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2007年1月30日火曜日

【Clip!アカデミー】新章突入!第69回:エッセイ号「心の総合図は作りえるか?」

【Clip! アカデミー】 第69回 2007/1/30
第1週 エッセイ号「心の総合図は作りえるか?」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/
  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【心理学の全体像を、
              ひとつの図式で捉えることは可能か】
            3)【パラダイム】
            4)【プレ・パラダイム状態による不便】
            5)【心の総合図の在り様】
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】


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   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
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            ■ 基本サイクル ■
            第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
 ※【今回はこちら!】 第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

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1)【前回のまとめ】
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これまで我々は、“こころ”なるものを捉えるための、
心理学の様々な視点を検討してきました。

心の構造図、心の過程図、心の歴史図、
心の研究法図、心の対象図、心の関係図、
心の物語図、心の実践図…。

“こころ”を捉えるために、
ひとつの図式を立て、
その図式から説明できることを考えていく。

そして、その図式で説明しきれないところまできたら、
次の図式に移る。

そのようにして、
我々は、あいまいで捉えどころのない“こころ”を、
様々な角度から光を当て、立体的に浮かび上がらせようと
してきたということが出来るでしょう。

今回からは、これまでのClip!アカデミーにおける
取り組みを振り返るとともに、
これからのClip!アカデミーのあり方について、
検討していきたいと思います。


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2)【心理学の全体像を、ひとつの図式で捉えることは可能か】
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このような形式を通して、
終始皆さんにも問いかけ、検討してきたテーマは、
「心の全体像を、ひとつの図式で捉えることは可能か」
というものです。

すなわち、心の総合図とでもいうものを、
作ることができるかどうか。

なぜこんなことがテーマになるのかといえば、
あるひとつの捉え方から、こころ全体を説明するということが、
難しいことだからです。


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3)【パラダイム】
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学問において、対象の捉え方、
というものは、決定的に重要です。

例えば、物理学者とは、研究論文をたくさん読んで、
研究結果の知識をもっている人をいうのではなく、
その物理学が立っているモノの見方から、
世界や対象を捉えられる人です。

そうしたモノの見方を身につけていれば、
知識自体の大小は、それほど大勢に影響を与えない。

それくらい重要なもの、といっていいかもしれません。

こうしたモノの見方を、
科学哲学においては、パラダイム(学問の枠組み)といいます。

パラダイムは、○○学者の、
「○○学者らしさ」を規定している要因です。

科学者は、このパラダイムに従って訓練され、
パラダイムから対象を見ることを学び、
パラダイムに従って研究の手続きを踏むことを学びます。

そうした経験の中で、パラダイム、
すなわち、その時代の学問のあり方の「当たり前」
を学ぶのです。

それが、中学校の理科の授業と、
大学院の物理学の教育との違いということができると思います。


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4)【プレ・パラダイム状態による不便】
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心理学における、パラダイムの在り様は、
プレ・パラダイム状態と呼ばれます。

すなわち、他の自然科学のように、
学問領域全体を、ひとつのパラダイムで説明することができないのです。

もちろん、それぞれの研究パラダイム(=ここでいう図式)は、
自分たちの捉え方によって、
心の働きを全て説明しようとしています。

ですから、もちろん心理学者にも、
心理学者にとっての「当たり前」な部分があり、
その「当たり前」に従って、教育が行われています。

しかし、その「当たり前」は、
心理学全体というよりも、
ほとんどローカルルールなのです。

そのため、もし自分が属している「当たり前」を越えて
心理学全体について勉強しようとすると、
困難に直面します。

「当たり前」が、たくさんあるからです。

これが、心理学の初学者、
とくに臨床心理学の志望者がぶつかる不便の正体
であるように思います。

臨床心理学者は、
実践家でもあり、研究者でもあり、
様々な心理学理論の応用に関わっているため、
どうしても、複数のパラダイムにコミット
せざるをえないことが多いからです。


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5)【心の総合図の在り様】
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だからこそ、臨床心理学を学ぶ上では、
基礎心理学や、その様々なパラダイムを、
どのパラダイムにも、どっぷり浸りこむのではなく、
比較しながら学ぶ必要があります。

そこで、この「当たり前」を、ひとつひとつ整理して、
図式化して検討してきたのが、
これまでの心の側面の検討でした。

心全体をひとつの図式で捉え、
それでは、心を捉えきれないことを確認してから、
次の図式に進む。

これは、いつまででも繰り返すことができます。

なぜなら、どこまで行っても、
うまくあらゆる心理学分野を統合できるような
パラダイムが出てこないからです。

その意味で、心の総合図は、
ひとつのパラダイムとして独立したそれぞれの図式が、
無限に連なっている、
いつまでも完結しない図になるのかもしれません。


●【心の総合図】(イメージ)
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                     □
                       □          
         ■   ■          □         
      ■         ■        □        
    ■    * * * *      ■      □        
   □    * “心” *     ■      □        
   □    *       ■      □        
   □     * + + ■  ■       □         
    □                 □           
      □            □           
         □   □               
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*や□のそれぞれ…独立した“こころ”の捉え方
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このようにして、
我々は、心理学について、
「ひとつのパラダイム」の代わりに、
無数のサブパラダイムが独立して関係しあう、
心の総合図を得ました。

ここには、それに従っていれば
安心して○○学者と名乗れるような
「○○学者としての当たり前」はなく、
ただ、それぞれのパラダイムとの付き合い方があるだけです。

その、臨床心理学の学習者が身につけるべき、
心理学の様々なパラダイムとの付き合い方とは、

 ● 心理学においては、「正しさ」や「当たり前」は、
   心の捉え方の数だけ存在することを認める
  
 ● 自らの心の捉え方を、常に相対化する視点を持つ
  
 ● 複数の、無数の「正しさ」の基準を、
   白黒を付けず、どれも否定せずに抱える


という、非常にあいまいで不安定な、
常に矛盾を強いられるようなあり方であるように思います。

このことは例えば、
古くから問われ続けている、

   「心理学は科学なのか?」

という問いにも関わってきます。

もちろん、基礎心理学者ならば、
己の信義と沽券にかけて、心理学は科学である、
と断言するでしょう。

しかし、結局、この問いに対して、
この心の総合図の在り様から言えることは、
「分からない」ということです。

科学であると断言することも、科学であることを放棄する、
ことも、しないこと。

むしろ、そこでどちらと割り切らないことこそ、
臨床心理学のモノの見方であるようにも思えるのです。

しかし、その上でもう一つ重要なことがあります。

それは、「分からない」と言った後で、
その上で、あくまで科学であろうとすることです。

おそらく、「分からない」と己の不安定な立場を認め、
それで、納得してしまってはいけないのです。

「分からない」けれど、
科学の基本的なルールの中で、
勝負をしなければならないのです。

それができなければ、
臨床心理学は、心理学の中でも、他の自然科学の中でも、
同等の立場を確立し得ないでしょう。


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【次回配信】
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   次回 【問題号】… 2月6日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● 心理学者のための科学入門 中丸茂 1999 北大路書房

● 心理学論の誕生 サトウタツヤ 渡邊芳之 尾見康博 2000 北大路書房


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【編集後記】
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勉強は、バームクーヘンのように、
薄くてもいいので全体をざっくり捉え、
繰り返し積み重ねていくことで、
深みが増していきます。

ここでClip!アカデミーも、
もう一度最初に戻って、
心理学初学者にとっての基礎心理学について、
捉えなおしていきたいと思います。

それと、参考文献に挙げた文献は、
とてもいい本なので、
ご覧になってみてはいかがでしょうか。

とはいえ、
真正面から心理学の重要な問いに
取り組んだ良書ほど、
なぜかあまり売れていそうな気配がない…。

これは残念なことだと思います。


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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
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