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2007年2月13日火曜日

【Clip!アカデミー】第71回:解説号「心の総合図は作りえるか?」

【Clip! アカデミー】 第71回 2007/2/13
第3週 解説号「心の総合図は作りえるか?」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/

  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
            2)【問題の解説】
          【Q1】パラダイムに関する問題
          【Q2】プレ・パラダイム状態に関する問題
          【Q3】学び方に関する問題
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】



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   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
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            ■ 基本サイクル ■
            第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
            第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
  ※【今回はこちら!】第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

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1)【前回のまとめ】
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現在は、「心の総合図」についての検討です。

また、前回の問題号、今回の解説号では、
本メルマガでこれまで意識してきた、
心理学の特徴と、勉強の仕方について、
考えていきます。

もともと、本メルマガの
「図式を立てて、それを検討する」というスタイルは、
心理学における心の様々な捉え方を、
ひとつの図で表せないか、
という発想から始まりました。

しかし、実際にやってみると、
様々な不都合が発生します。

例えば、心の構造を、会社に例えて
考えてみるとどうなるか。



これは、入門書等でよく見るようなものです。

しかし、この図式はどうしても、
心を還元主義的に見る視点を前提としています。

心を、いくつかの要素や部品に分解すれば
捉えられる、という考え方です。

これだと結局、
心の非還元主義的な捉え方が表せないのです。

このようにして、
ひとつの捉え方から図式を作ると、
それでは捉えきれない部分が、
どうしても出てくることが分かります。

しかし、
もともと心というものは、
そのようなあいまいなものであり、
ひとつの捉え方では、捉えきれないものなのかもしれない。

クーンのパラダイム論を当てはめるならば、
心理学は、複数のサブパラダイムが並立する、
プレ・パラダイム状態ということになります。

そのような前提のもと、
心を捉えるための様々な図式を立ててきました。

もし、心がどこまで行っても
捉えきれるものではないのであれば、
この図式も、永遠に続けていけることになります。

それを、ここまで積み重ねてきた中で、
あえてイメージにしてみると、
以下のような図式になるかもしれません。

●【心の総合図】(イメージ)
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                     □
                       □          
         ■   ■          □         
      ■         ■        □        
    ■    * * * *      ■      □        
   □    * “心” *     ■      □        
   □    *       ■      □        
   □     * + + ■  ■       □         
    □                 □           
      □            □           
         □   □               
============================
*や□のそれぞれ…独立した“こころ”の捉え方
============================

このようにして、
”こころ”をひとつの図式で捉えようとするならば、
決して完結しない図になるでしょう。

他の自然科学や、
基礎心理学領域は、
この中の、ひとつの捉え方=パラダイム
にしたがって、研究を積み重ねていきます。

臨床心理学を学ぶ上では、
はたして、ひとつのパラダイムだけに
したがっていられるのか。

それは、心理学を勉強する上で、
どのような影響を与えることなのか。

今回解説号では、
その点についていくつかの議論を展開していきます。


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2)【問題の解説】
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【Q1】パラダイムに関する問題

パラダイムを構成する要因として、
もっとも不適当なものを、
以下の選択肢からひとつ選びなさい。

====選択肢====

a. 研究の手続き
b. 教科書
c. 研究成果

===========

正解は、  【 d. 】

パラダイムは、
学問が拠って立つ枠組みのことですが、
それは学問の定義というよりも、
実際に研究者たちが、
どんな訓練のもとで、どんな手続きで、研究を行うか、
によって成り立っているとされています。

とくに教科書は、
パラダイムを構成する重要な要因です。

本メルマガにおいても、
折に触れて強調してきましたが、
初学者は教科書的な内容を、
必ず一通り理解する必要があります。

これは、その知識が正しい正しくないということとは別に、
パラダイムを身につけることとイコールだからです。

これができなければ、
他の研究者と同じ土俵で議論をすることができません。

つまり、同じ言葉を話すことができないので、
心理学者のコミュニティには入れないということです。

ここで、教科書的な内容の批判を含む、
より詳細な知識を下手に自分の中に入れてしまう人がいます。

こういう人は、
はじめのうち勉強が進まなくなることが多いだろうと思います。

はじめは、細部の正しさに悩むよりも、
みんなで共有している部分を暗記してしまうほうが、
ここでは利口なやり方なのです。

とはいえ、実際に研究を始める段になると、
それは逆になります。

研究は、それまでに蓄積されてきた研究の前提を、
疑うところから始まるからです。


【Q2】プレ・パラダイム状態に関する問題

心理学領域の研究者のなかで、
プレ・パラダイム状態の影響を、
もっとも受けるのは誰か。
以下の選択肢から、最も適当なものを選びなさい。

====選択肢====

a. 社会心理学者
b. 実験心理学者
c. 臨床心理学者
d. 精神分析学者

===========

正解は、   【 c. 】

研究者は、通常、ひとつのパラダイムにしたがって、
研究を進めます。

社会心理学なら社会心理学、
実験心理学なら実験心理学的なアプローチ。

そこには、主要な研究対象があり、
主要な研究手段があり、先行研究があります。

自分が何の上に積み上げているか自覚していなければ、
研究を積み上げていくことはできないので、
これは当然の態度であるともいえます。

逆に、研究者は、自分の研究分野と、
研究パラダイムにしたがって研究していれば、
普段、あまりそのことについて深く悩む必要はありません。

それが、「当たり前」の前提だからです。

それは、臨床心理学においても同様です。

たとえば、
精神分析の立場の中だけで臨床や研究をしていれば、
心理学のプレ・パラダイム状態について、
悩む必要はなくなります。

精神分析が「正しい」という前提を共有できるからです。

ただ、近年の臨床心理学者、
とくに現場の心理臨床家たちは、
折衷主義を採っている場合がほとんどです。

もちろん、
自分の好きなスタンス、
柱となる理論を持っていることがふつうですが、
こうなると、どの立場も否定できず、
ハッキリとしたパラダイムを持っている場合と比べると、
心もとなさを感じる場合が多いようです。

ただ、それを明確に自覚しない場合も多いようですが。


【Q3】学び方に関する問題

学問を学ぶ順序として最も適当なものを、
以下の選択肢からひとつ選びなさい。

A)自分のスタンスを自覚する
B)さまざまな視点から書かれた新書を読む
C)さまざまな視点を相対化する視点を身につける
D)教科書の内容を覚える

======選択肢======
1)  2)  3)  4)   
a. D → A → B → C
b. D → B → C → A
c. A → B → C → D
d. A → B → D → C
===============

正解は、  【 b. 】

D)教科書の内容を覚える
 (研究者が共有している前提(パラダイム)を身に着ける)
     ↓
B)さまざまな視点から書かれた新書を読む
 (自分が学んだ前提を疑う)
     ↓
C)さまざまな視点を相対化する視点を身につける
 (より大きな視点から、学問全体を捉えなおす)
     ↓
A)自分のスタンスを自覚する
(全体を分かった上で、自分が、どのような前提に立つのか、
 そこにどのような貢献が出来るか、自覚しながら行動する)

臨床心理学を学ぶ場合、
C)のより大きな視点から学問全体を捉えなおす
ことあたりから、難しくなってくるようです。

その理由としては、

  ●それぞれの学派のパラダイムにとらわれ、
   他のパラダイムを排斥しようとする。

  ●前提に無自覚なまま様々なパラダイムの
   つぎはぎ(折衷)になる。

のふたつが考えられそうです。

この原因としては、実践から入るために、
科学や心理学という、より大きなパラダイムを、
あまり明確に意識していないことが考えられます。

また、心理学におけるプレ・パラダイム状態について
認識がないことも、このことに拍車をかけていそうです。

また、D)のレベルで、
基礎心理学に関する勉強がストップしてしまうことも、
臨床心理学専攻者の中ではよく見られる傾向です。

基礎心理学は臨床で必要ないから、
と考えると、ついおろそかになる気持ちも分かるのですが、

この一連の学びのプロセスを、

たとえば、
● 自分のモノの見方を知る
● 自分のモノの見方を疑う
● 自分のモノの見方を相対化していく
● 自分が拠って立つモノの見方を自覚する

と捉えると、これはそのまま、
カウンセリングの勉強と同じであると思います。

こうした勉強を、地道にやり続けられるのが、
臨床心理学を選んだ人間には、
不可欠な素養なのではないでしょうか。


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【次回配信】
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   次回 【エッセイ号】… 2月27日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● 現代心理学〈理論〉事典  中島義明編 2001 朝倉書店

● 心理学論の誕生 サトウタツヤ 渡邊芳之 尾見康博 2000 北大路書房
 
● 流れを読む心理学史 世界と日本の心理学 サトウタツヤ 高砂美樹
2003 有斐閣 

● 心理学研究法 心を見つめる科学のまなざし 高野陽太郎・岡隆 編
  2004 有斐閣


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【編集後記】
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前回、今回と、
心理学を勉強すること自体について、
パラダイムという概念を中心に検討しています。

特に、臨床心理学という分野は、
他の心理学分野と比べると、
裾野が広く、志望者も多い割りに、
不明確な部分も多いように思います。

このことは、臨床心理学専攻の人たちにも、
アイデンティティの不安定さや、
基礎心理学コンプレックスのようなものを
作り出すことに、一役買ってはいないでしょうか。

心理学を勉強する皆さんには、
こうした、自分たちの足場のあり方自体に関して、
一度は目を向けて、考えてみてほしいと思います。

そのことについて、
何か思い当たることや、努力していること、
批判や疑問などがあったら、
我々にも教えてもらえるとありがたいと思います。


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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。

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