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2006年9月26日火曜日

【Clip!アカデミー】第56回:解説号「心の物語図の中身」

【Clip! アカデミー】 第56回 2006/9/26
第3週 解説号「心の物語図の中身」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/
  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【問題の解説】
        【Q1】 アイデンティティに関する問題
        【Q2】 ナラティブとサイコセラピーに関する問題
        【Q3】 ナラティブターンと質的研究に関する問題
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】

==================================================================


   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
     無料心理学メールマガジンです。
   
            ■ 基本サイクル ■
            第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
 ※【今回はこちら!】 第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

   ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  ○


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1)【前回のまとめ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

前回エッセイ号では、
”こころ”を物語的な側面から捉える試みを、
以下のような図式としてまとめていきました。

●心の物語図(仮)
 ===========================
 それまでの理屈では説明ができず、納得ができない“何か”
            ↓
         物語的ロジック
            ↓
         物語による理解
 ===========================

ここでは、
神話からニュース報道まで、
我々は、既存の理屈、ないし、科学的説明では
納得できない”何か”についての問いを、
物語という形式を通して語ることで、
科学的な説明とは異なる形で理解してきたことを、
「なぜ心理学を学ぶのか」という問いを通して
検討していきました。

また後半では、心理学理論自体が、
論理実証的な認知作用において
構築されたものであると共に、
物語的な認知作用によって、
単なる理屈では説明できない”こころ”を、
我々に納得させるものである、
という結論に到達しました。

これまで、我々が心理学において論じ、
検討してきた”こころ”なるものも、
我々が様々な”何か”を納得するために作り出した、
物語(ナラティブ)のひとつであるということができるでしょう。


●心の物語図2(仮)
 ==========================
  それまでの理屈で説明できない“何か”=“こころ”
             ↓
       科学的ロジック/物語的ロジック
             ↓
      物語としての“こころ”=心理学理論
 ==========================

今回、問題号の解説では、
エッセイ号でフォローし切れなかった細部について、
補足していきましょう。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2)【問題の解説】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Q1】 アイデンティティに関する問題

アイデンティティ研究に関係のない人は以下のうち誰か。
次の選択肢のうち、もっとも適当なものを選びなさい。


   ====選択肢=====
    a. M・エリクソン
    b. マーシャ
    c. ゴフマン
    d. ガーゲン
   ============


正解は、   【 a. 】
 …当然、アイデンティティ研究で忘れてはならないのは、
  催眠療法に画期的な変化をもたらし、短期療法を始め、
  様々な心理療法の源流となる臨床実践を行った、
  Milton.H.Ericksonではなく、精神分析学者Erik.H.Eriksonの方です。

  カタカナ表記ではどちらもエリクソンですが、
  英語表記では、つづりが違うのに注意。

  マーシャは、
  「同一性 vs 拡散」という青年期の発達課題に対して、
  個人のアイデンティティの状態を、
  「達成型」「早期完了型」「モラトリアム型」「拡散型」の、
  4つのアイデンティティ・ステイタスに
  分類したことで知られています。

  社会構築主義者として知られるガーゲンは、
  自己物語という視点から、
  アイデンティティについて触れています。
 

E・H・エリクソンの発達段階説は、
心理―社会的発達段階と呼ばれていますが、
臨床心理学は個人に向いているため、
アイデンティティというテーマも、
青年危機期や、個人の自我アイデンティティの
レベルで論じられることが多いようです。

しかし、アイデンティティは、
もともと社会の中で、マイノリティ(少数派)として
生きる場合においてこそ、
もっとも重要な問題として立ち現れてくるものです。

マジョリティ(多数派)は、
自己を明確に規定しなくても生きていけるからです。

エリクソンが分析の対象とした、
「幼年期と社会」における民権運動における黒人たち、
ルターやガンディといった偉人たちも、
そして、エリクソン自身、
様々な意味でのマイノリティだったからこそ、
強力なアイデンティティを確立することに、
突き動かされていたといえるでしょう。

社会学者のゴフマンは、
社会において生じる差別のメカニズムに、
社会的アイデンティティのやり取りが、
密接につながっていることを示唆しています。

社会は、個人にアイデンティティの提示を要求し、
期待したものが帰ってこなければ、
彼・彼女にスティグマ(烙印)を押すのです。

アイデンティティという概念は、
もはや、収拾がつかないほど様々に論じられ、
会話にも日常的に登場する言葉になっていますが、
こうした議論は、普段あまり我々の眼に触れません。

その理由は、各人が考えてみて欲しいと思います。


【Q2】 ナラティブとサイコセラピーに関する問題

ナラティブ・セラピーにおいて
用いられる技法として、
最も適当な選択肢を以下から選びなさい。


   ====選択肢=====
    a. ABC理論
    b. 症状の外在化
    c. リフレクション
    d. リフレーミング
   ============


正解は、  【 b. 】


ナラティブ・アプローチは、
臨床の場そのものに、
様々な疑問を投げかけています。

たとえば、
   ・セラピスト-クライエント関係
   ・治療の概念そのもの
   ・患者の主訴や症状の捉え方
などなど。

それに対し、マイケル・ホワイトらの提唱する
ナラティブ・セラピー自体は、
クライエントが、現状に対して持っている
ドミナント・ストーリーを、
新しい物語に書き換える、というプロセスとして進められます。

「自分に自信がなくて、何をやってもうまくいかない」など、
本人が内在化し、社会的相互作用ののなかで維持されてきた物語は、
たとえば、症状の外在化によって、
それまで無視されていた経験を織り込み、
新しい物語として語りなおされることになります。

ただ、ナラティブ・アプローチが
臨床行為自体に投げかけている問題提起に比べると、
臨床行為としてのナラティブ・セラピーは、
心理療法の新機軸となりうるような、
具体的な手段と魅力に欠けている印象があります。

ナラティブセラピーは、
理論的展開の中から、
固有の技法を生み出していけるのか。

あるいは、
臨床行為におけるメタ理論として、
その視点だけが取り入れられていくのか。

もうしばらく、様子を見る必要がありそうです。


【Q3】 ナラティブターンと質的研究に関する問題

やまだようこ(2004)は質的研究の在り様を、
ナラティブターン(物語的転回)に基づく
世界観から1)~5)のように説明している。

 -----------------------------
 1) 客観主義の基盤になってきた「(ア)」への懐疑

 2) 観察者と観察対象の相互作用や(イ)の重視

 3) 社会・文化・歴史的文脈を抜きに抽象的に仮定されてきた
    抽象的な「普遍性」・「(ウ)」への懐疑

 4) 人々が生きる世界の多元性・(エ)・変化プロセスの重視

 5) 意味や(オ)の重視
 -----------------------------

(ア)~(オ)に入る以下の語句A)~E)の、
正しい組み合わせを、選択肢から選びなさい。

A)グランドセオリー B)多様性 C)社会的相互行為
D)素朴実在論 E)ナラティブ


   ======選択肢=========
     (ア)(イ)(ウ)(エ)(オ)

    a. C  D  B  A  E
    b. D  C  A  B  E  
    c. A  B  C  D  E
    d. A  C  B  E  D 
   ==================


正解は、   【 b. 】

社会科学や人文科学の領域においては、
社会や人間を量的に捉え、全体を確率的に言い表すのと同じくらい、
個人の人生の細部や、我々が生きている社会の記述に、
価値を見出してきました。

しかし、価値や意味、我々が生きている現実の複雑さ、
あいまいさ、個人の人生のディテールを壊さないように、
どのように捉えれば良いのか。

ナラティブをめぐる論議が、
社会科学にここまで大きな影響を与えたのは、
それが、こうした難問に、
新しい可能性を与えたためだと考えられます。

やまだの挙げた質的研究の在り様は、
量的研究に対して、「人々が生きる世界」に身を浸し、
研究を引き出していくために、
質的研究者が必要とした、新しい前提です。

しかし、こうした前提があれば、
はたして、実際にうまく、個人や社会の複雑で多様な細部を、
捉えることは可能なのでしょうか。

これは、我々がこれまで検討してきた、
心をどう捉えるか、というテーマ、
もしくは、臨床実践を、どのように研究するか、
という大きなテーマにもつながってくるように思います。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【次回配信】
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   次回 【エッセイ号】… 10月10日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● 質的心理学-創造的に活用するコツ 無藤隆・やまだようこ・南博文
  ・麻生武・サトウタツヤ編著 2004 新曜社 

● アイデンティティ研究の展望V-1 鑪幹八郎・宮下一博・岡本祐子共編
  1998 ナカニシヤ出版

● ナラティブ・セラピーの世界 小森康永 1999 日本評論社

● 幼年期と社会1・2 第2版 E・H・エリクソン著 仁科弥生訳 1963
  みすず書房

● 青年ルター E・H・エリクソン著 1958 みすず書房

● ガンディの真理 E・H・エリクソン著 1969 みすず書房


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【編集後記】
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今回は、ナラティブ批判的な内容も盛り込みました。

もちろん、そこには一面的な見方にならないよう
バランスをとるという意味もありますので、
ここでの価値判断を鵜呑みにせず、
ぜひ自分で学び、考え、自分なりの結論をだして欲しいと思います。

【Q3】で検討している点は、
非常に重いテーマだと思いますから、
詳しくは、次回のエッセイ号で再度取り上げる予定です。



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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。

2006年9月19日火曜日

【Clip!アカデミー】第55回:問題号「心の物語図の中身」

【Clip! アカデミー】 第55回 2006/9/19
第1週 問題号「心の物語図の中身」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/


  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【それでは問題です】
          
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】

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   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
     無料心理学メールマガジンです。
   
            ■ 基本サイクル ■
            第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
 ※【今回はこちら!】 第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

   ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  ○


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1)【前回のまとめ】
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前回エッセイ号では、
”こころ”を物語的な側面から捉える試みを、
以下のような図式としてまとめていきました。

●心の物語図(仮)
 ===========================
 それまでの理屈では説明ができず、納得ができない“何か”
            ↓
         物語的ロジック
            ↓
         物語による理解
 ===========================

ここでは、
神話からニュース報道まで、
我々は、既存の理屈、ないし、科学的説明では
納得できない”何か”についての問いを、
物語という形式を通して語ることで、
科学的な説明とは異なる形で理解してきたことを、
「なぜ心理学を学ぶのか」という問いを通して
検討していきました。

また後半では、心理学理論自体が、
論理実証的な認知作用において
構築されたものであると共に、
物語的な認知作用によって、
単なる理屈では説明できない”こころ”を、
我々に納得させるものである、
という結論に到達しました。

これまで、我々が心理学において論じ、
検討してきた”こころ”なるものも、
我々が様々な”何か”を納得するために作り出した、
物語(ナラティブ)のひとつであるということができるでしょう。


●心の物語図2(仮)
 ==========================
  それまでの理屈で説明できない“何か”=“こころ”
             ↓
       科学的ロジック/物語的ロジック
             ↓
      物語としての“こころ”=心理学理論
 ==========================


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2)【それでは問題です】
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【Q1】 アイデンティティに関する問題

アイデンティティ研究に関係のない人は以下のうち誰か。
次の選択肢のうち、もっとも適当なものを選びなさい。


   ====選択肢=====
    a. M・エリクソン
    b. マーシャ
    c. ゴフマン
    d. ガーゲン
   ============


【Q2】 ナラティブとサイコセラピーに関する問題

ナラティブ・セラピーにおいて
用いられる技法として、
最も適当な選択肢を以下から選びなさい。


   ====選択肢=====
    a. ABC理論
    b. 症状の外在化
    c. リフレクション
    d. リフレーミング
   ============


【Q3】 ナラティブターンと質的研究に関する問題

やまだようこ(2004)は質的研究の在り様を、
ナラティブターン(物語的転回)に基づく
世界観から1)~5)のように説明している。

 -----------------------------
 1) 客観主義の基盤になってきた「(ア)」への懐疑

 2) 観察者と観察対象の相互作用や(イ)の重視

 3) 社会・文化・歴史的文脈を抜きに抽象的に仮定されてきた
    抽象的な「普遍性」・「(ウ)」への懐疑

 4) 人々が生きる世界の多元性・(エ)・変化プロセスの重視

 5) 意味や(オ)の重視
 -----------------------------

(ア)~(オ)に入る以下の語句A)~E)の、
正しい組み合わせを、選択肢から選びなさい。

A)グランドセオリー B)多様性 C)社会的相互行為
D)素朴実在論 E)ナラティブ


   ======選択肢=========
     (ア)(イ)(ウ)(エ)(オ)

    a. C  D  B  A  E
    b. D  C  A  B  E  
    c. A  B  C  D  E
    d. A  C  B  E  D  
   ==================


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【次回配信】
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   次回 【解説号】… 9月26日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● 質的心理学-創造的に活用するコツ 無藤隆・やまだようこ・南博文
  ・麻生武・サトウタツヤ編著 2004 新曜社 

● アイデンティティ研究の展望V-1 鑪幹八郎・宮下一博・岡本祐子共編
  1998 ナカニシヤ出版

● ナラティブ・セラピーの世界 小森康永 1999 日本評論社


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【編集後記】
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ナラティブに関する議論はとても裾野が広く、
哲学・社会学・人類学・言語学・文学などなど、
様々な社会科学・人文科学の領域で論じられているため、
ここでは論じきれません。

ほかにも、物語論は
アカデミックを超えて、
社会現象もその射程に捉えています。

ゲームやマンガ、ブログ、などなど、
どんなモノが取り上げられているか、
調べてみるのも面白いかもしれません。


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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
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 無断転載・転用を禁止します。

2006年9月12日火曜日

【Clip!アカデミー】第54回:エッセイ号「心の物語図の中身」

【Clip! アカデミー】 第54回 2006/9/12
第1週 エッセイ号「心の物語図」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/
  
      ◆目次◆

          1)【前回までのまとめ】
2)【納得すること】
3)【物語モードから捉える】
4)【理屈の合わない“何か”を問うということ】
5)【物語の社会的構成】
6)【物語と科学的言説】
7)【再度、心理学を勉強することの意味】
【次回配信日】
            【参考文献】
            【編集後記】

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   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

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     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
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            ■ 基本サイクル ■
  ※【今回はこちら!】第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
            第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

   ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  ○


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1)【前回のまとめ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



前回エッセイ号では、
我々は、物語という形式についての前提を
検討してきました。

我々の知覚の成立過程や、TV番組のドキュメンタリーを例に、
我々が体験し、接している世界についての情報は、
全て何らかのレベルで加工・編集されていることを見てきました。

加工・編集されている、という意味において、
ありのままの現実、真実というものは、
実際には存在しない、という考え方が成り立ちます。

つまり、普段我々が前提としている、
フィクションとノンフィクションの関係、
虚構か現実か、という垣根に、
実際的な根拠はないということです。

いうなれば、全てはフィクションであり、
“現実”とは「ある」ものではなく、
我々が社会的に「作り出す」ものだということです。

これが社会的構成主義と呼ばれるものです。

社会的構成の過程と、その形式には、
ナラティブ(物語・語り)というものがあります。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2)【納得すること】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


本メルマガを通して、
これまで“こころ”を様々な側面から検討してきました。

こうした側面とは、

   捉えどころのない“こころ”なるものを、
   どのように捉えるか、

という、心理学を中心に実証的に研究を重ねてきた、
先人たちの努力の結晶に基づいています。

しかし、
こうした科学的な説明の中に、
心についての最終的な解答は見つかっていません。

理屈で説明できたように思えても、
我々の方で、どうも実感できない、納得しきれていない、
というモヤモヤが残るからです。

はたして、“こころ”には、
我々が納得できる、実感できる説明は
ないのでしょうか。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
3)【物語モードから捉える】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ここで、
「納得する」、「実感する」、という現象の捉え方と、
「実証できる」、「妥当性がある」、という捉え方との間の、
原理的な違いを押さえておく必要があります。

J・S・ブルーナーは、
こうしたふたつの思考様式を、
論理-実証モード(paradigmatic mode)と、
物語モード(narrative mode)と呼んでいます。

つまり、ブルーナーは、
納得したり、実感したり、という対象の把握の仕方に、
対象を「物語として語る」という、自然科学的なアプローチとは、
ことなる思考様式を見ていたということです。

本メルマガでも、“こころ”についての、
納得できる、実感できる説明= 物語としての“こころ”
として、心の物語的側面について検討していきましょう。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
4)【理屈の合わない“何か”を問うということ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


昔から、
人間の在り様を明らかにする、という行為は、
科学に関わらない日常の中では、
物語として行われてきました。

それは、必ず「なぜ」という問いかけからはじまります。

いくつか例を挙げて見ましょう。

 
  ●神話・宗教・文学
    起源=女神が泥をこねて人間を作った。(中国神話)
    罪=善悪を知ったために楽園を追放された(聖書)
    自分=「人間、失格。もはや、自分は、
        完全に、人間で無くなりました。」(太宰治)
  ●哲学・心理学・精神医学
    不合理性=人間は無意識に突き動かされる(フロイト)
    人間=人間は白紙から始まる(ロック)
       人間は機械である(デカルト)
  ●事件報道
    戦争・事故は、なぜ起こったのか
    犯人はなぜそのような犯罪を犯したのか
  ●入学・入社試験
    「なぜ入りたいのか」(志望動機)
    「私は誰か」(自己PR)

これらの物語の持っている構造について検討してみましょう。

●問いが存在する
●問いに答えるものとしての物語が必要とされる
●物語的なロジックに従って、出来事が語られる
●問いの答え=意味・理由を説明する物語が生まれる

ここから、

 ●心の物語図(仮)
 ===========================
 それまでの理屈では説明ができず、納得ができない“何か”
            ↓
         物語的ロジック
            ↓
         物語による理解
 ===========================


という図式が考えられそうです。

つまり、
物語とは、
我々が理屈で説明できない“何か”を、
納得できるように変換してくれるもの
ということができます。

それは、
我々が主観的に受け取り可能な
「意味」「理由」を与えてくれるのです。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
5)【物語の社会的構成】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


物語は、我々が“何か”を納得するために、
必要とするものです。

そして、それは、
「意味」や「理由」が、外から要求されるとき、
もっとも明白になります。

もっともビビットな例を挙げましょう。

大学院受験の面接において、

     「なぜ心理学を学びたいのか」
「なぜ臨床心理士になりたいのか」

と問われたら、
皆さんならどう答えますか?

どんなに熱意と実感がこもっていても、
「なんとなく」では、
面接官は納得しないでしょう。

面接官は、あなたという人間が分からないのに、
短い時間で、履歴書や面接態度などの限られた情報だけで、
合格・不合格を判断しなければならないのです。

履歴書によほどの自信があれば別ですが、
あなたは、短い時間で、
履歴書、身なり、表情、口調、など、
あなたを示すバラバラな情報を、
相手の不安を取り除き、納得させる「理由」
に変換する必要があります。

つまり、
「なぜ臨床心理士になりたいのか?」
という問いを中心にして、
あなたのこれまでの人生、面接場面での態度などを、
材料にした物語を作る必要があるのです。


 =====================
      履歴書、面接態度
         ↓
  「なぜ臨床心理士になりたいのか?」
   =履歴書+面接態度+エピソード…+n
   =説明してくれる物語
 =====================


ここで、「=」や「+」であらわされた部分が、
物語の持つ様式であり、論理だといえるでしょう。

あなたが語った物語を、
相手が納得してくれれば、
あなたの物語は、社会的な“事実”として受け入れられます。


 =======================
      履歴書、面接態度
          ↓
   ●「なぜ臨床心理士になりたいのか?」
     =履歴書+面接態度+エピソード…+n
     =説明してくれる物語
          ↓
    「この物語は事実である。」
     =合格=大学院で学ぶ理由がある
 =======================


つまり、物語として語った
「将来の臨床心理士としての自分」が、
社会的なアイデンティティとして認められるのです。

言い換えれば、
アイデンティティという自分の寄って立つ基盤も、
このように、見方によっては脆弱な足場に立っています。

しかし、それが“事実”になるのは、
面接の場のような様々な場面において、
こうした物語が他者(聞き手)との間で
社会的に構成されているからなのです。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
6)【物語と科学的言説】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


これまで検討してきた、
様々な心理学の側面も、
科学的言説でありながら、
「物語」として捉えることができます。

なぜなら、心理学が対象とする、
“こころ”というもの自体が、
我々人間にとって、もっとも理不尽で、
説明しがたい存在概念だからです。

それを納得するために、
用いている様式は違えど、
神話も科学も、おなじように、
「なぜ人間には“こころ”があるのか」
と問い、その答えを探してきたのだといえるでしょう。

そのために、心理学概念は、
科学的方法論にしたがって研究され、
論理-実証的なロジックにしたがって構成されていても、
同時に、物語的ロジックとしての意味も背負わされているといえます。


 ●心の物語図2(仮)
 ==========================
  それまでの理屈で説明できない“何か”=“こころ”
             ↓
       科学的ロジック/物語的ロジック
             ↓
      物語としての“こころ”=心理学理論
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こうして、心理学の提示する
“こころ”の様々な側面のどれかを、
“こころ”の説明として納得するということは、

  ●“こころ”をめぐる無数の物語の中から、ひとつを選ぶ、

ということになります。

“こころ”の物語的な側面を捉えるということは、
そのようにして、最終的には、
個々人が、
「自分の“こころ”とはこういうものだ」、
という、それぞれの「物語」を手に入れる、
ということになるのかもしれません。

7)再度、心理学を勉強することの意味

自分の“こころ”とはこういうものだ、と納得する
プロセスは、誰もがやっている、
もしくは、過去にたどったことのあるプロセスのはずです。

しかし、
心理学を勉強するということは、
単に自分なりに納得する、ということとは違うはずです。

次の三つの点で、それとは異なると考えられます。

1、“こころ”全体の見取り図(空白多し)を持っている
2、いつでも違う側面に視点を切り替える用意がある
3、その上で、あくまで“仮に”、ひとつの説明=ナラティブを、
  自分の納得できる説明として受け入れている

1と2は、訓練によって育まれる科学者としてのスタンスです。

しかし、3は、それとは異なる人間としてのスタンスです。

付け加えるならば、
この3つを、常に自覚している、
ということが重要なのかもしれません。

1と2がなければ、
現状を分析し、仮説を立て、検証することができないし、
3がなければ、
学問的知識を、畑の違う人に、自分の言葉で語る、
ということができないでしょうから。


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【次回配信】
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   次回 【問題号】… 9月19日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● 人間失格 太宰治 1952 新潮社

● 可能世界の心理 J・ブルーナー著 田中一彦訳 1998 みすず書房


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【編集後記】
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ナラティブに関する議論は、
ここ最近で人文科学・社会科学において、
大きな潮流になりつつあります。

その潮流がどのように心理学に流れ込んでくるか。

現時点では、ナラティブセラピーなど、
心理療法の一流派のように認識されていますが、
影響はそれだけにとどまらないでしょう。

むしろ、心理学における、
対象の捉え方、研究法の面で、
ブレイクスルーを期待したいものです。


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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
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