出来ないので、
他の方法で、その存在を証明しなければなりません。
ここで、ある仮説的構成概念を用いて、
あるテストの成績の差を、予測できるとします。
つまり、理論的にはAはBよりもよい成績を取るはずだ、
と予測するわけです。
実際にテストを行ってみて、予測通りの結果が出たら、
その仮説的構成概念は、AとBの成績の差を予測する上で、
有用な道具になります。
あるいは、その仮説的構成概念は存在する、
と仮定しておいて、さしつかえない、ということになります。
(ここまで来ても、ある、とは言いきれないことに注意。)
これが、ある仮説的構成概念によって、
ある現象を説明することについての妥当性の検討です。
このときの妥当性を、
構成概念妥当性(construct validity)といいます。
ここから、
(1) に入るのは、B 妥当性
正解は、
【 b. 】
-----------------------------------------------
仮説的構成概念は、B妥当性 を検討する必要があるが、
A 仲介変数 と同じように用いられる。
-----------------------------------------------
このような仮説的構成概念は、
観察できない現象を扱う心理学にとっては、
重要な道具です。
しかし、妥当性の検討は、実際には上で挙げたように
簡単には行きません。
そのため、行動主義のように、
そもそも、仮説的構成概念を用いない、
という立場も出てくるのです。
次回エッセイ号では、
心をまた別の視点から眺めてみる予定です。
お楽しみに。
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【次回配信】
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次回 【エッセイ号】… 7月19日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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仮説的構成概念等基礎知識
● 心理学論の誕生「心理学」のフィールドワーク 2000 サトウタツヤ
渡邊芳之 尾見康博 北大路書房
現象学・構造主義
● わかりたいあなたのための現代思想・入門 1990 小坂修平・
竹田青嗣・志賀隆生 他 JICC
● はじめての構造主義 1988 橋爪大三郎 講談社現代新書
潜在意識
● 自分を知り、自分を変える―適応的無意識の心理学 2005
ティモシー・ウィルソン 著村田 光二 訳 新曜社
脳科学・認知科学
● 心理用語の基礎知識 東洋・大山正・詫摩武俊 他 1973 有斐閣
● 脳内現象〈私〉はいかに創られるか 2004 茂木健一郎
日本放送出版協会
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集後記】
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今回取り上げた
現象学や仮説的構成概念の考え方は、
臨床心理学の大学院受験にはあまり必要ないかもしれません。
しかし、
大学院に進学し、
心理学の研究をいざ行おう、というときには、
知らずに大なり小なり、現象学的な作業をすることになるでしょう。
また、自分の測定したい対象がなんなのか、
分からなくなってしまうこともあると思います。
そんなとき、
先人の知恵を知っているか、いないか、
仮説的構成概念を廻る議論を知っているか否かによって、
その後の研究がかなり変わってくるのではないかと思います。
院生レベルにおいて必要なのは、
こだわりすぎるのでもなく、
かといって、前提であることは知っている、
というバランスです。
そうした議論があることを念頭においた上で、
自分が今できるレベルの研究に全力で取り組む、
という健全なあきらめと妥協にあるのではないでしょうか。
みなさんも、
ここで読んだことは、一度自分なりに噛み砕いた上で、
それにとらわれないように心がけましょう。
====================================================================
送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
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