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2006年7月4日火曜日

【Clip!アカデミー】第48回:解説号「心の関係図を広げる」

【Clip! アカデミー】 第48回 2006/7/4
第3週 解説号「心の関係図を広げる」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/


  
      ◆目次◆

            1)【前回のまとめ】
           【Q1】集団の力学に関する問題
           【Q2】集団の研究法についての問題
           【Q3】集団と学問領域に関する問題
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】



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   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
     1ヶ月(3週)1サイクルで完結するユニークな
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            ■ 基本サイクル ■
            第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
   第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
  ※【今回はこちら!】第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

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1)【前回のまとめ】
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2)【問題の解説】
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【Q1】集団の力学に関する問題

企業における不祥事隠しが、最近マスコミをにぎわせている。
外部に対して不祥事を隠し続けるという決定が、
集団討議を通じて形成されるとき生じている現象として、
もっとも適当な概念を以下の選択肢から選びなさい。

====選択肢====

a. コーシャス・シフト
b. リスキー・シフト
c. 集団思考
d. 集団極性化

===========
 
正解は、   【 a. 】
…コーシャス・シフトは、
集団極性化のひとつです。


集団討議を経て意思決定を行うプロセスは、
集団意思決定と呼ばれ、
K・レヴィンらの始めたグループダイナミックスにおいて、
重要な研究テーマとなりました。

その中でも、
概論書で取り上げられることの多い、
代表的な研究成果に、集団極性化が挙げられます。

集団極性化では、
特定のテーマについて集団で討議を経て意思決定を行う場合、
結論は、個々人が持っている傾向を助長し、
極端にしたものになりやすい、とされます。

あるサッカーファンが、
テレビの前で試合の審判に不満を感じたとします。

確信はないけれど、
やっぱりあれは誤審じゃないだろうか。

彼が翌日、昨日の試合に不満を持っている友人たちと
審判について議論した後では、
事実は脇に置いて、誰もが、あれは誤審にちがいない、
という印象を強くしているかもしれません。

もともとのテーマがリスキーなものだと、
結論もリスキーなほうへ、
慎重なテーマだと、慎重な結論へ流れます。

すなわち、リスキー・シフトも、
コーシャス・シフトも、集団極性化のひとつの現れ、
ということになります。

こうした光景は、日常でよく見られることです。

しかし、強力な発言力を持つリーダーが不在になりがちな
大企業などにおいて、重役会などの集団討議を通じて
問題解決や、重要な判断をする場合、
このような現象は常に警戒される必要があります。

なぜなら、参加者たちが
自分たちの保身ばかりを気にしていれば、
討議の結果も、それを反映して、
非現実的なまでに慎重な結論にしかたどり着かない
場合があるためです(コーシャス・シフト)。

集団極性化が生じ、
集団意思決定が非合理的な結論に至ってしまう傾向は、
集団思考と呼ばれます。

集団思考においては、
ほかにも意見の一致のために
個々人の批判や疑問が抑圧されたり、
過剰な楽観主義、ステレオタイプな思考、などの
現象が見られることが分かっています。

社会的に有名な大企業が、
しばしば不祥事に対する不適当な対応しかできないのは、
こうした集団内の力学に、
適切な対応が取れなかった結果であるともいえるでしょう。


【Q2】集団の研究法についての問題

集団を研究するに至り、
(1)~(3)に当てはまるA~Cの組み合わせとして、
もっとも適切なモノを、以下の選択肢から選びなさい。

個人と相互作用 → ( 1 )
関係性     → ( 2 )・参与観察
規範・構造   → ( 3 )
集団文化    →  フィールドワーク

A 面接 B 実験 C 調査

===========選択肢=======

  ( 1 ) ( 2 ) ( 3 )
a.   A     B     C
b.   B     C     A
c.   B     A     C
d.   C     A     B

=====================


正解は、   【 c. 】

―――――――――――――――――――――――――
個人1
↑↓           規範
個人2  → 関係性 →     → 集団文化
↑↓           構造
個人N

――――――――――――――――――――――――― 
観察可能 ←―+α――→ ←――概念化可能――→
 ↓    ↓   ↓   ↓      ↓
実験  面接  参与観察 調査  フィールドワーク


集団の中の個人の内的プロセスや、
個々人間の社会的相互作用を研究するということは、
集団が成立する基本条件について、
かなり基本的な研究をすることになります。

集団は、個人からどのように組織化されるのか。
集団を集団たらしめている要素は何なのか。

逆に、集団の規範や構造、文化について
研究するということは、
どういうことでしょうか。

それは、実際に活動している、
実際の集団について研究するという方向性になっていきます。

実際に活動している集団について研究する場合、
個人間の相互作用を研究するときのような意味での
観察をすることは、不可能になります。

実験における、観察が可能、とは、
条件を統制して、特定の変数の変化を観察できる、
ということになるためです。

実際の集団について研究する場合、
その集団の構成員を対象にした質問紙調査や、
その集団について、様々な角度から情報収集を行う、
フィールドワーク的方法で進めていくことになるでしょう。

そして、あつめた情報から、
その全貌を浮かび上がらせるような
モデルを構築していく。

これが、概念化可能だ、という意味です。

それに比べて、+αで示した部分は、
観察も概念化も非常に難しい領域です。

なぜなら、誰も友人との日常的なやりとりや、
職場内のちょっとしたコミュニケーションのズレといったものを、
あえて言葉にすることがないためです。

丹念に調査を重ねて、
集団の目に見えないルールや構造、文化を
言葉にしていくことは、非常に労力を必要とします。

質的研究法で有名な
グラウンデッド・セオリーとは、
意訳するなら、地を這うようにして仮説を構築していく、
ということなのです。

しかも、個々人の間の関係性は、
集団規範・構造や集団文化のように、
スタティックで変化の遅いものではなく、
常にダイナミックに変化しています。

だからこそ、科学的方法論の力強い武器である、
仮説検証や、モデル化といった方法が適用しづらい、
ともいえるでしょう。

こうした関係性の特徴を捉えるためには、
分析し、検証する、というよりも、
実際に体験し、参入していく、
というスタンスが求められることになります。

なぜなら、そのときその場で生じたものを
拾い上げていくには、人間自身の感受性を研ぎ澄ます以外に
ないためです。

ですから、この+αの部分は、
さしずめ、体験可能、とでもいうべきなのでしょうか。


【Q3】集団と学問領域に関する問題

集団に関する以下の図式において、
A~Dと、1)~4)の組み合わせとして、
最も適当なものを、以下の選択肢から選びなさい。

―――――――――――――――――――――――――
個人1
↑↓           規範
個人2  → 関係性 →     → 集団文化
↑↓           構造
個人N

――――――――――――――――――――――――― 
←―1)―→        ←―――4)―――→
      ←―2)-→
      ←――――3)―――→

A 社会学 B 社会心理学 C 家族療法
D エンカウンターグループ


  =======選択肢========

     1)  2)  3)  4)
   a. D   C   B   A
   b. B   D   C   A
   c. B   C   D   A
   d. A   C   B   D

  ==================

正解は、   【 b. 】


集団を扱う心理学近接分野においては、
その扱い方に、それぞれ特色があります。

もちろん、重なる部分も多いのですが、
次に、それぞれの特色を、単純化して、
比較してみることにしましょう。

―――――――――――――――――――――――――
個人1
↑↓           規範
個人2  → 関係性 →     → 集団文化
↑↓           構造
個人N

――――――――――――――――――――――――― 
社会心理学        ←――社会学―――→
     エンカウンター
     ←――家族療法――→


社会心理学における研究は、
主に人間の社会的行動について行われます。

たとえば、
対人認知や、態度・説得の過程、
同調行動や社会的怠業などの社会的影響の過程、
集団内の意思決定過程やリーダーシップ。

これらの研究に共通しているのは、
観察可能な個人1~Nの振る舞いを対象にしていることです。

個人の振る舞いを実験的な手法によって検証することで、
社会や集団を規定している、
もっとも基本的な条件を探り出そうとするのです。

一方の極として、
社会学を置くことが出来ます。

社会学が主に対象として取り扱うのは、
我々が日々生活のうえで関わることの多い、
この社会にすでに存在し、活動している集団です。

地方自治体や企業、NPOなどの法人組織、
マスメディアによって形成される世論や社会現象、
所得や年齢などによって形成される社会階層など。

実際に存在し、活動している集団について検討するためには、
社会心理学のような実験をすることはできません。

そのため社会学では、
社会全体ついてのデータを得るために社会調査を用いたり、
フィールドワークによって、
実際にその集団の中に入っていくことで、
詳細なデータを手に入れます。

そのとき、分析の対象になるのは、
その集団の持つ社会構造、組織構造のような、
構造の理解や、集団を規定している規範、
集団の持つアイデンティティです。

そのため社会学では、
集団の中でも、モデルを立てたり、
概念化されうる部分を対象とした研究が
多いといえるでしょう。

このような両極に対して、
集団を対象とした心理療法が扱うのは、
両者の中間にある、
もっとあいまいで、ごちゃごちゃした相互作用の領域なのです。

それは、個々人が実際にコミュニケートし合い、
関係性を確認し、構造や規範を維持し、
影響を与え合っている現場です。

社会学のフィールドワークでは、
目が集団全体に向かっているために、
捉えきれない部分であり、
社会心理学では、統制された実験状況からはみ出してしまう
部分だといえるでしょう。

エンカウンターグループや、
家族療法などにおいては、
まさに目の前で展開される個人間の相互作用自体に、
焦点が向けられます。

このように見てみると、
同じ集団であっても、学問領域によって、
かなり焦点の当て方に違いがあることが分かります。
(ただし、社会学では、近年社会構成主義やエスノメソドロジーなど、
相互作用の領域へのアプローチも、盛んになってきています。)

スクールカウンセリングのように、
集団の中で仕事をする場合、
心理学にとどまらず、このような視点を持っていると、
自分が今焦点を当てているのはどこなのか、
という見取り図を手に入れることが出来るでしょう。


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【次回配信】
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   次回 【エッセイ号】… 7月18日(火)にお送りする予定です。
※ 次週7月11日(火)は休刊です。特別号が配信されることがあります。

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【参考文献】
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● グラフィック 社会心理学 池上知子 遠藤由美 サイエンス社

● 心理用語の基礎知識 1973 東 洋・大山正・詫摩武俊・藤永保 有斐閣

● 心理学 1996 鹿取廣人・杉本敏夫 東京大学出版会

● 心理学辞典 1999 中島義明ら 編 有斐閣 

● キーワードコレクション 心理学 1994 重野純 新曜社


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【編集後記】
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最近の某エレベーター会社に限らず、
集団におけるミスや不正は、
構成員の意思とは別のところで処理され、
その結果として大きな不祥事につながることも少なくありません。

これまで、社会的影響から切り離された面接室の中で、
個人と向き合ってくることで守られていた心理職も、
社会的に認知されてくれば来るほど、
集団の力学に巻き込まれていくことは、
間違いありません。

そのさい、特にデリケートな問題を扱うことの多い心理職は、
いかに身を守っていけばいいのか。

実際に大きな事件に巻き込まれてからでは遅いのですが、
前例の少ない現在では、
想像すらすることが難しいのが現実です。


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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。

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