【Clip! アカデミー】 第105回 2007/12/25
第2週 応用号「臨床心理学から:健忘症(amnesia)」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
1)【現在地】
2)【グレッグ、最後のヒッピー】
3)【解説:知識の根っこ】
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
※文中の図が正しく表示されない場合、等幅フォントでご覧ください※
メルマガの最後に【Outlook Express・Netscape Messengerの場合】
のフォント設定のやり方を載せてあります。
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◆ 【Clip!アカデミー】は、
心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
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■ 基本サイクル ■
第1週「理論号」… 知識のタネをまく
↓ (用語説明から)
※【今回はこちら!】 第2週「応用号」… 知識の根を伸ばす
↓ (具体例を中心に)
第3週「展開号」… 知識をつなげる
↓ (テーマを展開する)
第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
↓
■ 第2サイクルへ続く ■
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1)【現在地】
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【現在のテーマ】 2巡目4ヶ月目 臨床心理学から
「臨床心理学から:健忘症(amnesia)」
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0ヶ月目 (ガイダンス号)
1ヶ月目 心理学の歴史から
2ヶ月目 基礎心理学から1
3ヶ月目 基礎心理学から2
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| 5ヶ月目 心理学研究法から
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~~~~~~~~~~【今週】~~~~~~~~~~~~~~
知識のタネをまいたら、
次にすることは、水をあげること。
いろいろな方向から刺激してあげることで、
知識を様々なイメージで膨らませていくことが出来るでしょう。
応用号では、
理論号で紹介した概念について、
今度は具体例などを紹介しながら肉付けしていきます。
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2)【グレッグ、最後のヒッピー】
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今回は、
オリヴァー・サックス著「火星の人類学者」
から、健忘症の事例をご紹介しましょう。
60年代にヒッピー文化の中で青年期を過ごしたグレッグは、
脳腫瘍を見過ごされていたため、
発見時には、失明し、記憶障害や性格の変化など、
様々な障害を併発することになりました。
腫瘍は良性だったのですが、
大きさはオレンジか小さめのグレープフルーツほど。
前頭葉や間脳、下垂体、海馬を含む側頭葉など、
高次の精神機能に必要な部分は
圧迫され、機能を損なわれていました。
手術は76年に行われましたが、
彼には、70年代の記憶がほとんどなく、
新しい事柄も憶えられなくなっていました。
永遠に、彼が青春を過ごした
60年代の中に、閉じ込められることになったのです。
あるとき、父を失ったグレッグをなぐさめるため、
著者はグレッグの大好きな、
ロックコンサートに連れて行きます。
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「すごかったね」
コンサートが終わって、会場を出るとき、グレッグが言った。
「今日のことは決して忘れないよ。人生で最高の日だった」
できるだけコンサートの気分をとよい思い出が持続するようにと、
帰りのドライブのあいだじゅう、
わたしはグレイトフル・デッドのCDをかけつづけた。
一瞬でもデッドの曲が聞こえなくなったら、
コンサートの記憶そのものが
グレッグの頭から消えてしまいそうで怖かった。
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翌朝。著者は、ポツンとしているグレッグに、
グレイトフルデッドについてどう思うか尋ねます。
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「すごいグループだよ。ぼくは大好きだな。
セントラルパークに聞きに行ったことがある。
フィルモア・イーストにも」
「そうだってね。だけど、そのあとはどう?
マディソン・スクウェア・ガーデンに
聞きに行ったばかりじゃないのかい?」
「いや」彼は答えた。
「マディソン・スクウェア・ガーデンには行ったことがないよ」
(了)
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引用:オリヴァー・サックス(1997)
「火星の人類学者」ハヤカワ文庫
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3)【解説:知識の根っこ】
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この事例のグレッグは、
脳腫瘍によって脳が圧迫され、
新しい記憶を憶えられなくなっています。
これは、前回理論号で説明した、
順向性健忘に当たります。
以前の記憶は、
60年代後半からだんだんとあやふやになり、
70年代の記憶はほとんどありません。
これは、逆行性健忘の症状といえます。
また、健忘症とはいっても、
記憶のすべての面が損なわれているわけではないのが、
引用からも分かるでしょう。
スクワイヤーの記憶の分類によると、
記憶は、以下のように分けられます。
●宣言的記憶…意味記憶・エピソード記憶
●手続き的記憶…古典的条件付け・技能学習・運動学習
知覚学習・プライミング
海馬を含む側頭葉の損傷は、
宣言的記憶の固定を損なうが、
手続き的記憶は損なわないことが知られています。
そのために、
グレッグは新しいエピソードを憶えられませんでしたが、
新しい歌を憶えたり、
病院での新しい生活習慣に適応することができたのです。
著者はグレッグの事例を、
グレッグが「人生で最高の日」を
憶えていなかったところで閉じています。
しかし、本当にグレッグは、
あのロック・コンサートのことを憶えていないのでしょうか。
それは誰にも(グレッグにも)分かりませんが、
そもそも、著者がグレッグを
コンサートに連れて行ったのは、
グレッグが父の死以降、落ち込んだままだったからです。
新しいことを憶えられないグレッグが、
なぜ「父の死」に落ち込むことが出来たのでしょうか?
この点について、
著者は医学的観点からの説明を
つけようとはしません。
潜在的な部分では、父の死を知っているのはないか。
というに留めています。
それならば、
たとえ顕在的には憶えていなくても、
楽しかった思い出のことも、
グレッグはどこかで憶えているのかもしれません。
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【次回配信】
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次回 【展開号】… 2008年1月1日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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● 火星の人類学者 オリヴァー・サックス 1997 ハヤカワ文庫
● キーワードコレクション心理学 重野純 編 1999 新曜社
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【編集後記】
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今回は、実際にノンフィクションから、
健忘症の事例をご紹介しました。
著者のオリヴァー・サックスは、
脳神経科医であり、
優れたノンフィクションライターでもあります。
これまでも、様々な事例について
丹念に調査・研究するのと同時に、
彼らの人生に積極的にかかわり、
その交流の中から、
単なる医学的な知見とは異なる姿を紹介してきました。
ほかにも、「レナードの朝」「妻と帽子を間違えた男」
などが有名です。
「レナードの朝」は映画化もされています。
興味がある方は、ぜひ手にとってみてください。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
2007年12月25日火曜日
【Clip!アカデミー】第105回:展開号「臨床心理学から:健忘症(amnesia)」
2007年12月18日火曜日
【Clip!アカデミー】第104回:理論号「臨床心理学から:健忘症(amnesia)」
【Clip! アカデミー】 第104回 2007/12/18
第1週 理論号「臨床心理学から:健忘症(amnesia)」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
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◆目次◆
1)【現在地】
2)【臨床心理学から:健忘症(amnesia)】
3)【解説:知識の種】
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
※文中の図が正しく表示されない場合、等幅フォントでご覧ください※
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心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
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■ 基本サイクル ■
※【今回はこちら!】 第1週「理論号」… 知識のタネをまく
↓ (用語説明から)
第2週「応用号」… 知識の根を伸ばす
↓ (具体例を中心に)
第3週「展開号」… 知識をつなげる
↓ (テーマを展開する)
第4週 基本的にお休み
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1)【現在地】
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【現在のテーマ】 2巡目4ヶ月目 臨床心理学から
「臨床心理学から:健忘症(amnesia)」
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~~~~~~~~~~【今週】~~~~~~~~~~~~~~
用語説明は、知識のタネです。
勉強、特に受験勉強においては、まずはたくさんのタネを
自分の脳の中にまかなければなりません。
タネは小さくてかまいません。
逆に、完ぺき主義はいい結果を生みません。
はじめはできるだけコンパクトな知識からはじめましょう。
しかし、そこで勉強は終わりではありません。
そこからが、勉強のスタートなのです。
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2)【臨床心理学から:健忘症(amnesia)】
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今回は臨床心理学から、
「健忘症(amnesia)」
を通して、心理学について考えていきましょう。
============用語説明==============
健忘症とは、
記憶のプロセスになんらかの障害が起こり、
必要な記憶を思い出すことが出来なくなる症状を指す。
障害が生じているプロセスや原因によって、
様々なタイプが報告されている。
大きく分けると、
健忘症の原因は心因性と器質性に分けられる。
また、
新しい出来事を記憶できなくなる症状を順向性健忘、
過去の記憶を思い出せなくなる症状を逆向性健忘、
と呼ぶ。
心因性の健忘のなかでも、
強烈な心理的ショックを原因に、
見当識(自分が誰で、ここがどこかについての意識)
が失われるものは、記憶喪失と呼ばれる。
強烈なストレスや環境変化によって、
一時的に生じる一過性全健忘症は、
50歳以上の人に生じるが、見当識は失われず、
数時間から数日で回復する。
器質性の健忘は、
脳の損傷、特に海馬を含む大脳側頭葉
の損傷によるものであり、
長期にわたる深刻な影響が生じることが多い。
損傷の原因としては、
慢性アルコール中毒による損傷(コルサコフ症)、
脳の老化(認知症)、
アルツハイマー病における脳の萎縮、
脳血管の疾患、
などがあげられる。
一方、通常ほとんどの人は2・3歳の頃の記憶を持たない。
言語や記憶が未発達であるために、
経験をエピソードとして言語化し、
記憶しておくエピソード記憶が成立していないことが
原因である。
これは乳児性健忘と呼ばれる。
==============================
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3)【解説:知識の種】
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忘れることは自然で必要なプロセスであり、
人間の社会においては、
いつでも、どこでも、
常に進行していることが普通です。
しかし一方で、
記憶は我々が我々であることを保証してくれるものでもあり、
その意味で、変わらない、なくならないことが、
我々が社会生活をおくる上での、大前提となっています。
我々の社会では、
「憶えていない」、「記憶が首尾一貫していない」ことは、
ときに、その人自身への人格的な非難にさえ、
結びつくことになるのです。
忘却は常に進行しているのに、
前提としては、記憶が永遠であるかのように振舞う。
両者のズレが露呈するのが、
この健忘症という症状であるということができるでしょう。
我々は、日常において、
あまりに当然のものとして、
「永遠に忘れない」「首尾一貫している」
などの言葉を、
美しい言葉にしていることに、
考えをめぐらせる必要があるでしょう。
裏を返せば、
それは逆に、「忘れる」ことを
ネガティブにしか捉えられないことを
意味しているからです。
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【次回配信】
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次回 【応用号】… 12月25日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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● 心理学辞典 中島義明 編 1999 有斐閣
● 心理学用語の基礎 東洋 大山正 詫摩武俊 藤永保 編 1978 有斐閣
● キーワードコレクション心理学 重野純 編 1999 新曜社
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【編集後記】
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記憶喪失や健忘症は、
小説や映画などにも、
多く取り上げられる題材です。
おそらく、健忘症に面した人々の多くは、
これまで自分が当たり前のものと考えてきたことと、
現実とのギャップを体験し、
そこから人間そのものについて考えざるを
えなくなったのでしょう。
人間を描こうとするとき、
そのようなギャップを分かりやすく示すものとして、
健忘症が取り上げられてきたのだと考えられます。
解説では、
記憶が首尾一貫していることをよしとする社会、
という言い方をしましたが、
これは、言い換えると「自己同一性」を重視する社会、
ということでもあります。
つまり、健忘症を題材にするような社会は、
個人に
「自分が自分であること」
「自分の記憶や主張がいちいち一貫していること」
を、厳しく問う社会であるということも出来るかと思います。
「自己同一性」を重視する社会があるということは、
それをあまり重視しない社会もあるということでしょう。
それはどんな社会でしょうか。
その是非はともかく、
おそらくは、健忘症をめぐる人々にとっては、
もう少し生きやすい社会かもしれません。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
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※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
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2007年12月4日火曜日
【Clip!アカデミー】第103回:基礎心理学から2:無意味綴り(nonsense syllable
【Clip! アカデミー】 第103回 2007/12/4
第3週 展開号 「基礎心理学から2:無意味綴り(nonsense syllable)」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
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◆目次◆
1)【現在地】
2)【無意味綴り(nonsense syllable)の研究】
3)【解説:知識の展開】
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【参考文献】
【編集後記】
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1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
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第1週「理論号」… 知識のタネをまく
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「基礎心理学から2:無意味綴り(nonsense syllable)」
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知識は、知識とつなげることで、はじめて意味を持ちます。
取り入れた知識を、自分の中に根付かせるためには、
他の知識とつなげていくことを同時にやらなければなりません。
展開号では、
これまでに紹介してきたテーマを、さらに展開していきます。
関連する様々なテーマを紹介することで、
立体的な理解と、
心理学の中での位置づけが、
容易になるでしょう。
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2)【無意味綴り(nonsense syllable)の研究】
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エビングハウスは
無意味綴りの研究を続けませんでしたが、
記憶に関する彼の画期的な成果は、
言語学習の領域において、
様々な研究を生み出すことになりました。
●連想価
無意味綴りは、
日常の単語の持つ意味や文脈のばらつきが、
記憶過程に影響を与えることを統制するために
作成された無意味な単語である。
しかし、研究が進むにつれ、
無意味綴り自体も
既存の言葉を連想させることが分かってきた。
これでは、無意味綴りは、
記憶材料として等価な刺激として、
比較できないことになる。
そこで、それぞれの無意味綴りについて、
どの程度連想を生じさせるか、
という連想価についての評価が行われることになった。
グレースによって行われた連想価についてのリストは、
各無意味綴りについて、
何らかの有意味語を連想した被験者の人数を、
%であらわしている。
このような研究により、
極力等質な無意味綴りによって、
記憶や言語学習の研究を進めることが可能になった。
●抑制
エビングハウスのよって、
記憶の忘却曲線が示されてから、
忘却のメカニズムについて、
心理学においても様々な説が提唱されることになった。
干渉説は、想起されるべき記憶が、
ほかの記憶内容と干渉しあうことで、
想起しづらくなる、という説である。
それを支持する研究が、
記憶の抑制に関する研究である。
記憶の抑制には、順向抑制と逆行抑制があるとされる。
順向抑制では、
何かを記憶することで、
次に記憶することの内容を保持しづらくなる。
逆行抑制では、何かを記憶することで、
その前に記憶していた内容を想起しずらくなる。
この抑制が起こりやすいのは、
記憶内容が類似している場合であるとされている。
●レミニッセンス
エビングハウスの研究以降、
忘却は、時間経過とともに進行すると考えられたが、
ある条件下では、異なる結果が見られることがある。
それが、レミニッセンス現象である。
レミニッセンスでは、
学習が100%終わらない状態で中断された場合、
学習内容を想起させると、
学習直後よりも、一定期間が経過してからのほうが、
成績がよくなることが知られている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
3)【解説:知識の展開】
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エビングハウスの無意味綴りに始まる、
記憶や言語学習に関する研究は、
行動主義と同様、連合主義の影響を強く受けていました。
そのため、
エビングハウス自身は研究を継続しなかったにもかかわらず、
行動主義が心理学の主導権を握った時代の
アメリカにおいて、
同じく盛んに研究が進められることになったのです。
連想価の評価による
無意味綴りの均一化は、
我々が日常で用いている言葉というよりも、
実験室のラットの飼育方法を連想させないでしょうか。
よりよい実験を行うために、
丁寧に、均質なラットを飼育する方法論を、
確立していくわけです。
この研究者の手つきのなかには、
慎重に条件を統制し、
全体を要素に分解していけば、
人間の内部についてもすべてを説明できるはずだという、
確信めいたものが感じられます。
その後、順向抑制や逆行抑制、レミニッセンスなど、
記憶や学習についての基本的な現象が発見され、
今日に至っていますが、
その背景にある記憶や言語に関する考え方は、
大きく変化していきました。
実験室における、
記憶過程や、言語の機械的な学習過程については、
言語学習(verbal learning)の語が当てられていますが、
その後、言語の有意味な側面を重視し、
自然環境の中での人間の言語を問題とする、
言語獲得(language acquisition)と呼ばれる領域が
盛んになってきています。
無意味綴りの連想価に関する研究は、
まさに言語学習の研究について、
非常に象徴的ではないでしょうか。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【次回配信】
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次回 【理論号】… 12月18日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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● 心理学辞典 中島義明 編 1999 有斐閣
● 心理学用語の基礎 東洋 大山正 詫摩武俊 藤永保 編 1978 有斐閣
● キーワードコレクション心理学 重野純 編 1999 新曜社
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【編集後記】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
無意味綴りは、言葉のラットである。
こう考えると、
様々な背景がクリアーになってくるように思いますが、
その中に、感情的な、あるいは感傷的な要素を
こめることには、
慎重にならなければならないでしょう。
現在においても、実験室における、
統制された条件下での実験研究は重要な意味を持っています。
また、言葉の意味を重視した研究が、
無意味綴りを用いた研究より人間的か、
という問いは、それこそナンセンスとしかいいようがありません。
それこそ、
動物実験を批判するような文脈を連想させるとしたら、
目も当てられないということになります。
長年にわたる基礎心理学の訓練を受けずに、
応用領域で仕事をすることの多い臨床心理士は、
この点について、特に注意する必要があるように思います。
感傷を研究に持ち込まずに、
それでも個人個人や自分が生きている世界に対する
感覚を、自覚していることが、
とても重要であるように思うのです。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
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