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2007年3月27日火曜日

【Clip!アカデミー】第75回:エッセイ号「心の総合図を生かす」

【Clip! アカデミー】 第75回 2007/3/27
第1週 エッセイ号「心の総合図を生かす」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/


  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【心の総合図アプローチ】
            3)【心の総合図の可能性】
            4)【心の総合図の課題】
            5)【最初に戻る】
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】



==================================================================


   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
     無料心理学メールマガジンです。
   
            ■ 基本サイクル ■
 ※【今回はこちら!】 第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
            第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

   ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  ○



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1)【前回のまとめ】
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これまでの【Clip!アカデミー】では、
心理学の全体について、様々な捉え方をまとめ、
紹介する努力をしてきました。

その目的は、心理学の勉強、それも、
勉強をする上でもっとも忍耐を必要とする、
基礎心理学のまとめと暗記の作業に、
役に立つことにあります。

心理学部で4年間、基礎的な訓練を受けてきた人たちと比べて、
心理学にはじめて触れる初学者が
概論書を手にとって最初に感じるのが、
心理学の全体像のつかみにくさです。

全体像をつかみにくいこと自体が、
心理学の特徴であることは、
これまでのメルマガの中でも、たびたび強調してきました。

しかし、この特徴は、
初学者が心理学の基礎的学力を身につける上で、
大きなネックとなります。

全体像の見えなさ、見通しのつかない曖昧さはしばしば、
初学者のモチベーションを下げ、
毎日の地道な勉強を、体系的な知識から、
無意味つづりのように無味乾燥な、断片にしてしまうからです。

入門書のまえがきを読み比べれば、
どの編著者たちも、この点をどう克服するかについて、
いかに心を砕いているかが分かるでしょう。

しかし、現時点では、
それぞれの学習者が、自分なりに解決策を見出すか、
あるいは、中途半端なまま受験勉強として割り切るか、
の二択を迫られることになるのです。

本メルマガの目指す目標は、
全体を網羅せざるを得ない教科書に対して、
異なる角度から、
心理学の全体像を提示することです。

現時点では、実験的な要素も含みますが、
心理学の持つあいまいさに対して、
様々な角度から全体像を捉えようと試みることで、
その全体を浮かび上がらせようとしてきました。

それが、心の総合図は作りえるか?
という問いにつながっていったのです。


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2)【心の総合図アプローチ】
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心の総合図とは、
ここでは、仮に、ひとつの図式によって、
心理学の全体像を示したものとしておきましょう。

心理学が、あいまいさによって、
用意に全体像を把握させないということは、
このような図式化が困難であることを示しています。

本メルマガがこれまで行ってきたアプローチである、

 ●心理学ついて新しい図式を立てる
 ●図式からの全体像の把握
 ●その図式では捉えきれない部分の指摘

という3段構えの論理も、
常にひとつの図式では捉えきれない、
という心理学の特徴を、繰り返しによって、
より具体的に示してきたといえるでしょう。

どこまでも繰り返すことが出来る、
つまり、完結しない、
という点を強調した心の総合図のイメージが、
以下のイメージです。


●【心の総合図2】(イメージ)
============================
                     □
                       □
         ■   ■          □
      ■         ■        □
    ■    * * * *      ■      □
   □    * “心” *     ■      □
   □    *       ■      □
   □     * + + ■  ■       □
    □                 □
      □            □
         □   □
============================


“こころ”をめぐって、
どこまでも新しい図式を立てていくことができる、
という点が、ラセン状に連なっていく四角形で示されています。

心の総合図は、完結しないジグソーパズル
のようなものなのです。

そこに、どんな絵柄が浮かび上がるのか、
は、いまだにハッキリしていません。

それがそのまま、“こころ”の理解の現状なのだといえるでしょう。


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3)【心の総合図の可能性】
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しかし、このようなイメージでは、
けっして、心の全体像を捉えさせるような総合図には
ならないことは、もはや明白です。

それでは、逆に総合図が作れる、
ということは、どういうことなのでしょうか。

それは、心理学研究が、ひとつのパラダイムに統一される、
ということです。

基本的には、
クーンの提唱したパラダイム(もしくは専門図式)は、
自然科学において、一度に1つだけ存在するものです。

たとえば、物理学において起こった、
アインシュタインの相対性理論による、
ニュートン力学からのパラダイムシフトのように、
二つのパラダイムが同じ位置を占めることはありません。

このパラダイムシフトの前と後とでは、
我々にとって、時間と空間の意味が、
大きく変わってしまうことになりました。

つまり、これまでとは、
前提となるパズルのルール自体が変わってしまったのです。


だから、心の総合図が作りえる可能性があるとしたら、
我々の“こころ”の捉え方が決定的に
変わってしまうような、
何か根本的な変化が心理学に起こったときでしょう。

すでに、立花隆は、2005年11月のNHKスペシャルにおいて、
脳科学の周辺領域において、
脳の神経インパルスを電気信号に置き換え、
意図するだけで機械の義手を動かすチップの開発風景を紹介しています。

ほかにも、人間や“こころ”そのものへの
見方を変えてしまうような、科学技術の進歩が
ところどころで進んでいます。

そうした中で、
果たして心理学のパラダイムシフトは、
起こるのか、起こらないのか。

皆さんも考えてみてください。


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4)【心の総合図のこれから】
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この4月で、【Clip!アカデミー】は、
連載を開始して丸2年を数えます。

最後に、“こころ”を、様々な側面から検討してきた、
心の総合図のアプローチのこれからについて検討していきましょう。

以下にあげたのが、これまでに立ててきた図式です。

     【心の構造図】
     【心の過程図】
     【心の歴史図】
     【心の研究法図】
     【心の対象図】
     【心の関係図】
     【心の物語図】
     【心の実践図】
        :
        ↓

“こころ”を捉えるための図式を立て、
その図式では捉えられない部分を、課題として、
次の図式を立てていく。

ちなみに、臨床心理学は、この図式の中でも、
心の実践図の中で検討されています。

臨床心理学が応用心理学に位置づけられるのは、
こうした様々な“こころ”の捉え方を前提として、
成立しているからである、
というのはいいすぎでしょうか。

つまり、この繰り返しは、理論上、どこまでも
続けていくことが可能かもしれませんが、
後に行くほど、前の内容を踏まえた、
より応用的・抽象的な議論になっていることがわかります。


ここで、我々は、

1)このまま、先に進む。
2)もう一度、はじめから捉えなおしをする。

という二つの選択肢から、ひとつを選ぶ必要がありそうです。


本メルマガは、
初学者の勉強のサポートという意味合いの強いものです。

特に、

心理学の勉強を続ける上で有益な、
心理学の全体像のイメージ。

それを、読者の皆さんと積み上げていくことが、
重要な目的のひとつになっています。

そのためには、
新しい見方を突き詰めていくよりも、
繰り返し、前提となっている心理学におけるモノの見方を、
捉えなおしていく方が、有益かもしれません。

また、勉強は、はじめに戻っての繰り返しが基本です。

全体を捉える試みを、
最初に戻って繰り返し積み重ねていくことで、
知識はより豊かに育っていくでしょう。

そこで、本メルマガも、
新しいアプローチでの、2巡目に突入したいと思います。

最初に戻るといっても、
スタートラインは、第1回とはすでに異なります。

これまで読まれてきた読者の皆さんにも、
きっと新鮮なモノになるのではないかと思います。


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5)【最初に戻る】
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心理学の勉強を続ける上で有益な、
心理学の全体像のイメージ。

それを、どのように捉えることが出来るでしょうか。

それは、これからのメルマガで
ともに模索していきましょう。


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【次回配信】
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   次回 【問題号】… 4月3日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● 2005年11月5日放送NHKスペシャル
 「立花隆最前線報告 サイボーグ技術が人類を変える」


● 現代心理学〈理論〉事典 2001 中島義明 編 朝倉書店

● 心理学物語-テーマの歴史 R.C.ボールズ著 富田達彦訳 2004 北大路書房


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【編集後記】
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皆さんのおかけで、この4月で、本メルマガも丸2年を迎えます。

受験勉強とはいえ、
その先の勉強に、つながるような、
意味のある勉強をしてもらいたい。

受験勉強に意味を感じられないなら、
それはどこに問題があるのか。

受験勉強が厳しい単純作業であることは、
変えられません。

逆に、近道をしようとすれば、
必ずどこかで落とし穴にはまるでしょう。

厳しい単純作業を地道に続けながら、
心理学の勉強に、意味と意義を感じてもらいたい。

その思いから始まった本メルマガですが、
また4月から、初心に戻って、
皆さんの役に立つ情報を発信していきたいと思います。

これからも、【Clip!アカデミー】をよろしくお願いいたします。


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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
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 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。

2007年3月13日火曜日

【Clip!アカデミー】第74回:解説号「心の総合図を捉えなおす」

【Clip! アカデミー】 第74回 2007/3/13
第3週 解説号「心の総合図を捉えなおす」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/
  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【問題の解説】
          【Q1】パラダイムシフトについて
          【Q2】研究方法とパラダイム
          【Q3】パラダイムの把握
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】


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   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
     無料心理学メールマガジンです。
   
            ■ 基本サイクル ■
            第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
            第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
 ※【今回はこちら!】 第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

   ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  ○


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1)【前回のまとめ】
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心の総合図では、
これまでの心の捉え方の図式について
検討してきたことを捉えなおしながら、
パラダイムという概念を中心に、
心理学の特徴と、勉強の仕方について検討しています。

前回のエッセイ号では、
日々の勉強を、ジグソーパズルの空白を、
もくもくと埋めていく作業に例えました。

ひとつの知識を、
自分の持っている知識につなげていく。

その繰り返しが、日々の勉強ですが、
ときおり顔を上げて、全体を見渡すことも必要です。

そのとき、心理学という学問は、
どのように見えるのか…。

このとき見える全体像と、
パズル自体のルールなどを含めて、
本来はパラダイム(その時代のその学問の依拠する枠組み)
と呼ぶことがあります。

しかし、それは、
必ずしも1つの分かりやすい絵ではないかもしれない。

というよりも、いろんな角度から見るたびに、
違った捉え方が出来るのが、”こころ”の特徴です。

心理学も、研究対象の特徴を反映して、
分かりやすい全体像は示してくれません。

それを、日頃の勉強とは異なる視点から
見渡せる方法はないものか。

それが、
本メルマガの考え続けてきたテーマなのだといえるでしょう。


…心理学には、様々な角度から捉えられた、
様々な側面があるといえます。

そして、そのそれぞれについて、
空白を埋めながら、いつか、それぞれのジグソーパズルが、
うまくつながってくれないか、
と考えているのは、研究者も同じかもしれません。


●【心の総合図2】(イメージ)
============================
                     □
                       □
         ■   ■          □
      ■         ■        □
    ■    * * * *      ■      □
   □    * “心” *     ■      □
   □    *       ■      □
   □     * + + ■  ■       □
    □                 □
      □            □
         □   □
============================
※ □ …”心”についての様々な視点から見たジグソーパズル

このような問題意識を受けて、
今回は、前回問題号の解説です。


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2)【問題の解説】
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【Q1】パラダイムシフトについて

以下の文章は、
クーンの提唱したパラダイム・シフトの概念について
述べたものであるが、正しいものはひとつだけである。

以下の選択肢の中から、もっとも適当ものを選びなさい。

 =============選択肢=================

  a. 心理学史でいえば、パラダイムシフトとは、
    “こころ”の捉え方の進化の歴史である。

  b. パラダイムシフトとは、
    人々の価値観が時代とともにゆっくりと変わっていくことである。

  c. パラダイムシフトは、規範となる枠組みが、
    パズルに対応できなくなったときに生じる。

  d. 「パラダイムシフト」は、個人の価値観から、
    科学の枠組みの変化まで、様々なレベルに見ることが出来る。

 =================================

正解は、   【 c. 】

パラダイムシフト、という言い方は、
もしかしたら、学問とは関係のないところで、
耳にしたことのある人も多いかもしれません。

ここでの使い方は、
個々人や、産業の持っている先入観や価値観が、
ひっくり返されること、を指しているものと思われます。

パラダイムシフトは、
トマス・クーンが、物理学史を教える中から発想した、
科学の発展の仕方を示すための概念です。

あまりに広く用いられすぎて誤用も多く、
当のクーンは、最近では、
科学限定で「専門図式」という言い方をしているようです。

科学や学問の歴史を書くためには様々な方法がありますが、
一番分かりやすくて一般的なものは、
その学問が、どのように洗練され、
発展していったかを順に説明していくものでしょう。

これは、進化史観と呼ばれます。

心理学の教科書でも、
心理学史を大まかに説明する必要があるときは、
このような形で説明しているものが多いようです。

しかしクーンは、科学の発展を、
このような緩やかな進化の過程としてではなく、
規範とされてきた枠組みがその内部で難問を処理できなくなったとき、
異なる意見を持ったグループによって引き起こされる、
一種の革命と考えました。

つまり、それまでのルールの中では
収まりがつかないピースが増えてくると、
ある日突然、ゲシュタルト(全体像)の崩壊が起こる。

そして、それまで収まりがつかなかったピースが
収まるような形で、全体像が再構成される。

おばあさんの絵のジグソーパズルかと思ったら、
女性の絵だった、というような。

心理学でいえば、やはり行動主義の隆盛が
一番分かりやすいかもしれません。

ゲシュタルト心理学は、
行動主義にゲリラ戦で抗戦し続けました。

行動主義の後には、
認知科学がやってきましたが、
こちらは融通を利かせて、
様々なパラダイムを飲み込んだり、共存したり、
うまくやっているようです。

とはいえ、
全体としては戦国時代のような状態が続いている
といえるかもしれません。

心理学を学ぶものとしては、
脳科学や工学など、諸外国の動きも気になるところですが…。


【Q2】研究方法とパラダイム

主観的な感覚を捉えるための方法として、
内観報告がある。

内観報告が有効なパラダイムを、
有効な順に1)~4)に並べると、どのようになるか。

A 精神物理学 B 行動科学 
C 認知心理学 D 臨床心理学

以下の選択肢からもっとも適当な組み合わせを選びなさい。

    ======選択肢=====

       1) 2) 3) 4)  

     a. A  B  C  D
     b. A  D  C  B
     c. A  C  D  B
     d. D  A  C  B
  
    ==============

正解は、   【 c. 】

内観報告は、もともとドイツのライプチヒ大学で、
世界初となる心理学教室を開設した、ヴントが用いた方法です。

ヴントは、心理学のための研究法として内観報告を重視しました。

すなわち、被験者自身が、
実験中に感じている自分の主観的感覚を、
実験者に報告するものです。

これは、もともと生理学者のヴェーバーや、
フェヒナーといった先人が、外的刺激と、感覚との関係を
調べるために用いていたもので、
現在も、精神物理学的測定法として体系化されています。

たとえば、40グラムの重りという外的刺激に対して、
「重い」という感覚は主観的なものです。

重さを足していって、
「どこで重くなったか教えてください」とたずねられたとき、
「あ、今です」と答えるとします。

これは内観報告をしていることになります。

ヴントは、この方法の対象を一部の知覚や感情などにも拡大して、
意識内容の研究に使えると考えたのです。

それによって、客観的に数量化することが難しかった
“こころ”を、一部分であれ科学の土俵に乗せることに
成功したわけです。

しかし、その限界は次第に明確になっていきます。

内観報告によって得られるデータは、
被験者自身が感じていることだけを、
しかも言葉というフィルターを通して得られたものです。

うまく言葉に出来ないものや、
理由が分からないものについては、
正確なデータが得られません。

その限界を乗り越えるために、
新しい“こころ”の捉え方、切り取り方が求められた結果、
脚光を浴びたのが、「行動」という側面だったわけです。

行動科学では、
内観報告から得られるデータを、
否定するところから始まったともいえます。

しかし、主観的感覚の世界は、
我々が日常において生きている世界でもあり、
心理学においては重要な研究対象になります。

認知科学においては、
行動科学においては棚上げにされていた、
外的刺激と行動の間にある媒介変数が、再び重視されます。

しかし、ヴントのように、
刺激と行動の間にあるものを直接被験者に
報告できるものとは考えません。

媒介変数としての認知過程は、
我々が考えたり、感じたりする場合のように、
無自覚で無意識的な過程だと考えるのです。

認知過程として、たとえば個人のパーソナリティを考える場合、
質問紙法といった形で、内観法が用いられることもあります。

質問紙では、「あなたは初対面の人とも楽しく話せる方ですか」
など、被験者が、自分の日頃意識している傾向を、
言語で報告させるためです。

ただ、この場合、もちろんヴントが意識していた内観法とは異なりますし、
内観法の抱えていた限界も、かなり明確に出てきます。

被験者自身にも分からなかったり、
社会的に好ましいと考える方に、結果を偽ったりすることを、
止められないからです。

臨床心理学においても、
質問紙研究などは行われますが、
なおさら適用が難しくなります。

研究対象が、個々人であり、
捉えようとする対象が、あまりに複雑だからです。

このように、内観法が有効な範囲を考えていくと、
対象が拡大されていくほどに、得られるデータの精度が落ちていく、
ということがいえそうです。

その事実についての考え方はパラダイムによってそれぞれであり、
補助的に用いたり、割り切って用いたり、まったく捨ててしまったり、
それぞれです。

しかし、新しい方法のほうが優れていて、
古い方法はいらなくなる、という考え方は、
心理学では稀なようです。

その意味で、
心理学における発展は、
“こころ”の捉え方がより進歩し、
より正確になってきた、という言い方ではシックリきません。

“こころ”の新しい捉え方が増えていくことで、
より多くの角度から、広く幅を持った理解ができるようになっていく、
それが、心理学の発展であるといえるでしょう。


【Q3】パラダイムの把握

(A)~(D)には、R(response)O(organism)S(stimulus)
のいずれかの記号が入る。
以下の選択肢の中から、その組み合わせについて、
もっとも適当なものを選びなさい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【パラダイム】 【研究対象】 【研究目的】   【検証法】
=================================
 行動科学 |  R  |(A)の制御 |(B)の統制による実験
=================================
 認知科学 | (C) |(C)に関する|Sと(D)の関係についての
      |     |モデルの構築 |統計的解析
―――――――――――――――――――――――――――――――――

 ========選択肢=========

   (A) (B) (C) (D)

a.   S   S   R   O
b.   R   S   O   R
c.   S   R   O   O
d.   R   S   R   O

====================

正解は   【 b. 】


心理学を勉強するとき、
それぞれのパラダイムの特徴を把握しておくと、
個々の理論や研究をまとめていくときに便利です。

パラダイムの特徴として、
ここでは二つの点を挙げてみたいと思います。

まず、“こころ”のどの側面に注目するのか。

それが、研究対象であり、研究目的です。

次に、それをどのように捉えるのか。

これは、研究方法であり、研究手続きになります。

行動主義であれば、
「行動」という側面を研究対象にします。

大きな目的は、人間の行動(反応=R)を、
外界からの刺激(S)によって説明し、予測・制御すること
といえるでしょう。

主な研究方法としては、
環境条件(S)を統制された中での動物実験があります。

これに対して、
認知科学においては、
外的刺激と、反応の間に、媒介変数としてのOを想定します。

あらかじめOを想定して、
刺激と反応の関係を考えるのです。


研究対象と研究法とは
ひとセットになっており、
それが、各パラダイムを特徴付けています。

もちろん、行動主義的な研究にも、
教育分野での実践的研究もあれば、
心理療法分野での事例研究もあります。

しかし、そのベースにある特徴を把握しているからこそ、
それらのバラバラな領域での研究を、
ひとつのつながりのもとに理解することが出来るのです。

いうなれば、
こうした研究対象と研究法とは、
そのジグソーパズルのマスターピースであり、
それを中心とすることで、それぞれの研究=個々のピースを、
完成形に向けて、つなげていけるのだといえるでしょう。


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【次回配信】
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   次回 【エッセイ号】… 3月27日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● 現代心理学〈理論〉事典 2001 中島義明 編 朝倉書店

● 心理学者のための科学入門 1999 中丸茂 北大路書房

● 流れを読む心理学史 世界と日本の心理学 サトウタツヤ 高砂美樹
  2003 有斐閣 

● 心理学物語-テーマの歴史 R.C.ボールズ著 富田達彦訳 2004 北大路書房
   

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【編集後記】
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心の総合図の話は、
本メルマガの、ひとつのまとめになっています。

そのため、これまでの経緯を読んでいなければ、
分かりづらいところがあるかもしれません。

興味がある方は、バックナンバーの、
特に各エッセイ号を、
ご覧になってみてください。



今年の春から勉強を開始しようと考えていて、
その一環として、本メルマガの登録をした方にもお勧めです。

また、本メルマガも、
新しい試みを予定しているので、
そちらもご期待くださいね。


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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
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 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。

2007年3月6日火曜日

【Clip!アカデミー】第73回:問題号「心の総合図を捉えなおす」

【Clip! アカデミー】 第73回 2007/3/6
第2週 問題号「心の総合図を捉えなおす」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/



  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【それでは問題です】
          【Q1】パラダイムシフトについて
          【Q2】研究方法とパラダイム
          【Q3】パラダイムの把握
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】


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   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
     無料心理学メールマガジンです。
   
            ■ 基本サイクル ■
            第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
 ※【今回はこちら!】 第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

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1)【前回のまとめ】
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心の総合図では、
これまでの心の捉え方の図式について
検討してきたことを捉えなおしながら、
パラダイムという概念を中心に、
心理学の特徴と、勉強の仕方について検討しています。

前回のエッセイ号では、
日々の勉強を、ジグソーパズルの空白を、
もくもくと埋めていく作業に例えました。

ひとつの知識を、
自分の持っている知識につなげていく。

その繰り返しが、日々の勉強ですが、
ときおり顔を上げて、全体を見渡すことも必要です。

そのとき、心理学という学問は、
どのように見えるのか…。

このとき見える全体像と、
パズル自体のルールなどを含めて、
本来はパラダイム(その時代のその学問の依拠する枠組み)
と呼ぶことがあります。

しかし、それは、
必ずしも1つの分かりやすい絵ではないかもしれない。

というよりも、いろんな角度から見るたびに、
違った捉え方が出来るのが、”こころ”の特徴です。

心理学も、研究対象の特徴を反映して、
分かりやすい全体像は示してくれません。

それを、日頃の勉強とは異なる視点から
見渡せる方法はないものか。

それが、
本メルマガの考え続けてきたテーマなのだといえるでしょう。


…心理学には、様々な角度から捉えられた、
様々な側面があるといえます。

そして、そのそれぞれについて、
空白を埋めながら、いつか、それぞれのジグソーパズルが、
うまくつながってくれないか、
と考えているのは、研究者も同じかもしれません。


●【心の総合図2】(イメージ)
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                     □
                       □
         ■   ■          □
      ■         ■        □
    ■    * * * *      ■      □
   □    * “心” *     ■      □
   □    *       ■      □
   □     * + + ■  ■       □
    □                 □
      □            □
         □   □
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※ □ …”心”についての様々な視点から見たジグソーパズル

このような視点から、
今回も、パラダイムというキーワードから
見た、心理学についての問題です。


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2)【それでは問題です】
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【Q1】パラダイムシフトについて

以下の文章は、
クーンの提唱したパラダイム・シフトの概念について
述べたものであるが、正しいものはひとつだけである。

以下の選択肢の中から、もっとも適当ものを選びなさい。


 =============選択肢=================

  a. 心理学史でいえば、パラダイムシフトとは、
    “こころ”の捉え方の進化の歴史である。

  b. パラダイムシフトとは、
    人々の価値観が時代とともにゆっくりと変わっていくことである。

  c. パラダイムシフトは、規範となる枠組みが、
    パズルに対応できなくなったときに生じる。

  d. 「パラダイムシフト」は、個人の価値観から、
    科学の枠組みの変化まで、様々なレベルに見ることが出来る。

 =================================


【Q2】研究方法とパラダイム

主観的な感覚を捉えるための方法として、
内観報告がある。

内観報告が有効なパラダイムを、
有効な順に1)~4)に並べると、どのようになるか。

A 精神物理学 B 行動科学 
C 認知心理学 D 臨床心理学

以下の選択肢からもっとも適当な組み合わせを選びなさい。


    ======選択肢=====

       1) 2) 3) 4)  

     a. A  B  C  D
     b. A  D  C  B
     c. A  C  D  B
     d. D  A  C  B
  
    ==============


【Q3】パラダイムの把握

(A)~(D)には、R(response)O(organism)S(stimulus)
のいずれかの記号が入る。
以下の選択肢の中から、その組み合わせについて、
もっとも適当なものを選びなさい。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【パラダイム】 【研究対象】 【研究目的】   【検証法】
=================================
 行動科学 |  R  |(A)の制御 |(B)の統制による実験
=================================
 認知科学 | (C) |(C)に関する|Sと(D)の関係についての
      |     |モデルの構築 |統計的解析
―――――――――――――――――――――――――――――――――

 ========選択肢=========

   (A) (B) (C) (D)

a.   S   S   R   O
b.   R   S   O   R
c.   S   R   O   O
d.   R   S   R   O

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【次回配信】
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   次回 【解説号】… 3月13日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● 現代心理学〈理論〉事典 2001 中島義明 編 朝倉書店

● 心理学者のための科学入門 1999 中丸茂 北大路書房

● 流れを読む心理学史 世界と日本の心理学 サトウタツヤ 高砂美樹
  2003 有斐閣 

● 心理学物語-テーマの歴史 R.C.ボールズ著 富田達彦訳 2004 北大路書房
   

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【編集後記】
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パラダイムを、道具として捉える試みをしましょう。

研究対象を捉えるには、
道具として適切な研究法が必要です。

その際には、ひとつのパラダイムに従って、
その中に存在する選択肢の中から
ふさわしい研究法を選ぶことになります。

パラダイムは、
その時代、その学問において活動する
研究者が従うべき、当然のルール、
すなわち、規範である、という側面があります。

ですから、当然、
パラダイム自体を道具と捉えることはできません。

現代サッカーのルールに従わなければ、
サッカーの試合に出られないのと同じです。

しかし、心理学の場合、
選択肢である研究法の背景には、
異なるパラダイムがあることがしばしばあります。

異なるパラダイムの概念や研究法は、
どうしても取り入れるのが難しいものです。

とはいえ、日本の心理臨床においては、
近年では、折衷主義という、
ひとつの治療パラダイムのみにこだわらないスタイルが、
ひとつの層を形成しています。

臨床心理学の研究においても、
折衷主義的な研究、
は認められてもいいのかもしれません。

ただ、こうした研究が厳しい批判にさらされるべきであるとしたら、、
この点に無自覚なまま、不明瞭に様々な理論を
つぎはぎで用いた場合でしょう。

実際の研究においては、
先行研究のレビューをしていくなかで、
その選択肢は決まってくることが
多いと思います。

先例を辿っていれば、
そう簡単にレールをはずれることはないはずですが、
自分の取り組んでいる仕事に自覚的であるならば、
心理臨床家にとっても、
研究はもっと楽しくなるような気がします。

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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。