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2006年4月25日火曜日

【Clip!アカデミー】第40回:エッセイ号「心の対象図の再検討」

【Clip! アカデミー】 第40回 2006/4/25
第1週 エッセイ号「心の対象図の再検討」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/
  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【心の対象図の限界】
            3)【説明しきれるか否か】
            4)【説明しきれる】
            5)【説明しきれない】
            6)【解けない方程式】
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】

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  ※【今回はこちら!】第1週「エッセイ号」…問題提起
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               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

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1)【前回のまとめ】
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● 心の対象図2(仮)
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 ┌-----┐   ┌-----------┐
 |”こころ”| ⇔ |     対象    |
 └-----┘   └-----------┘
                 ↓
┌------┐   ┌-----┬-----┐
| 構成概念 | + | 概念  | 実在  |
└------┘   └-----┴-----┘
=============================

前回エッセイ号では心の対象図を用いて、
現在の心理学が、構成概念という、一種の仮説モデルを通して、
“こころ”を捉えるということについて検討しました。

このことを、心の対象図2で表すと、以下の様になるでしょうか。

     ┌-----┐   ┌-----------┐
A    |”こころ”| ⇔ |     対象    |
     └-----┘   └-----------┘
       ↑
    ┌------┐   ┌-----┬-----┐
B   | 構成概念 | ← | 概念  | 実在  |
    └------┘   └-----┴-----┘

対象との対比において浮かび上がる“こころ”がAだとすると、
Bは、それを、科学的手続きとして表したものということができるでしょう。

対象の観察・研究を通して、
それなくしては、人間の行動を説明できない要因を仮定し、
それに、たとえば認知、知能、パーソナリティなどの、名前をつける。

それなくしては人間の行動を説明できない、
というところから、デカルトは人間の中に、
身体や物質と対立するもの(意識)を仮定せざるを得ませんでした。

我々現代人も、
人間の行動の背後に、説明しきれない何か、
を感じるからこそ、心理学という学問を必要とするといえます。


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2)【心の対象図の限界】
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しかし、このように、
今までの議論をまとめてみると、
この心の対象図の限界が見えてきます。

お気づきの方も多いでしょぅ。

それなくしては人間の行動を説明できない、
というものを、構成概念として仮定する、ということは、
説明できてしまったあかつきには、不必要なものとして、
捨てられることもありうる、ということなのです。

これは、心理学そのものの存在を危うくする事実ですね。

このことについて、
もう少し検討してみましょう。


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3)【説明しきれるか否か】
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 Cさん「構成概念なしで人間の行動を説明しきれてしまうなら、
     心理学は必要ないのではないか。」

 Dさん「いや、そもそも人間の行動を、
     客観的な観察をもと説明しつくすことは不可能だ。」

我々の心の動きや行動は、
いつかは客観的な観察をもとに、説明が可能なのでしょうか。

それとも、やはり、人間の行動の背景には、
“それなくしては人間の行動を説明しきれない何か”、
が常に存在し続けるのでしょうか。


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4)【説明しきれる】
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Cさんの、説明しきれる、という立場の、
かつての代表格が、行動主義です。

行動主義全盛の時代には、
どんな複雑な行動や心理過程も、
刺激と反応の連合の連鎖によって出来ている、
という考えが、主流派をなしていたようです。

だから、それをたどっていけば、
いつかはすべてを観察可能なS-Rの図式だけで説明できる。

こうした立場では、構成概念は不必要どころか、
事態を複雑にするだけの、天敵になります。

もっとシンプルに説明できるはずのことを、
わざわざ複雑にするわけですから。

だからこそ、行動主義は心の存在さえも否定し、
心理学ではなく、行動の科学として人間を理解しようとしたわけです。

こうした古典的な行動主義的人間観は、
現在では主流ではありません。

現代においては、
脳科学や認知心理学において、心の存在を否定するような証拠や、
考え方が台頭してきつつあります。

脳の働きが解明されれば、
“こころ”という言葉を使わなければ説明のつかないことはなくなる、
という主張です。

すべては、脳の構造と、ニューロンの神経活動のパターンに
還元されることになります。

この場合、構成概念は、
我々人間が、自分の実感として物事を把握するための、
一種の比喩表現としての価値しかないのかもしれません。

それはたとえば、
自由意志をめぐる議論がそれです。

自由意志は実際に存在するのか、
それとも、自由意志がある、と感じるように出来ているだけなのか。

すこし怖い想像ですが、
自由意志がある、と感じるように出来ているだけならば、
われわれは、人間とそっくり同じロボットを作れるようになるかもしれません。


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5)【説明しきれない】
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もうひとつのDさんの立場は、
そもそも人間や人間の行動を、
客観的な観察のもとに説明しきることは出来ない、
というものでした。

どこまでいっても、
“それなしには人間の行動を説明しきれない何か”
が残る、ということです。

これを、科学的手続きや、実証的視点を保ちつつ、
主張することは、難しいことです。

近年の試みに共通しているのは、
“こころ”と“対象”に分け、対比することよりも、
対象と対象の間の“関係性”の中に、
“それなしには人間の行動を説明しきれない何か”
を求めていこうとする態度です。

心理学において、こうした傾向を主張しだしたのは、
ヘルムホルツや、ゲシュタルト心理学だといえます。

ヘルムホルツの名づけた、
知覚における無意識的推論とは、
我々の知覚体験が、先行経験に依存する、
ということです。

枯れ木を見たことがなければ、
遠くの枯れ木を見ても、
人が立っているように見えるかもしれません。

知覚も、対象との関係によって変化するのです。

ゲシュタルト心理学ではそれに加えて、
視知覚の対象となる各要素が、
ひとつのまとまりを成すときの法則が重視されました。
(プレグナンツの法則)

すなわち、各要素間の関係性に、
ある法則が見られるとき、
それらは、ひとつのまとまりを形作る、というわけです。

ここでは、
対象自体ではなく、対象間の関係性の中にこそ、
まとまりや、知覚を形作る“何か”が存在する、
という発想がされています。

しかし、ゲシュタルト心理学は、
そうした“何か”を、体系的に研究し、
幅広く理論立てるまではいきませんでした。

ただ、関係性の中に、
説明しきれない何か、を見るまなざしは、
コネクショニズムやシステム理論、生態学的心理学など、
近年の様々なアプローチに引き継がれています。


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6)【解けない方程式】
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説明しきれる、という立場も、
しきれない、という立場も、
ともに、
現時点では決定的な理論を生み出すには至っていません。

と、このように書くと、読者の皆さんの中には、

   「いつも同じようなことを言っている」

と感じる方がいるかもしれません。

でも、実際、そのとおりなのです。

こうした対立構図と、答えの出ない状況について、
本メルマがでも、これまで、
繰り返し論じてきました。

繰り返し繰り返し。

同じことを、様々な側面から、
繰り返し論じる。

いつまでも、すっきりはしません。

しかし、それが答えだということも出来ると思います。

ドゥルーズという哲学者は、
この世のあらゆることは、数学の方程式で表現することが出来る、
といいます。

しかし、その方程式は、解くことが出来ないのだ、と。

我々の人生が、
どんなに答えの出ない方程式であっても、
我々はそれを実際に生き、なんらかの結果を出さざるをえないのです。

繰り返し、繰り返し。

臨床も、研究も、その丁寧な繰り返しでありたいものです。



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【次回配信】
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   次回 【問題号】… 5月2日(火)にお送りする予定です。
             
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【参考文献】
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● ドゥルーズの哲学-生命・自然・未来のために 小泉 義之 2000
  講談社現代新書

● 心理学物語-テーマの歴史 R.C.ボールズ著 富田達彦訳 2004 
  北大路書房

● 意識の神経哲学 河村次郎 著 2004 萌書房


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【編集後記】
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心の対象図の検討も、今回が最後です。

「対象」という言葉自体は、
我々の日常にもよく登場する言葉です。

しかし、そのような言葉であるほど、
深く考えていくと、
人間とは何か、世界とは何か、
という問いと無関係には議論できなくなっていきます。

そのため今回は、心理学を学ぶ上で関係の深い
哲学的なテーマや研究者を、
少し紹介する内容にしました。

哲学は、言葉と論理だけで、
本質的なテーマを検討していきます。

その分、言葉や論理の扱いは、
心理学の及びも付かないほどに厳格です。

ここでは、そうした厳格さを犠牲にして、
大まかなイメージを持ってもらうことを
目指しました。

そのフォローは、
この後に続く、来週以降の
問題号、解説号に譲ることにしましょう。



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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
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