臨床心理士指定大学院受験講座が提供している、心理学・臨床心理学を学ぶ方を対象とした、メールマガジンのバックナンバーサイトです。 http://www.clinicalpsychology.jp/

最新のバックナンバー

2005年8月2日火曜日

【Clip!アカデミー】第12回:解説号「心の流れを追う」

【Clip! アカデミー】 第12回2005/08/02
第3週 問題号「心の流れを追う」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/
 


        ◆目次◆
   
            1)【前回のまとめ】
             2)【それでは問題です】
           【Q1】“身体”の側面に関する問題
           【Q2】“知覚”の側面に関する問題
           【Q3】“認知過程”の側面に関する問題
           【Q4】“意識”の側面に関する問題
           【Q5】“行動”の側面に関する問題
                【次回配信日】
                【参考文献】
                【編集後記】
   
   ====================================================================
   
      ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
   
               ■ 基本サイクル ■
               第1週「エッセイ号」…問題提起
                    ↓
               第2週「問題号」…練習問題 
         ↓
    ※【今回はこちら!】 第3週「解説号」…確認とフィードバック
                    ↓
              第4週 基本的にお休み
            (特別号が配信される場合があります)
                  ↓
             ■ 第2サイクルへ続く ■
   
      ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  ○
   
    
   
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   1)【前回のまとめ】
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   
   本メルマガは、
   エッセイ号、問題号、解説号のサイクルで、動いています。
   
   前回は、エッセイ号「心の流れを追う」を受けての問題号でした。
   
   今回は、問題の解答と解説をしていきましょう。
   
    
   エッセイ号では、心を捉える新しい図式として、
   心を「流れ」として見る試みを行いました。
   
   心的プロセスを具体的に追って行くために、
   ある日Aさんの日常のヒトコマにご登場頂きました。
   
   【7月19日のAさんの日記 ※一部抜粋】
   
          ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
          | 「朝、道を歩いていると、     |
          |  通りの向こうに、        |
          |  Bさんが歩いているのが見えた。 |
          |  |
          |  とっさに顔を伏せたくなったが、 |
          |  思いなおして、軽く会釈した。」 |
          ○ ~~~~~~~~~~~~~~~~ ○
   
   そして、Aさんの心の流れを追う中から、
   以下のような図式を立てたのでした。
   
   ● 心の過程図(仮)
   
      ┌――――――――┐
      |物理的エネルギー| 
      └――――――――┘
        ↓
      ┌--------------------------┐  
      |身体|→|知覚|→|認知過程|→|潜在意識|→|意識|
      └--------------------------┘  
                                ↓
                               ┌――┐
                               |行動| 
                               └――┘
   ●エッセイ号のバックナンバーはコチラ↓
   【Clip!アカデミー】第10回:エッセイ号「心の流れを追う」
   http://k.d.mail-magazine.co.jp/t/k9wv/50z6s200e8ghjsgmqu
   
   この図式についての議論は、次回エッセイ号に譲ることにして、
   さっそく問題の解説に入っていきたいと思います。
  
   
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   2)【問題号の解説】
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   
   
   【Q1】”身体”の側面に関する問題
   
   感覚モダリティに関する文章について、
   以下の選択肢から、不適切なものを選びなさい。
   
    ============================選択肢============================
   
     a. 感覚のモダリティは、ヘルムホルツが提唱した概念である。
   
     b. 同じモダリティに属する感覚は、質的に連続である。
   
     c. 異なるモダリティが連続して体験される共感覚は、
       条件付けで生じる。
   
     d. 感覚をモダリティで分類すると、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、
       皮膚感覚、運動感覚、平衡感覚、内臓感覚などに分けられる。

    ==============================================================
   
   
   【解説】
   
   ※モダリティとは、様相と訳される言葉です。
   ほかにも、言語学などで用いられることがあるので、
   注意してください。
   
   感覚のモダリティは、心理学の立役者の一人である、
   生理学者ヘルムホルツによって、
   感覚を、区別するために提唱されました。
   
   よって、
       【 a. 】は正しい。
   
   われわれが五感を区別するとき、
   目・鼻・口・耳・皮膚のように、
   われわれが備えている物理的な感覚器官の区別によって行っています。
   
   しかし、われわれの感覚は実際にはほかにも、
   運動感覚、平衡感覚、内臓感覚など、
   感覚器官で区別しづらい感覚も存在していますし、
   触感などのように、圧力や熱さ、冷たさ、痛さなど、
   実際には区別されるべき感覚も存在しています。
   
   感覚モダリティによる区別も結果的にはそれと変わりませんが、
   その区別の仕方は、少し異なります。
   
   ここから、
         【 d. 】は正しい。
   
   物理的な器官による区別と異なり、
   主観的な体験による区別です。  
   
   ある感覚のモダリティを変化させたとき、
   連続して感じられる感覚があります。
   
   
   例えば、お風呂に入るとき、
   お湯の温度は、生ぬるさから適温、熱湯まで、連続して感じられます。
   
   音の大きさや、色の変化も、
   同様に変化のグラデーションとして感じることが出来ます。   
   
   ただ、低音から段々音階を上げていって、
   色の変化につなげることはできません。
   
   これがモダリティの特徴で、
   感覚的な質が連続して体験されるものを、同一のモダリティ、
   不連続なものを、異なるモダリティとして区別することが出来ます。
   
   よって、
        【 b. 】は 正しい。
   
   しかし、ちょっとまてよ、と思った方は
   いらっしゃいませんか。
   
   低音から高音まで音階を上げていくとき、
   我々はなだらかな音の変化を感じることが出来ますが、
   同時に、その音の変化を、色にむすびつけることも出来ます。
   
   例えば、
   黒っぽい低音から深い青、緑から、黄色、オレンジ、赤い高音、
   という具合に。
   
   よく、女性の「黄色い声」という表現を聞くことがありますが、
   これなども、高音と黄色という異なる感覚のモダリティを
   結びつけた表現です。
   
   ここまでは、あくまで文章上の表現や、
   我々のイメージの中での連想。
   
   しかし、ごくまれに、実際にこうした音の変化を色の変化として
   体験できる人も存在するようです。
   
   彼らは、例えばペパーミントの味を尖った三角錐として、
   文字通り体験するのですが、
   
   音の変化を、実際に色の変化として体験したり、
   味の変化を、形の変化として体験するなど、
   異なるモダリティの感覚が連続して体験される現象を
   共感覚といいます。
   
   この共感覚、10万人に一人といわれるまれな感覚なのですが、  
   
   つまり、この共感覚は、
   生得的な現象であって、我々が体験や条件付けによって
   身につけることはありません。
   
   よって、
         正解は 【 c. 】
   
   
   【Q2】”知覚”の側面に関する問題
   
   モジュールは、独立して働く情報処理の単位。
   
   我々の知覚を成立させている情報処理過程の少なくとも一部は、
   高度にモジュール化されていると考えられます。
   
   複雑な情報処理が、複数のモジュールによる
   多重構造から生じているとすると、
   一部が損傷しても全体の機能が止まることはないという利点が挙げられます。
   
   
   以上のようなモジュールを考えたとき、
   不必要と考えられる特徴を以下から選びなさい。
   
   
       =============選択肢=============
   
         a.強制的で高速
   
         b.記憶の参照を必要とする
   
         c.領域固有的に働く
   
         d.他のモジュールと干渉しない
   
       ===============================
   
   
   【解説】
   ※今回の問題には、モジュールについての説明文を
   付け加えました。
   
   モジュール仮説は、心理学概念としては、
   概論書レベルを超えていると考えたためです。
   
   ただし、モジュールという言葉や考え方自体は、
   知っていたほうが、研究や物の見方の面で、
   何かと便利です。
   
   そのため、問題自体はこの説明文をヒントにして推測することで、
   ある程度回答できるように作ってみました。
   
   
   モジュールは、
   複雑な処理をより簡潔に、すばやく行うことに適した構造です。
   
   例えば、パソコン。
   
   パソコンは、キーボードやディスプレイ、ハードディスク、メモリ、
   CPU・・・様々な部品で出来ています。
   
   乱暴ですが、
   パソコンは、こうしたいくつかのモジュールによって出来ているといえます。
   
   
   例えば、CDロムドライブは、それ自体が様々な部品から出来ていて、
   それ自体がCDからの情報の再生と記録という、
   ひとつの機能だけを行うモジュールです。
   
   パソコンは、元からモジュール化された部品によって作られていますが、
   我々生物も、その身体構造の多くを、
   進化の過程でモジュールとして発達させてきたと考えられます。
   
   脳の機能もモジュール化されていると考えられますが、
   もとから分解可能なモジュールとして作られたわけではないので、
   実際には、モジュールとして機能しているだろう、
   と推測できるだけで、確かなことはまだ分かっていません。
   
   機械の場合、モジュールとしてまとめておくと、
   分解や組み立てが簡単だったり、
   モジュールが壊れても、そこだけ交換できる、など、色々な利点があります。
   
   
   人間の場合も、モジュール化によって、
   情報処理のプロセスを効率化したり、
   事故などで、脳が傷ついた場合、
   被害を少なく抑えることが出来ると考えられます。
   
   首都機能が分散していれば、
   地震で東京の機能がストップしても、日本の機能はマヒしないですむ、
   という考え方と同じです。
   
   表現としては、モジュールは、
   たくさんの小さな箱として表現できます。
   
   情報は、それぞれたくさんの箱のひとつで処理されて、
   そこから出て行きます。
   
   モジュールは、特に単純で、決まったことを処理する場合に向いています。
   
   ただし、この場合のモジュールは、
   単にある作業を行う際の機能単位(まとまり)として
   比喩的に表現されただけなので、
   パソコンなどに用いられるモジュールよりも、もっと柔軟です。
   
   認知心理学にモジュールを持ち込んだのは、フォーダーです。
   
   フォーダーは、以上のような意味合いを要約して、
   モジュールを規定しています。
   
   選択肢に挙げたのはフォーダーによる規定で、
   認知プロセスが、
   モジュールとして有効に働くために必要な条件でもあります。
   
   このなかで、【 b. 】の「領域固有的」という表現は、
   先ほどでいえば、CDロムドライブがCDの再生と録音のみをする、
   ということを指します。
   
   モジュールは、特定の処理しか行いません。
   
   だからこそ、モジュール化する意味があるのです。
   
   会社の部署にしても、経理課が営業にまでいっていたら、
   せっかく専門の部署をおく意味がありません。
   
   専門の部署を置くのは、特定の作業のみを、
   迅速に、集中的に行うためです。
   
   人間の認知過程でいえば、
   視覚を成立させるための「形」や「色」、「運動」や「位置」の処理は、
   モジュールによって自動的に処理されると考えられています。
   
   フォーダーが、認知心理学におけるモジュールを強調したのは、
   人間の認知処理を、
   特定のアルゴリズム(問題解決のマニュアルのようなもの)
   に従う計算のプロセスとして取り上げるためです。
   
   その計算の方法を明らかにすることで、
   人間の認知過程の一部を明らかに出来ると考えたのです。
   
   こうした立場を、心の計算理論と呼びます。
   
   心の計算理論の限界は、こうした周辺系のモジュールに対する、
   中央系の複雑な処理は手に負えない、という点です。
   
   モジュールが専門に行う単純な処理に比べて、
   記憶と関連づけながら足りない部分を補い、
   情報をまとめ上げ、全体的な知覚を成立させる中央系の作業は、
   実に複雑で手間の掛かる作業です。
   
   こうしたことを、モジュールが行っていたら、
   せっかくのモジュールの利点がそがれてしまうでしょう。
   
   ここから、記憶との照合を必要とする作業は、
   他の特徴である高速性や、領域固有性、他のモジュールとの不干渉などと、
   矛盾することが分かります。
   
   よって、
        正解は 【 b. 】
   
   
   【Q3】”認知過程”の側面に関する問題
   
   以下に、カクテルパーティー効果のような
   選択的注意に関する説明文があります。
   
   (A)~(C)の空白に入る、適切な語句の組み合わせを
   選択肢から答えなさい。
   
   ● ブロードベンドは、(A)が多くの情報から
     一部を選別する機能を(B)と考え、
     選別された情報のみが中枢で処理されると考えた。
   
                  …これを(A)モデルという。
   
   ● これに対し、トレイスマンは、
     (B)の関与しない情報も、弱められるが中枢に送られることで、
     自分の名前など重要な情報の場合、それに気づくことが出来るとした。
   
                  …これを(C)説という。
   
   
       ==================選択肢=================
   
          (A)    (B)    (C)
   
        a. 注意    刺激の減衰 フィルター
   
        b. フィルター 注意    刺激の減衰
   
        c. 注意    フィルター 刺激の減衰
   
      =========================================
   
   
   【解説】
   ※ブロードベンドは、
   認知心理学的な視点を心理学に導入したはじめの一人であり、
   選択的注意の研究も、行動主義によって追放された「注意」という主観的な現
   象を、
   心理学の領域に取り戻したという点で、重要な意味を持っています。
   
   カクテルパーティー効果は、
   特定の情報に選択的に注意を向け、
   ほかの情報を無視することができることを指します。
   
   この効果を研究するには、
   チェリーの行った両耳分離聴という実験を用います。
   
   その実験では、
   右耳と左耳で、異なる情報を聞かせます。
   
   一方の耳からの情報に注意してもらうため、
   その情報を口で繰り返してもらいます(追唱)。
   
   もう一方の耳からの情報は、
   男女の性別など、物理的な属性までは覚えていても、
   その意味までは把握できないことが、実験から分かっています。
   
   ここからブロードベンドは、
   注意を向けていない情報は、物理的・感覚的な情報は処理できても、
   意味の処理はできないと考えました。
   
   意味の処理は単一のチャンネルしかなく、
   複数のチャンネルから入ってくる感覚情報の全てを、
   同時に処理することができないのではないか。
   
   ブロードベンドは、
   このような振る舞いをする仕組みを考えるにあたり、
   当時シャノンとウィーバーらによって提唱された
   情報処理理論に依拠しました。
   
   情報処理理論は、
   もともと通信システム間での情報のやり取りに関する、
   数学的理論です。
   
   送信機から受信機へ情報を送るときにどれだけの
   情報が失われるのか、情報の単位量をどう考えるか、などに有効で、
   人間を通信システムの一種とみなすことで、
   心理学にも応用されるようになります。
   
   ADSLや光回線などを例に取るまでもなく、
   通信回線にも情報が通過できる容量というものがあります。
   
   一度に全ての情報を、意味処理のチャンネルに
   送ることは出来ません。
   
   そこでブロードベンドが想定したのが一種のフィルターでした。
   
   フィルターによって必要な情報を選別する機能を、
   注意と考えることが出来ます。
   
   よって、
       (A)…フィルター
       (B)…注意
   
   感覚器官から短期記憶に情報が送られ、
   フィルターを通過した情報のみが、さらに意味処理の過程に回される。
   
   こうした情報処理の流れは、
   
   感覚入力 → 短期記憶 → フィルター → 意味処理
   
   と表せます。
   
   トレイスマンの修正モデルでは、
   フィルターを通過しなかった情報についての修正が施されました。
   
   カクテルパーティー効果では、
   例えば、自分の名前など、自分の注意を特別ひくような情報なら、
   注意を向けていなくても、それと気づくことができたのです。
   
   自分の名前だと気づくためには、
   情報が意味処理を受けていなければなりません。
   
   フィルターで情報を切り捨ててしまっては、無理なことです。
   
   そこでトレイスマンは、
   フィルターは情報を切り捨てるわけではなく、
   単に弱めるだけで、失われてはいない、という刺激の減衰説を提唱しました。
   
   
   (C)… 刺激の減衰
   
   よって、
          (A)   (B)   (C)
       b. フィルター  注意   刺激の減衰
   
           【 b. 】が正解
   
   注意通信には人間をひとつの通信システムと見なす所から、
   情報理論の心理学への応用が始まりました。
   
   これは、コンピューターとの比較、
   脳の構造との比較など、
   比較の対象は変化していますが、
   今でも心を捉える上での重要な視点となっています。
   
   
   【Q4】”意識”の側面に関する問題
   
    【哲学的ゾンビ】
   
     「我々と同じように振るまい、同じように感情を表現し、
      同じ知能を持つように見えるが、
      我々のような意識や主体だけが存在しない仮想的存在。」
   
   このような存在を想定することから、何が分かるでしょうか。
   以下の選択肢から、もっとも適切なものを選びなさい。
   
   
     ===========================選択肢===========================
   
      a.他人に意識があるかどうかを客観的に証明することは出来ない。
   
      b.哲学的ゾンビを作り出すような大脳の損傷部位から、
       意識の座を脳の機能として証明することが出来る。
   
      c.哲学的ゾンビは存在しない。
   
    ============================================================
   
   
   【解説】
   ※ 主観的体験としての意識は、
   もっとも科学的なアプローチの難しい難問であると同時に、
   臨床の場においては、実践の前提条件でもあります。
   
   
   前々回お届けしたClip!アカデミーのエッセイ号では、
   感覚情報を受け取ってから、行動に至るまでの、心の流れを、
   たどってみました。
   
   あの中で、意識のプロセスが抜けると、どうなるのでしょうか。
   
   あの心の流れの図式では、
   それまでの情報処理の流れを受けて、
   最後に総合的な判断を行うのが意識でした。
   
   意識がない、ということは、
   一般的な常識からすると、首から上がそっくりないのと同じくらい、
   あり得ないことのように思えます。
   
   しかし、最近の脳研究においては、
   少なくとも現時点では否定できないのが、哲学的ゾンビの存在です。
   
   我々は、普段、心の過程図でたどったように、
   あらゆる感覚情報を、総合して意識し、
   最終的な決断をしているように感じています。
   
   それに対し、脳研究の結果からは、
   脳の機能が我々にそうした感覚を与えることに関与しており、
   実際に総合的な判断の主体としての意識が存在するかどうかについては、
   議論が分かれています。
   
   そのひとつが分離脳の研究であり、
   もうひとつが、リベットによる運動野の準備電位の研究です。
   
   スペリーの分離脳の研究は、
   てんかん発作を抑えるための治療法として、
   1960年代から70年代、脳梁を切断された患者に対して行われたものです。
   
   分離脳においては、切り離された右脳と左脳は、
   情報の連絡ができないため、それぞれ独自に反応します。
   
   この場合、右脳の司る左目だけにエンピツを見せ、左手がそれをつかんでも、
   
   左脳はそれを知ることができません。
   
   言語中枢のある左脳に行動の理由をたずねても、
   あとづけの解釈しかできない、という結果になります。
   
   一方、1970~80年代に行われたリベットの研究も、
   盛んな議論を呼びました。
   
   我々が随意運動を行うことを決める0.35秒前に、
   脳の該当の部位に準備電位が認められる。
   
   このことは、我々が意識的に「動こう」と決める前に、
   すでに身体の方は動く準備を始めている、ということを示唆しています。
   
   そこで、我々が意図してコップを手に取ろうとする場合にも、
   すでに意識的に決断する前に、
   コップを手に取る動作が、脳の中で生じている可能性が論じられたのです。
   
   我々は普段、
   「私は気(意識)を失っていた」という言い方をしますが、
   これは、覚醒(水準)のことです。
   
   ここで問題になるのは、
   主観的体験、あたかも身体の中から自分自身や、
   外の世界を眺めている主体があるかのように感じる心のことなのです。
   
   これは、自己意識、現象学的意識、ホムンクルス(脳の中の小人)
   などと呼ばれることがあります。
   
   現在のところ、脳の特定の部位に、脳の機能を統括し、
   意識を生じさせる仕組みがあるわけではないことが分かっています。
   
   だだし、脳科学・認知科学は、
   我々が問題にしている意識、すなわち、現象(学)的意識を、
   脳のニューロンや、情報処理の仕組みだけから
   説明できると考えています。
   
   一方で、それを経験の主観性を無視しているという批判が、
   哲学から出てくることになる。
   
   そこから、意識をめぐって、
   我々はなぜ哲学的ゾンビではないのか、という問いが
   発せられることになるのです。
   
   現在、脳研究の結果と、我々が日々感じている素朴な実感、
   この両方を満足させるような説明を求めて、研究が進められていますが、
   今はまだ解決されていません。
   
   よって、
       正解は、【 a. 】
   
   ヴントが初の心理学研究室を、ライプチヒに開いたとき、
   心理学は意識を研究する学問であるとされました。
   
   しかし、心理学が科学として確立していくなかで、
   意識を直接研究する、という行為は、
   いつの時代もどことなくタブー視されてきたところがあります。
   
   こう書くと、中にはびっくりなさる方もいるかもしれません。
   
   というのは、
   同じ心理学でも、臨床心理学などにおいては、
   主観的経験としての意識を、自明の前提として扱っている場合が多いためです。
   
   
   どのような臨床的援助も、
   クライエントの感じていること、
   主観的経験なくしては成立しません。
   
   この点は、例え意識の仕組みが、
   我々の素朴な思いこみからかけ離れたモノであったとしても、
   変わることはないでしょう。
   
   我々が経験的に知っている、こうした意識体験の特徴と、
   脳科学・認知科学における近年の研究結果とは、
   果たしてどのように結びつくのでしょうか。
   
   科学的手続きの重要性と、語り得ないものへの謙虚さを
   ふまえつつ、我々の実感が正しいことを信じて、
   今後の動向に注目したいものです。
   
   
   【Q5】”行動”の側面に関する問題
   
   運動を引き起こす筋や腺は、効果器と呼ばれます。
   
   効果器への神経経路を示した以下の図のうち、
   空白を埋める語句の適切な組み合わせを、以下の選択肢から答えなさい。
   
   中枢神経系→脊椎前柱→体性運動ニューロン→(1)→(2)運動(オペラント反応)
   
   
   →交感神経幹・神経節→自律性運動ニューロン→(3)・(4)→(5)運動
   
   
   (3)は、内臓を構成し、(4)は、外分泌(涙や汗)、
   内分泌(各種ホルモン)を行う。
   
   
   A 随意  B 腺  C 骨格筋  D 平滑筋  E 不随意
   
   
        ===============選択肢=============
   
          (1)(2)(3)(4)(5)
   
         a. B  C  D  E  A 
   
         b. D  E  B  C  A
   
         c. D  A  C  B  E
   
         d. C  A  D  B  E
   
        =================================
   
   
   【解説】
   ※ ここでは、行動主義が対象としてきた各種の行動について、
   その神経生理学的な基盤をまとめていきましょう。
   
   
   我々の行う行動は、全て効果器と呼ばれる器官によって
   引き起こされます。
   
   随意運動、不随意運動、反射に分けられます。
   
   行動主義は、我々の行動を、
   大まかにオペラント行動と、レスポンデント行動の、
   二つに区別します。
   
   オペラント行動は、自発的になされる行動であり、
   我々が意図的に引き起こすことのできる随意運動です。
   
   ただ、行動主義におけるオペラント行動の捉え方は、
   オペラント水準といって、
   確率的に生じる偶発的な行動、というものです。
   
   その偶発的な行動に対し、なんらかの報酬や罰が伴うと、
   次回その行動が生じる確率が高まります。
   
   一方、レスポンデント行動は、生得的な反射要素を含む行動です。
   
   パブロフの犬は、エサを前にして、
   生得的な反射的行動である唾液反射を引き起こしましたが、
   それに毎回ベルの音を随伴させると、
   ベルの音でも唾液反射を引き起こすようになりました。
   
   このように、レスポンデント行動は、生得的で、
   生きるために必要な行動を多く含みます。
   
   特定の刺激(条件刺激CS)に対して生じる反応ですが、
   条件刺激に、無関係な刺激(無条件刺激US)を合わせて与えると、
   条件付けが成立します。
   
   先ほどあげた唾液反射を始め、
   心臓の脈動や、胃や腸の収縮運動、発汗や瞳孔の拡大・収縮など。
   
   これらは、通常我々が意識せずとも生じる不随意運動です。
   
   ほかに、
   我々が通常思い浮かべる反射があります。
   
   姿勢反射や防御反応などのように、
   特定の刺激に急速に反応するための、生得的で固定された運動です。
   
   これらは、上の二つの運動とは異なり、
   高次の脳による複雑な処理を受けない、短く単純な神経経路によって生じます。
   
   
   それでは、
   随意運動と不随意運動は、どのようにして生じるのでしょうか。
   
   まず、我々の全ての運動は、
   効果器と呼ばれる器官によって生じます。
   
   この効果器には、骨格筋、平滑筋、腺が含まれます。
   
   随意運動を生じるのが骨格筋であり、内臓諸器官を動かすのが、平滑筋です。
   
   
   汗や唾液を分泌する外分泌系と、
   各種ホルモンを分泌する内分泌系に分かれる腺も、
   効果器の一つです。
   
   随意筋と不随意筋では、司る神経が異なります。
   
   随意筋につながっているのは、
   体性神経系に属する体性運動ニューロンです。
   
   不随意筋や腺には、
   自律神経系に属する自律性運動ニューロンがつながっています。
   
   以上を、問題に載せた表に沿ってまとめると以下のようになります。
   
   ● オペラント運動の経路

    中枢神経系→ 体性神経系 →(1)C骨格筋→(2)A随意運動
   
   ● レスポンデント運動の経路

     中枢神経系→ 自律神経系 →(3)平滑筋・(4)B腺→(5)E不随意運動
   
   (3)D平滑筋は、内臓を構成し、(4)B腺は、外分泌(涙や汗)、
   内分泌(各種ホルモン)を行う。
   
   よって、    (1) (2) (3) (4) (5)
    d. C   A   D   B   E
   
     
        正解は【 d. 】
   
   このように、オペラント行動と、レスポンダント行動では、
   神経経路や司る行動が異なります。
   
   自律神経系は、危険やリラックスなど、
   我々にとって重要な生存環境に結びついています。
   
   だから我々は、レスポンダント条件付けを通して、
   中性刺激が、(危険やリラックスなど)我々のどのような状態を表すか
   を学習することができるのです。
   
   これを、認知心理学的に表現すると、
   ブザー音が、「エサ」=おいしい、うれしい、を表す心的表象となった、
   ということになります。
   
   初期の行動主義は、オペラント行動と強化を重視しましたが、
   我々が言語やイメージといった心的表象を用いて、
   何ができるかを考えると、レスポンダント条件付けの重要性は、
   驚くべきものがあります。
   
   
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   【次回配信】
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   
      次回 【エッセイ号】… 8月16日(火)にお送りする予定です。
  
※ 次週9日の特別号は、お休みをいただきます。
 
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   【参考文献】
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   
   ◎お勧め:
  
 ● 分離脳について:よく出来たHP:
       http://k.d.mail-magazine.co.jp/t/k9wv/50z6u200e8ghjsgmqu
   
   ● 共感覚者の驚くべき日常―形を味わう人、色を聴く人 2002
   リチャード・E. シトーウィック 著 山下 篤子 訳 草思社
  
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
  ● 現代心理学〈理論〉事典 2001 中島義明 編 朝倉書店
   
   ● 脳内現象〈私〉はいかに創られるか 2004 茂木健一郎 
     日本放送出版協会
   
   ● 意識の神経哲学 2004 河村 次郎 著 萌書房
   
   ● 脳内現象〈私〉はいかに創られるか 2004 茂木健一郎 
     日本放送出版協会
   
   ● 心理学物語-テーマの歴史 2004 R.C.ボールズ著 富田 達彦 訳 
    北大路書房
   
   ● 心理用語の基礎知識 東洋・大山正・詫摩武俊 他 1973 有斐閣
   
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   【編集後記】
   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   
解説号をお送りしました。

   本メルマガは、
   バウムクーヘンのように、
   心理学全体を一度に提示し、視点を代えて
   繰り返し全体を積み重ねていく形式になっています。

   バウムクーヘンは、
   生地を焼き重ねていくごとに、
   全体が大きくなっていきます。

   本サイクルで、図式も二つ目になります。

   Clip!アカデミーでも、
   同じ全体を繰り返すわけですから、
   内容も、より深く、概論をはみ出す内容も盛り込んでいく方向
   で書いていきたいと考えています。

   ただ、場合によっては、
   内容が難しすぎるとか、長すぎる、というご感想を
   お持ちになることもあるでしょう。

   そんなときは、ぜひ事務局までご一報下さい。

   アンケートのほうも、ご協力ありがとうございます。

   まだの方も、
   まだしばらく続けますので、
   気が向いたときに答えてみていただけるとありがたいです。
      
   来週9日は、夏休みをいただきたいと思います。

   次回16日のエッセイ号でお目にかかります。
   
===================================================================
送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。   
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 

0 件のコメント: