【Clip! アカデミー】 第13回2005/08/16
第1週 エッセイ号「心の過程図を捉えなおす」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
再度【セミナー企画アンケートのお願い】
1)【前回のまとめ】
2)【心の流れは流れ図で表現できるか】
3)【フローチャート】
4)【離れて見る:サイバネティクスとフィードバック】
5)【近くで見る:コネクショニズム】
6)【我々の常識と科学的思考】
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
※文中の図が正しく表示されない場合、等幅フォントでご覧ください※
メルマガの最後に【Outlook Express・Netscape Messangerの場合】
のフォント設定のやり方を載せてあります。
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○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
■ 基本サイクル ■
※【今回はこちら!】第1週「エッセイ号」…問題提起
↓
第2週「問題号」…練習問題
↓
第3週「解説号」…確認とフィードバック
↓
第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
↓
■ 第2サイクルへ続く ■
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1)【前回のまとめ】
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前回は、第3週解説号として、第2週の問題号の解説を
していきました。
今回は、第5サイクルのエッセイ号として、
前回のエッセイ号で示した心の過程図を、
検討していきたいと思います。
前回エッセイ号では、Aさんの朝の出来事から、
心の働きを、流れとしてたどってみるという試みは、
心の過程図という形になりました。
【7月19日のAさんの日記 ※一部抜粋】
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
| 「朝、道を歩いていると、 |
| 通りの向こうに、 |
| Bさんが歩いているのが見えた。 |
| |
| とっさに顔を伏せたくなったが、 |
| 思いなおして、軽く会釈した。」 |
○ ~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
● 心の過程図(仮)
┌――――――――┐
|物理的エネルギー|
└――――――――┘
↓
┌--------------------------┐
|身体|→|知覚|→|認知過程|→|潜在意識|→|意識|
└--------------------------┘
↓
┌――┐
|行動|
└――┘
今回は、この心の過程図に関して、
他の視点をぶつけてみることで、
心理学全体への理解を深めていくことにしましょう。
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2) 【心の流れは流れ図で表現できるか】
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心の過程図を眺めていると、
出てくる疑問があると思います。
こうしたフローチャート(流れ図)という形式が、
どこまで実際の心の流れに当てはまるのか、ということ。
フローチャートは、
主に認知心理学において、
心的プロセスのモデルを記述するために用いられてきました。
表現してしまってから、できるかもないものですが、
本メルマガにおいては、心の全体を、ひとつの図式によって
表現することは出来ない、という立場に立っています。
そのために、心の全体を、様々な角度から取り上げつつ、
取り上げた視点の限界について議論することで、
心理学の全体像に迫ろうという方法論を取っています。
ですから、ここでは例によって、一度、その形式で構築した
心の過程図という図式を、
解体し相対化する、という作業をしてみることにします。
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3)【フローチャート】
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この、矢印と箱による図式を、心理学に導入したのは、
ブロードベンドだと言われます。
行動主義は、
外からの刺激と、それに対する反応だけを問題にしました。
Stimulus(刺激)-Response(反応)
SもRも、観察可能な対象なので、
直接それを取り扱うことが出来ます。
しかし、認知心理学では、SとRの間にある、
中間変数を問題にします。
S(刺激)-Organism(有機体)-R(反応)
Oの活動は直接観察が出来ないので、
SとRをつなぐ目には見えないプロセスを、
何らかの形で表現する必要があったのです。
こうした心のモデルの作り方は、
認知心理学の基本的な研究方法のひとつになりました。
なので、心の過程図について考えていくと、必然的に、
認知心理学について検討することになっていきます。
我々が現在使っているパソコン(ノイマン型コンピューター)は、
プログラムで指定された命令を、
順番にひとつずつ処理していくように出来ています。
それは、ベルトコンベアー上で自動車を組み立てていくようなものです。
感覚からの入力が終わったら、次にそれを材料に知覚を構成する。
その知覚を元に認知過程が生じて・・・といった具合に、
順番に、より高度な処理が実現していくという流れ。
こうした処理の仕方を、直列処理といいます。
人間の心的プロセスを、流れ作業の個々の工程に分解して、
それを順番に真似していけば、
最終的には、人間の心的プロセスを、そのまま再現することが出来る。
これはリバースエンジニアリングといいます。
例えば、人間の眼球の働きを分析すれば、
優れたレンズを備えたカメラが作れるかもしれない。
その結果が、人間の認知処理を再現した人工知能やロボットなどの、
工学分野への応用なのです。
この考え方は、人間の心的プロセスを、
バラバラのパーツに分解できる、精巧な機械と考えること
を前提としています。
もしできないにしても、
区別がつかないところまで真似できれば問題はないし、
そこまでいってから違いを考えればよい、
という、現実的な実用主義が背景にあります。
それに対して、こうした視点の限界を
論じる、新しい視点も出てきています。
● 人間のような有機体はそもそも機械ではないから、
部分部分にどれだけ詳しくなっても、人間のことは分からない、
という立場に、システム論。
● コンピューターを元にした直列処理に対して、
生物の脳を元にした並列処理モデルを提唱するコネクショニズム。
前者は、心の流れの全体が見えてくるよう、
離れてみるような捉え方。
後者は、心の流れの実際が見えてくるよう、
極力近づいてみるような捉え方、
といえます。
次に、これらの視点から、
心の過程図の欠点について検討をしていきましょう。
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4)【離れて見る:サイバネティクスとフィードバック】
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人間を含む有機体を、
単なる部分の働きの足し算と考えるのではなく、
まず部品に還元できない全体として捉えようという考え方は、
システム論と呼ばれます。
システムとしての有機体が、
自分をどのように成り立たせているか、
あるいは、周囲のシステム(物理的環境から、職場、地域、社会などなど)
とどのように相互作用しているか。
システム論は非常に重要な考え方ですが、
ここで論じるには紙幅が足りません。
いずれきちんと取り上げるとして、ここでは、
システムの働きを理解するために、
有機体や機械がどのように自身の行動や内的過程を制御しているのか、
という点について検討してみましょう。
そのための理論がサイバネティクスで、
そのための仕組みがフィードバックです。
フィードバックとは、
システムが自己を制御し、
よりよい行動や、安定した動作に近づけるための
情報です。
よく引き合いに出される例がサーモスタットです。
クーラーや冷蔵庫に内蔵されているサーモスタットは、
クーラーによる温度の変化を常に監視していて、
結果をフィードバックします。
この情報をもとに、寒すぎれば、温める、暑すぎれば、冷やすことで、
温度を一定に保つことができます。
● 設定温度:28度の場合
冷やしなさい
← ← ← ← ← ← ← ← 室温>28度の場合
↓ ↑
クーラー → → 実行 → サーモスタット「今の室温は?」
↑ ↓
← ← ← ← ← ← ← ← 室温<28度の場合
止めなさい
人間や社会活動においても、
フィードバック情報が、行動や情報を制御するために、
様々な場面で用いられていることが分かっています。
血中の塩分濃度が高くなると、
喉が乾いて水を飲みたくなります。
友達と並んで歩いているとき、
我々はふつうお互いの距離を一定に保つように、
歩幅やからだの向きなど、様々な運動の微調整を繰り返しています。
また、心理療法において、
セラピストは自分の応答の効果を、
クライエントの表情や返答からのフィードバックによって判断し、
調整しています。
前回エッセイ号で例に挙げたAさんの場合、
Bさんを遠くに見つけて、顔を下げるという運動は、
同時に筋肉運動感覚を生じます。
この感覚フィードバックから、AさんはBさんを避けたいという、
意識されなかった欲求に気づくことができ、
自分の気持ちも加味して、行動を修正することができました。
我々の心の過程図には、
こうしたフィードバックのプロセスが抜けているようです。
付け足してみると、以下のようになりました。
物理的・社会的プロセスと、
心の各プロセスがぐるっと一周する輪になってしまい、
どこからが、心のプロセスの始まりで、終わりなのかが分からない図になっています。
物理的・社会的プロセス 心的プロセス
―― →→ ―― → ―― → ―― → ―――― → ――
|行動| |身体| |知覚| |認知| |潜在意識| |意識|
―― ←← ―― ← ―― ← ―― ← ―――― ← ――
これは、身体、知覚などの各側面が、
それぞれひとつのシステムとして機能するため、
心的過程は、これらシステム間の情報のやり取り、相互作用
として表現できるためです。
ここでは、もはや直列的な情報の処理の記述は、
難しくなっています。
なぜなら、情報の流れが一方的ではなく、
常にお互いに影響を与えながら、自身の安定性を維持する形に
なっているためです。
こうなると実際には、
ひとつのメインストリームを
追跡することだけでは、厳密には
心の流れを、明らかには出来ないことがわかります。
ある結果にどのような要因が影響しているのか、などは、
実際には非常に複雑だからです。
知覚ひとつとっても、身体的な感覚刺激からも、認知過程からも、
潜在意識的な欲求からも、意識的な注意や行動の結果からも影響を受けて、
常に変更され続けるのです。
それでは、先ほどのようなフローチャート的な捉え方は、
もはや過去の遺物なのでしょうか。
そんなことはありません。
川の流れも、目を近づけるほどに、
水分子の振る舞いは複雑で予測不能になりますが、
目を離していくほど、
全体の流れが、どのように、どこに向かっているのか、という、
それなりの構造が見えてきます。
どちらが本当の川か、という問いに意味はありません。
心の構造においても、
流れから目を離して遠くから見ると、心の過程図のようなまとまりが見え、
目を近づけて、詳細に眺めると、
それとはまったく異なる要素の振るまいが見えるのかもしれません。
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5)【近くで見る:コネクショニズム】
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ここで、流れに目を近づけたときに見えてくる心の流れのモデルに、
コネクショニズムがあります。
先ほどの、フィードバック・システムは、
心的プロセスが、単純な直列処理であるとすると、
非常に手間が掛かります。
なぜなら、常に様々なレベルの処理の間を行ったり来たりするためです。
これでは、いつまで立っても、
ゴール(行動)にたどり着きません。
単純な処理は同時並列的に行っていると考えないと、
人間の認知処理の速度は説明がつきません。
なぜって、
神経線維を伝わる電気信号(インパルス)の速度は、
コンピューターよりはるかに遅いからです。
それでも、人間の頭脳は、
コンピューターよりはるかに高速な処理を実現しています。
ですからそこには、
コンピューターにはない、
同時並列処理を行う仕組みがあるはずなのです。
このような立場を、
コネクショニズムといいます。
コネクショニズムでは、
認知処理のモデルを構築するにあたり、
先ほどのフローチャートは姿を消し、
たくさんのニューロンが並び、相互に接続し合っている図式が
登場します。
入力層 中間層 出力層
→●A ○ ●E→
○
→●B ○ ●F→
○
→●C ○ ●G→
○
→●D ○ ●H→
これは、実際に脳の神経系の仕組みに似ており、
ニューラルネットワークと呼ばれます。
ニューラルネットワークは、
コンピュータープログラムのように、
あらかじめ決められた経路が設定されていません。
それが、繰り返し刺激が入力されて、
その結果がフィードバックされることで、
次第に正解に近づくような情報の経路が形成されていきます。
入力a → ●A
→ ○
→ ○ → ●F → 出力 b
すなわち、柔軟に変化しながら、
より良いプログラムが勝手に出来ていくことになります。
このような学習によって、成長するネットワークを用いて、
実際に複雑な問題を解かせるプログラムが作られています。
ここまでくると、
心の過程図のような図式は、
大雑把過ぎるということになります。
神経ニューロン間の接続や発火。
特に脳科学においては、
こうした脳の神経ニューロンの振るまいだけから、
心の過程図で見てきたような
心的プロセスを説明できると考えています。
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6)【我々の常識と科学的思考】
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どうでしたか。
後に行くほど、頭の中で、心の流れをイメージするのが、
逆に難しくなってきたのではないでしょうか。
認知心理学の立役者のひとり、ミラーの研究から、
我々が意識的に一度に認識できる単位は、
7プラスマイナス2程度であることが知られています。
そして、意識的な処理は並列処理が苦手です。
だからこそ、
我々には、複雑なフードバックループや、システム、
ニューラルネットワークのような並列分散処理のような仕組みは、
要素が膨大過ぎて、その全体をイメージしづらいのです。
逆に言えば、
心の流れにフローチャートのような特徴があるのは、
我々が直観的に把握しづらい流れを、
単純化して理解しやすくするための、
我々の認知の枠組みを反映しているから、
そう見えるのだ、ともいえるでしょう。
フィードバックやシステム理論、コネクショニズムについて、
これ以上深入りするのはよしましょう。
ここでは、
◆ 我々に理解しやすい図式以外にも、
心の流れを説明する図式は存在するということ、
◆ それは、我々の認知特性に合わないので、
日常の体験だけでは理解しにくいこと、
だけ、心に留めておいてください。
我々は、普段我々が見たいよう、
見やすいように物事を理解することに、慣れています。
しかし、気をつけていないと、
我々が見たがっている図式が、実際に存在するかのような錯覚に
とらわれてしまいます。
特に心理学は、
その根底に、まず自分の心というものに対する、
常識というか、思い込みがあるところからスタートします。
だからこそ、理解しやすい代わりに、
そのような錯覚にとらわれやすいともいえます。
フローチャートに対するコネクショニズムなどの図式は、
おそらく、日常体験からではなく、
科学的方法論にしたがって、仮説と証拠を積み上げることから
見えてくるものです。
それは、我々の素朴な世界の見方からすると、
奇妙で理解しづらいけれど、
我々の見方と両立しうる、ひとつの世界のあり方なのです。
自分の常識にだまされず、
訓練されたやり方で、証拠と推論と仮説を積み重ねることで、
目に見えない流れを見るやり方。
それが、科学的思考というものの特徴であり、
利点です。
常識と科学的思考、この両者の相互作用によって、
我々は、人間の心について、より多くのことを学ぶことが出来るのです。
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【次回配信】
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次回 【問題号】… 8月23日(火)にお送りする予定です。
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【参考文献】
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● 一般システム理論 1973 フォン・ベルタランフィー著 長野敬
太田邦昌訳 みすず書房
● 「複雑系」とは何か 1996 吉永良正著 講談社現代新書
● 精神の生態学 上・下 1986 グレゴリー・ベイトソン著
佐伯泰樹・佐藤良明・高橋和久訳 思索社
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● 現代心理学〈理論〉事典 2001 中島義明 編 朝倉書店
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【編集後記】
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いかがでしたか。
今回は、システムという考え方が鍵概念といえます。
システムという言葉自体は、
コンピューター用語など、かなり日常語に入ってきていて、
皆さんもなじみがあると思います。
そういう意味では、直感的に把握できるし、
生態学(エコロジー)や家族療法などを勉強するには、
その程度で充分理解できると思います。
ただ、よくよく考えてみると、
システムという言葉を、自分なりの言葉で
適切に説明するのは難しいと思います。
一般には、
システム理論と言う場合、
ベルタランフィの一般システム理論を指すことが多いので、
興味があって、理系のテーマにもアレルギーがない人は、
チャレンジしてみてもいいかもしれません。
あとは、ダブルバインド説で有名なベイトソンの著作からも、
感じがつかめるでしょう。
カオスやフラクタルなどを扱う、複雑系科学と総称される領域も、
とても心理学やシステム理論に近いところにある学問なので、
覗いてみると、面白いと思います。
参考文献に入れておくので、
よかったら読んでみてください。
ここでは詳しく説明できませんが、
問題号や解説号などで、
出来る限りのフォローを入れておくことにします。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
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2005年8月16日火曜日
【Clip! アカデミー】第13回:エッセイ号「心の過程図を捉えなおす」
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