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2006年6月20日火曜日

【Clip!アカデミー】第46回:エッセイ号「心の関係図を広げる」

【Clip! アカデミー】 第46回 2006/6/20
第1週 エッセイ号「心の関係図を広げる」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/





      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【+αはどこにあるのか】
            3)【相互作用から生まれるパターン】
            4)【集団規範と制裁】
            5)【集団の構造】
            6)【集団文化】
            7)【+α=関係性】
            8)【関係性へのまなざし】
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】

 
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   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
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            ■ 基本サイクル ■
 ※【今回はこちら!】 第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
            第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

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1)【前回のまとめ】
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これまで、関係としてのこころ、
について検討するための図式として、
集団を取り上げてきました。

“こころ”が、実体的な側面や、
概念的な側面に収まらない部分を持っているとすると、
そこからはみ出る部分を、どのように捉えられるか。

そこで、新しい可能性として検討してきたのが、
関係的な側面です。

関係から生じる存在としてのこころについて、
イメージを膨らませるために、
同じく関係から生じる存在としての、
集団を取り上げています。

集団は、個々人の総和と等しい存在ではありません。

つねに、個々人の総和以上にはみ出ています。

そして、集団が、その構成要素である個々人の外にはみ出していく力は、
どうやら個々人の間の相互作用から生じているらしい、
というのが、前回エッセイ号までの内容でした。

その結果仮に立ててみた図式が、
以下のような心の関係図になります。

心の関係図(仮)
==========================

● 集団 = 個人1⇔個人2⇔個人3…個人N +α

“こころ”= ???⇔???⇔???…N +α

==========================

集団は、現在のところ、
N人の個人と、その間の相互作用「⇔」によって
表現されています。

そして、それ以上にはみ出た部分である+αこそ、
我々が知りたいこころの在り方について、
何らかの示唆を与えてくれるかもしれません。


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2)【+αはどこにあるのか】
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我々は現時点で、
集団を形成する力として、個人と、
個人間の相互作用しか持ち合わせていません。

個人と、相互作用は、いわば、
集団の中でも、観察可能な部分です。

すなわち、実体として存在して、
観察によって、科学的研究が可能な部分、
といってもいいかもしれません。

それに対して、我々が知りたい+αは、
観察を容易に認めない部分です。

観察可能な部分から、
いかにして観察不可能な部分が生じるのか。

これは、我々が“こころ”なるものについて
検討するときにも、重要な視点であるといえます。

我々が実際に集団を形成する過程から、
+αについてイメージを膨らませて行きましょう。


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3)【相互作用から生まれるパターン】
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大学院入試に合格し、
無事Clip!大学の大学院に通うことになったあなた。

クラスメイトと顔合わせをすると、
さっそくメルアドや電話番号を交換し、
集団としての相互作用が始まります。

このようにして、
自然なコミュニティが発展していく過程で、
はじめに生じてくるものがあります。

それは、相互作用のパターンです。

誰が前に出て、誰が一歩下がるのか、
誰がボケて、誰が突っ込むのか、
話題を提供するのは誰か、
仕切ったり、まとめたりするのは誰か。

あなたもクラスメイトも、誰が冗談を言って、誰がうまく拾ってくれるか
を把握し、それを繰り返す中で、
集団全体が和気あいあいとしてくるかもしれません。

集団としてのまとまりを高めるための、
当面のコミュニケーションのパターンの積み重ねによって、
ここでようやく、
個々人の間に、関係性が生じてくることになります。

===================
   あなた
   ↑↓
   級友1  → 関係性
   ↑↓
   級友N
===================


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4)【集団規範と制裁】
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ここで、世界的に類を見ない、
まったく新しい形の心理療法がNASAで開発された、
と仮定しましょぅ。

大学院のクラスメイトたちで、
この"Clip!療法"を体系的に勉強していこう!
という目的を設定する場合、
集団は目的遂行のための組織になります。

ここからは、勉強会を作る場合を想定して考えて行きましょう。

組織を作る上で、
まず重要なものが、集団におけるルールです。

集団規範は、集団を維持し、目的を遂行するための行動を、
各構成員に要求する圧力になります。

勉強会なら、月に何回、何曜日の何時に集まる。
持ち回りで、Clip!療法に関する発表を行う。

集団規範が設定された瞬間から、
これまで個々人の間の関係性という、
あいまいな揺らぎの中から立ち上がってきた集団という存在が、
逆に個々人の行動を規定し始める、という現象が起こるのです。

サークルを作ろう!だとか、旅行に行こう!だとか、
決めるのは個々人です。

しかし、決めたとたんに、幹事を決めたり、
決まった日時に出席したり、作業を分担して進めたり…
という作業が面倒に感じたことは、皆さんもあると思います。

勉強会にしても、
参加する以上、欠席すればひんしゅくを買うかもしれないし、
持ち回りで発表を負担しなければ、会にはいられなくなるかもしれません。

これが、集団規範によって生じる圧力で、
たとえ法律のような強制力をもたなくとも、逸脱には、
なんらかの制裁(サンクション)が科されることになるのです。

  =====================
   あなた
   ↑↓
   級友1  → 関係性 → 勉強会のルール
   ↑↓
   級友N
  =====================


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5)【集団の構造】
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また、ルールを守り、実際に会を動かしていくためには、
場所取りや事務連絡、などなどの、
集団を維持するための役割と、それを行う人が必要です。

ここから、集団の構造が生じてきます。

世話人と、参加者のように、
個々人の役割や、機能が分化してくるのです。

回を重ねるごとに、こうした構造は、
ますますハッキリとして、
集団は組織化していきます。

もし、Clip!療法の効果が世界的に認められ、
日本で研究していたのが、
このClip!大学Clip!療法研究会だけだったとしたら、
勉強会への所属はある種のステータスになり、
構成員にとっての準拠集団になる可能性もあるでしょう。

本を出版したり、
Clip!療法に関するセミナーを行ったり、
Clip!療法用の心理検査を考案したり。

継続的な研究のために、
日本Clip!療法学会を設立することになるかもしれません。

皆さんも、心理学関係の学会のホームページを回ってみてください。

研修部・広報部・監査部などの様々な部署や、
理事・監査役・学会員・準会員などの、
様々な地位・階層があることが分かると思います。

そして、これらの学会も、
ほとんどはじめは、このような小さな勉強会から
始まったものがほとんどなのです。

 =====================
   あなた
   ↑↓           ルール
   級友1  → 関係性 → 
   ↑↓           構造
   級友N
 =====================


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6)【集団文化】
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ここまで成熟した集団(厳密には、組織)には、
独特の文化や特徴が見られます。

このような集団が、一流企業、学校、国家、民族、あるいは、
個々の家族を形成している集団です。

社風や校風は、組織にとってのパーソナリティに当たるものです。

それは、その組織の名前とあいまって、
実際の振る舞いとは必ずしもイコールにはならないけれど、
その組織の独自性を表象しているのです。

=============================
あなた
↑↓           ルール  「Clip!大学Clip!療法
級友1  → 関係性 →     → 勉強会」独自の文化
↑↓           構造
級友N
=============================


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7)【+α=関係性】
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このように見てみると、
はじめ、あなたを初めとした個々人がいて、
相互作用の中で、なんらかの関係を構築していきます。

個々人間の相互作用は、実際に観察可能な部分です。

そうして出来た関係性から、ルールと構造、
独自の文化など、目的を持った集団にとって必要な要素が、
生じているように見えます。

ルールや構造は、実際に目で見ることは出来ませんが、
文書やHPなど、何らかの形で概念化され、共有されます。

独自の文化を概念化することも、
ルールや構造のように容易ではありませんが、
社会学や文化人類学によって行われています。

それに対し、関係性、
すなわち、個々人の間の相互作用に生じてきた様々なパターンは、
集団が一度成立してしまうと、
陰に隠れてしまいます。

二者間のパターンならまだしも、
集団内のパターンは、すべてを観察し、把握するには変数が多すぎるし、
複雑すぎて、容易な概念化を拒むところがあるからです。

集団のプロセスの根底に常にありながら、
捉えられない要素があること。

これこそが、
集団が個々人の総和ではありえない理由
といってもいいのかもしれません。


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8)【関係性へのまなざし】
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ここで、
これまでの検討を加えて、
心の関係図を書き直してみましょう。

●心の関係図2
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個人1
↑↓           規範  
個人2(→ 関係性 )→     → 集団文化
↑↓    =+α    構造
個人N
==========================

長々と、関係性についての議論を重ねてきたのは、
実は、集団におけるこうした関係性のあり方に
直接触れていこうとするのが、
心理療法や、臨床心理学の視点だからです。

この図式を見ていると、
当たり前のように見えて、驚くべき部分があります。

それは、我々にとっての、“集団らしさ”の
ほとんどは、あるようなないような、幻想に近いものだ
ということです。

実際に存在し、この目で見ることが出来るのは、
個々の人間であり、個々人の間の相互作用だけ。

あとは、生徒手帳に書いてある校則のような、
単なる取り決めにしかすぎないように見えます。

しかし、それにしたがって、
それがあるかのように、人々が動くことによって、
集団は力と生命を与えられます。

集団規範や、集団の文化は、
そうした、生々しいプロセスの上に成立しています。

その生々しいプロセスは、
時にくすぶったり、ドロドロしたりする。

集団のルールや構造と合わなくなったり、
対立したりすることもあるかもしれません。

臨床心理学的な視点においては、
個々人を観察する中で、
個人を超えた関係性に目を向け、
その中に入っていって、直接・間接に、
それに触れていこうとするのです。

そのために求められているのは、
見えないものを見ようとする想像力。

それも、どこまでが想像で、どこまでが実在なのか、
を区別するための、理論的な準拠枠を常に参照し、
修正を続けられる想像力です。

その二つを手に入れるために、
皆さんも今の勉強をしているのだと考えましょう。


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【次回配信】
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   次回 【問題号】… 6月27日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● 心理用語の基礎知識 1973 東 洋・大山正・詫摩武俊・藤永保 有斐閣

● 心理学 1996 鹿取廣人・杉本敏夫 東京大学出版会

● 心理学辞典 1999 中島義明ら 編 有斐閣 

● キーワードコレクション 心理学 1994 重野純 新曜社


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【編集後記】
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集団という単位は、
臨床心理学では、以外と知っているようで、
知らない領域かもしれません。

知っているように思うのは、
我々が日常において、日々それを体験しているからです。

知らないというのは、
その体験を学問的に言葉で捉えるということが、
難しいからかもしれません。

また、心理職が触れるグループプロセスというのは、
社会学や人類学など、
他分野が扱っている“集団”とは、どこかズレる。

逆に、集団療法や集団を扱う心理療法は、
どうも理論的バックボーンが弱いように感じるのは、
私だけでしょうか。

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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。

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