【Clip! アカデミー】 第18回2005/09/27
第3週 解説号「心の捉え方の歴史」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
1)【前回のまとめ】
2)【問題号の解説】
Q1【パラダイムに関する問題】
Q2【哲学に関する問題】
Q3【生理学近辺の問題】
【次回配信日】
【参考文献】
【編集後記】
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○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
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心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
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■ 基本サイクル ■
第1週「エッセイ号」…問題提起
↓
第2週「問題号」…練習問題
↓
※【今回はこちら!】 第3週「解説号」…確認とフィードバック
↓
第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
↓
■ 第2サイクルへ続く ■
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1)【前回のまとめ】
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今回は、問題号で取り上げた、
3つの問題についての解説を行う、解説号です。
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前々回のエッセイ号から、
「心の捉え方の歴史」
すなわち、心の歴史図(仮)の検討が始まりました。
心理学における心の捉え方が、
歴史的にどのように変化・発展していったのか。
について、図式を立てて検討していきます。
● 心の歴史図(仮)
===========心的過程============|===外界====
↓【 魂→精神→意識 】
↓【 意識 】【 身体 】
↓【 意識 】【 潜在意識 】【 身体 】
↓【 意識 】【 潜在意識 】【 身体 】【 行動 】
↓【意識】【潜在意識】【知覚(ゲシュタルト)】【 身体 】【 行動 】
↓【意識】【潜在意識】【 認知過程 】【知覚】【身体】【 行動 】
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※ 図式についての解説の続きは、次回エッセイ号に続きます。
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2)【それでは問題です。】
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【Q1】パラダイムに関する問題
科学史家のクーン(T.S.Kuhn)は、科学の在り方と発展の仕方を、
パラダイム(paradigm)という用語から説明している。
以下の記述の中で、もっとも不適当なものを選びなさい。
===============選択肢===================
a. パラダイムとは、その時代の科学において支配的な、
考え方の基本的枠組みのことを指す。
b. 個々の研究や、研究者の教育、研究方法、対象の捉え方は、
パラダイムに支配されている。
c. パラダイムはひとつの学問、ひとつの時代にひとつしか存在しない。
d. 支配的なパラダイムによって説明不可能な例外が積み重なると、
それを説明可能な新しいパラダイムにとって変わられる。
=====================================
正解: 【 c. 】 → 人文科学・社会科学においては、
単一のパラダイムに集約されない状態が続くことがあります。
また、パラダイムを持つまでに至っていない
(「パラダイム以前」)場合も在るとされます。
解説:
※ 心理学の前に、そもそも科学とは何か、
という問題意識も、頭の片隅に置いておきましょう。
パラダイムという概念から、そもそも科学とは何か、
その中でも自分が何に依拠しようとしているのか、
それはどういう性質と、時代的背景、限界を持っているのか、
などを考えてみるといいと思います。
すでに特定の理論や学問を学んでいる人にとっては、
それを相対化する視点として、重要な意味を持つ概念です。
クーンは、パラダイムという概念から科学史を論じることで、
それまで一般的だった、発見が積み重ねられ、ゆるやかに発展していく、
という科学観に大きな衝撃を与えたといわれています。
科学の発展も政治に似ており、
既存の価値観(パラダイム)が一気にひっくり返る、
科学革命(パラダイム・シフト)を通じて断続的に発展すると論じたのです。
心理学において有名なのは、
ボーリング史観と呼ばれるものです。
ボーリング(E.G.Boring)は、
アメリカにヴント流の心理学を持ちこんだ、
ティチナー(E.B.Titchener)の弟子であり、
「実験心理学史」(1929)の中で、心理学の成立を、
ヴェーバー→フェヒナー→ヴント→ティチナーという形で
説明した人物だとされます。
この流れは、今でも一般的な教科書で触れられる歴史ですが、
現在では、様々な形で、細部の見直しが始まっているようです。
そのため、初学者の皆さんは、
書店に行き、よい心理学の教科書を選ぼうとするとき、
すでにこの問題に深く関わっています。
教科書は、その時代の支配的なパラダイムの影響を受け、
また、そのパラダイムの正しさを権威付けるために用いられるためです。
この場合の”正しさ”とは、
今現在における、一般的な理解ということで、
普遍的な正しさのことではありません。
しかし、この一般的な理解を欠いている人は、
おそらく“心理学者としての”議論に加わることは出来ないでしょう。
だからこそ、大学院入試では、
受験者が、そうした一般的な理解を持っているか、
または、持ちうる人か、を問われるのです。
その意味で、考え方は二つあると考えられます。
まずよい教科書とは、
できるだけ特定の立場に偏らず、一般的な理解を前提に書かれたものです。
しかし、これは裏を返すと、その時代に支配的なパラダイムという
ことにすぎません。
そう考えると、
もうひとつのよい教科書とは、
現在“主流”、と呼ばれる価値観にも
慎重な立場を取り、そうした支配的な価値観を相対化してくれるような
視点を提供してくれるようなものでしょう。
【Q2】 哲学に関する問題
哲学は、心理学の源流の一つである。
以下の4つの思想は、哲学的論議の中から生じ、
心理学の中に今でも息づいている考え方である。
以下の選択肢の中から、説明としてもっとも不適切なものを選びなさい。
================選択肢==================
a. 連合主義は、感覚によって生じる観念と観念の間の結びつきから、
心理現象を説明する考え方である。
b. 経験主義は、人間の精神は始め白紙であり、
経験を通して生じるものと捉えた。連合主義から生じた考え方で、
ここでの経験とは観念と観念の連合を指す。
c. 原子論は、人間の精神を、観念や感情など最小の単位(原子)から成り、
また原子に還元可能な存在と考える。
d. 機械論によれば、人間の行動は全て、
物質的なメカニズムから生起すると考えられる。
よって、心の存在を考えなくともメカニズムから人間を理解することが
可能である。
=======================================
正解: 【 b. 】→ 前後関係でいうと、経験主義が連合主義から生じた、
とは言えません。
解説:
※ 難しい問題。
したがって、正解不正解よりも、基本的な○○主義、××論の整理として
頭にいれておいてください。
自分が今取り組んでいる理論は、上記でいうと何に当たるのか、
どのような影響を受けているか、を考えてみると、
理解が促進されると思います。
また、心理学を学んでいる友人と実際に使ってみましょう。
「○○理論は、あまりに機械論的で、抵抗がある」とか、
「経験主義的に見ると、君の意見は××だね。」
先の見えないつらい勉強の合間に、自分は勉強している、
という気分が盛り上がってくると思います。
その意味でも、使い勝手の言い言葉ではあります。
【 a. 】から【 d. 】の選択肢を年代順に並べると、
原子論が理論の成立としては最も古く、
科学が発展しだすと、機械論が、
続いて経験主義、連合主義が出てきたことになります。
原子論(atomism)の始まりは、
デモクリトス(Democritus)、その弟子のエピクロス(Epicurus)といった、
ギリシャ哲学の中に見ることが出来ます。
キリスト教の影響で一時忘れられますが、
ルネッサンスには再び再発見され、
物理学において原子仮説を証明する実験データが出てくることで、
その地位を不動のものとしています。
対立する考え方としては、全体論があります。
機械論(mechanism)を形にしたのはデカルト(R.Descartes)です。
デカルトの心身二元論がなぜ重要かといえば、
デカルトが、人間の身体を精巧な機械として考えた
機械論者だったにもかかわらず、
人間の全てを機械論では説明できないと考えていたからです。
二元論とは、そこから来ています。
キリスト教の時代には、
人間が生きているのは、機械的な仕組みではなく、
神に由来する“生気”の働きとして考える、生気主義が特徴でした。
また、“心”は観念の世界の現象であり、
機械論では説明できないと考えていました。
現代では、完全な機械論を容認しない場合、
生気主義に陥らずにどのように機械論的宇宙に、
“心”なるものを導入するか、が問題となっています。
そこでは、自己組織化や“創発(emergence)”といった、
個々の要素から大きなシステムが立ち上がって行く現象が
重視されてきています。
生まれたばかりの人間を、白紙(タブラ・ラサ;tabula rasa)といったのは、
イギリスの哲学者ロック(J.Locke)です。
イギリス経験主義(British empiricism)は、
アメリカにおける行動主義の成立に、
連合主義とともに大きな影響を与えました。
経験主義の中には、すでに知識が経験から生じるのならば、
経験同士がどのように結びついているのか、
という問題が内在していましたが、
それが、のちに哲学者ヒューム(D.Hume)らによって、
連合主義(Associstionism)という形に結実して行きました。
観念同士の連合というアイデアは、
感情や感覚の連合から意識が構成される、というヴントの構成主義や、
行動と反応の条件付けから、あらゆる心理現象が生じると考えた、
ワトソンの行動主義につながって行きます。
このように見て行くと、いずれの考え方も、
心理学の基本的なスタンスであり、前提に近いものであることが分かります。
【Q3】 生理学に関する問題
以下の4人は、ヴントが心理学研究室を立ち上げる前後に、
のちの心理学に大きな影響を与えた人物である。
A ヘルムホルツ B ウェーバー C ヨハネス・ミューラー D フェヒナー
研究上関係の深い人物同士の組み合わせとして、
もっとも適切なものを、以下の選択肢から答えなさい。
======選択肢======
a. 【AとB】、【CとD】
b. 【AとC】、【BとD】
c. 【BとC】、【AとD】
d. 【A、B、D】と、【C】
e. 【A】と、【B、C、D】
===============
解答: 【 b. 】→ ヘルムホルツはヨハネス・ミューラーの弟子。
ウェーバーはフェヒナーの同僚で元指導教官でした。
※ ウェーバー→フェヒナーという基本的な流れを
つかんでいれば正解できる問題です。
ヨハネス・ミューラー(Johannes Muller)は、ドイツの生理学者。
神経を伝わっているのは神経エネルギーであり、
視覚画像や音そのものではないという、
特殊神経エネルギー説を提唱した人物です。
これを持って、実験生理学への道を開きました。
ヘルムホルツ(H.L.F.von Helmholtz)は、ミューラーとともに
特殊神経エネルギー説に関する実験に参加しつつ、
のちに、視覚や聴覚の研究を通して、
知覚における無意識的推理の概念を提唱しています。
知覚はそれが成立する時点で、
すでに経験や無意識的な推論の過程を通過している
というもので、のちのニュールック心理学や、
認知心理学を先取りしていました。
ウェーバーとフェヒナーの関係も、
ミューラーとヘルムホルツの関係に勝るとも劣らないほど、
重要なものだったようです。
ドイツの生理学者のウェーバー(E.weber)が、
重さの弁別実験を行い、
のちにウェーバーの法則と呼ばれる外的刺激と内的感覚の対応関係を
導き出したとき、ウェーバーはあまりその発見を重視していなかったようです。
その重要性に気付き、心理学が誕生するほどの
意味を与えたのが、ウェーバーの元学生で、
同僚だったフェヒナー(G.Fechner)です。
フェヒナーが考えていたのは、デカルトの提示した心身問題でした。
詩人でもあったフェヒナーは、
分断された心と身体とを、再びひとつのものとして捉える方法を
夢見、そのための方法として、精神物理学を考案しました。
ウェーバーの実験方法は、
つまり主観的である主観的な感覚というものを、
客観的な刺激に結び付けて数値化する方法であり、
それはすなわち、主観的な心理過程を、
科学的に研究する道を開くものだったからです。
ウェーバーの実験から、実に10年の歳月がたっていました。
余談ですが、ヨハネス・ミューラーと、フェヒナーは1801年生まれで
同い年でした。
ウェーバーの主著「触覚論」と、
ミューラーの「人体生理学ハンドブック」の初版発行は、
同じ1834年です。
流れをつかむためには、個々の業績や概念を暗記するよりも、
歴史的背景の中で展開した、
ダイナミックな人間ドラマに注目したほうが、
比べ物にならないほど身につきます。
簡単になれば、ミーハーになろう、ということです。
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【次回配信】
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次回 【エッセイ号】… 10月4日(火)にお送りする予定です。
※ 9月27日は休刊ですが、【特別号】が発行されることもあります。
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【参考文献】
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● 心理学物語-テーマの歴史 R.C.ボールズ著 富田達彦訳 2004 北大路書房
● 試験にでる心理学 <一般心理学編> 山口陽弘 高橋美保 2001 北大路書房
● 心理学群像 全2巻 末永俊郎 監修 2005 アカデミア出版会
● 流れを読む心理学史 世界と日本の心理学 サトウタツヤ 高砂美樹
2003 有斐閣
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【編集後記】
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今回は、解説号の解説のやり方に若干変更を加えてみました。
答えについての説明はシンプルにして、
関連する余談のほうが長くなっています。
もともと、単純に基礎知識の確認というよりも、
その問題を通して何を考えるか、という点を重視して
問題を作成しています。
いうなれば、皆さんに考えてもらうための、
「方便」なわけです。
よく「ウソも方便」といいますが、
ウソもうまく使うと、よいことのための道具になる
という意味で、仏教からきています。
もともとの「方便」は、悟りに至るための知識や
修行をさします。
つまり、目的のための手段が「方便」であって、
目的を達したあとは捨ててしまってよいもの、
捨ててしまうべきものとして捉えられているわけですね。
科学における「仮説」にも似たニュアンスがあって、
わざわざ捨てるために立てる「帰無仮説」というものがあります。
ここでの問題の位置づけは、いわば
仏教でいうところの「方便」なんですね。
皆さんにとっての「方便」は、受験勉強でしょうか。
ただ、Q1でも触れたように、一般的な理解は、
共通言語の役割も果たしますから、
ここをおろそかにすると、どんなに優れたセンスがあっても、
足腰が弱くて力を発揮できないなんてことにもつながります。
自戒も込めて、両方大切にしていきましょう。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
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2005年9月27日火曜日
【Clip!アカデミー】第18回:解説号「心の捉え方の歴史」
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