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2006年8月15日火曜日

【Clip!アカデミー】第51回:新章突入!エッセイ号「心の物語図の立ち上げる

【Clip! アカデミー】 第51回 2006/8/15
第1週 新章突入!エッセイ号「心の物語図を立ち上げる」

◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座
  http://www.clinicalpsychology.jp/
  
      ◆目次◆

            1)【新章突入!】
            2)【内面からの視座】
            3)【構成された知覚】
            4)【自分についての物語】
            5)【物語=フィクションの意味】
            6)【フィクションの論理】
              【次回配信日】
              【参考文献】
              【編集後記】

 ※文中の図が正しく表示されない場合、等幅フォントでご覧ください※

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   ○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○

    ◆ 【Clip!アカデミー】は、
     心理用語を紹介するだけの従来の心理系メルマガとは異なる、
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            ■ 基本サイクル ■ 
 ※【今回はこちら!】 第1週「エッセイ号」…問題提起
                 ↓
            第2週「問題号」…練習問題 
      ↓
         第3週「解説号」…確認とフィードバック
                 ↓
           第4週 基本的にお休み
         (特別号が配信される場合があります)
               ↓
            ■ 第2サイクルへ続く ■

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1)【新サイクル突入!】
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心理学が対象としている”こころ”なるものは、
これまで一貫したパラダイム(思考の枠組み)によって
統一されることはありませんでした。

心理学が、ヴントによって正式に
近代学問の仲間入りをしてから、
”こころ”の捉え方は、心理学の発展と共にむしろ多様化し、
一望できないほどに複雑に入り組みつつ成立しています。

そのために、
心理学の基本的な知識を手に入れただけでは、
心理学の射程や、考え方、その全体的なイメージを
把握しにくいという難点があります。

そして、心理学のこうした特徴は、
一面的な見方では捉えきれないという、
”こころ”それ自体のあり方を表しているということができます。

本メルマガでは、
”こころ”を様々な角度から捉える試みを通して、
心理学の基礎を勉強する皆さんに、
複雑に入り組んだ心理学の様々な側面
について、より立体的なイメージを持ち、
厚みを持った”こころ”の理解に役立ててもらうことを目的としています。


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2)【内面からの視座】
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前回の解説号「心の関係図の行き先」まで、
43回~50回の9回にわたって、
”こころ”を関係性という観点から捉える試みを行ってきました。

これまでは、客観的な視座から”こころ”を
捉えようと試みてきました。

これまで見た来たような同じ”こころ”の在り様を、
今度は内側から、個人の体験を通して捉えることはできないでしょうか。

そこで、今回取り上げたいのは、
こころの物語的な側面です。

こころの物語的側面とは、なんでしょうか。

こころをコンピューターに例えてみると、
大脳や身体はハードウェアに例えられます。

認知過程や潜在意識は、
OSや、個々のソフトウェアの働きに例えられるかもしれない。

しかし、これらをすべてまとめても、
我々にとっての“こころ”は、その全体像を我々に見せてはくれません。

なぜなら、我々はコンピューターを外から観察しているわけではなくて、
コンピューターの内側からその全体像を捉えようとしているからです。

我々は、このコンピューターの全体像について、
様々な物語をこしらえます。

そしてまた、自分自身についても、様々な物語をこしらえています。

いや、我々は、コンピューターの中でこしらえられた、
様々な物語の中で生きている、
といってもいいかもしれません。

今回の、こころの物語的側面は、
これまで外から見てきた“こころ”なるものを、
内側から、捉えてみようという試みです。


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3)【構成された知覚】
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世界に関する情報を編集し、
一定の構造と筋書きに沿って並べたもの、
という意味では、
我々の知覚過程さえ、すでに外界と我々の間にあって、
ある物語を差し出している、とさえいます。

それは、皆さんが学んできたように、
外界について捉えられた感覚情報は、
我々が認識するまでに、
多くを捨てられ、加工され、編集されているからです。

このことを始めて概念として提唱したのは
エビングハウスですが、
認知科学や大脳生理学においては、
この知覚の過程はいまだに研究対象として充分興味深いものです。

ここでは、こうした自然科学的な研究結果を、
主観的な視点から捉えなおしてみます。

つまり、我々から見れば、
我々が目を使って景色を見る、というプロセスでさえ、
我々がその風景に関する物語を手にする、
あるいは、TV番組で、トルコのカッバドギアに関する
ドキュメンタリーを見る、という行為と、
非常に大雑把ながら、
本質的な差はないということになります。



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4)【自分についての物語】
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そしてまた我々は、逆に、物語を受け取るのではなく、
物語を創造し、語ることもあります。

たとえば就職活動、入学試験、あるいはカウンセリング場面において、
「自分」について、あるいは「これまでの人生」について、
「これからの人生」についての物語を、語らざるを得ない場合があります。

「自分」は誰か、
「これまでの人生」「これからの人生」はどのようなものか。

よく考えれば、
こうした自己PRや志望動機、でさえ、
厳密にはフィクションです。

なぜなら、どんなに語りつくしても、
これらの物語が、「自分」のすべてを明らかにしてくれることは、
ついにないからです。

以前、NHKのドキュメンタリー番組が、
やらせをしていたということで、問題になったことがありました。

現在では、TV番組を見るという行為において、
「これ、やらせ(しこみ)じゃない?」
という構えが、視聴者の方にも出来ています。

しかしもともと、
現実におきたこと(ノンフィクション)に、
なんらかの編集を加え、起承転結や盛り上がりなど、
なんらかの構造を与えた時点で、
それはノン-フィクションとは言い得ないのです。

その意味で、
あらゆる物語はフィクションであるし、
我々の知覚や、人生脚本、「自分」でさえ、
フィクションである、という言い方が、
けっして強引な論理とはいえなくなってきます。

我々が自覚している「自分」や「人生」とは、
コンピューターの中で起動しているRPGゲームの主人公や、
彼らの物語のようなものなのかもしれません。

すくなくとも、こころの物語的な側面は、
そのハードウェアやソフトウェア的な側面の存在に依存しつつも、
別個の論理の元に存在している、ということがいえるでしょう。

そして、人間のこころが、既存の物理法則では理解できない論理に、
基づいているように見えるからこそ、
心理学という学問があるのだともいうことができます。


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5)【物語=フィクションの意味】
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フィクションとノンフィクションの間に、
厳密な意味では違いがなかったり、
それ以上に、「自分」や「人生」がフィクションと
何の違いもない、といわれると、
たいていの人は、非常に不安になります。

確かだと思っていた土台が、
はずされたような気持ちになるからです。

不安のあまり、否定しようとする人もいるでしょう。

むしろ、それが健康な心の在り様かもしれません。

しかし、そうした健康さに背を向けて、
自分たちの寄って建つ土台に目を向け、
あわよくば解体して分析してしまおうと考えること。

それが、心理学を含めた、
人間を対象とする学問の、ひとつの性質であることは、
覚えておいたほうが良いのではないかと思います。

NHKの一件は、
その意味で、非常に示唆に富んでいます。

それは、科学さえ
フィクションの例外にすることはできないということです。

物理学における発見、
たとえば最近で言えば、ノーベル賞を受賞した小柴博士の、
ニュートリノ発見は、
ニュートリノという物質が存在する、
という点ではフィクションとはいえません。

理論物理学から導き出された仮説どおりに、
実験装置にニュートリノが検出されたためです。

しかし、パーソナリティやアイデンティティ、
またはフロイトの無意識といった、
仮説的構成概念になってくると、
その境目は非常にあいまいになってきます。

ある人の内気な行動が、
内向性というパーソナリティ特性から来たものか、
「自分は内気な人間だ」というセルフスキーマ、
もしくはアイデンティティのあり方からくるものかは、
結局現時点ではハッキリ分からないからです。

とはいえ、
もし、心理学がフィクションであっても、
心理学が研究され、パーソナリティやアイデンティティ、
無意識について研究されることには意味があります。

それは、
我々の寄って建つ土台が例えフィクションであっても、
そこには意味があるのだ、
というのと同じです。

例えフィクションでも、何もないということではない、
と考えること。

そのフィクションに存在する力を信じること。

それは、フィクションを、
実体的な存在と信じることとは違います。

フィクションを実体的な存在であると
信じることは、宗教の領域です。

我々が信じるべきは、
たとえ土台がフィクションであっても、
そのフィクションによって我々が現に支えられているのだ、
ということです。

ばからしいけれど、単にこれだけのことです。


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6)【フィクションの論理】
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心理学は、
これまでも常に、科学的根拠があるのかないのか、
すなわち、心理学は科学なのか、
という疑問にさいなまれてきました。

科学としての心理学は、
古くは行動主義、現在では認知主義に代表されます。

一方で、心理療法やカウンセリングにおいて参照される、
臨床心理学や、精神分析に連なる心理療法の系譜は、
科学的な心理学であろうとすることに、
どこか葛藤しているところがあります。

自分たちの研究対象がフィクションの領域から
抜けられないこと、フィクションにはフィクションの論理があり、
それは自然科学における論理では理解できない。

とはいえ、科学的であることをやめたら、
いったいどこに、学問としての根拠を見出したら良いのか?
という不安があるのかもしれない。

あるいは、
フィクションを実体とみなしながら、
それがフィクションであると指摘されるのが怖くて、
科学的な検証を避けているところがあるのかもしれません。

いずれにしても、心理学が、
あるいは、臨床心理学が、
これからもっと社会に認められるようになるまでは、
新しい学問のあり方を模索するだけでなく、
もうすこしふてぶてしく、
開き直ることが必要なようにも思えます。

それはさておき、
これから9回にわたって、
こうしたフィクションの持つ論理について検討していく中から、
物語としての心について、考えていきたいと思います。


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【次回配信】
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   次回 【問題号】… 8月22日(火)にお送りする予定です。

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【参考文献】
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● ナラティブの臨床社会学 野口裕二 2005 勁草書房

● 人生を物語る-生成のライフヒストリー- やまだようこ 編 2000
  ミネルヴァ書房

● 現代心理学「理論」辞典 中島義明 2001 朝倉書店

● Mind Hacks 実験で知る脳と心のシステム 2005 トム・スタッフォード
  著 オライリージャパン


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【編集後記】
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これからは、物語を中心に、
話を進めていきたいと思います。

物語について論じていくと、
次第に科学的検証の及ばない領域まで
話が及んでいくことになります。

しかし、心理療法は、
主にこのような領域で展開されるものであり、
また、世界や、我々自身についての
捉え方の幅を、広げてくれるものでもあります。

しばしお付き合いをお願いしたいと思います。

8月も半ばを過ぎました。

院受験を控えている方たちは、
これからがラストスパートです。

今のうちに、息継ぎをしておきましょう。

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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座 
 http://www.clinicalpsychology.jp/  
 ※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。   
 無断転載・転用を禁止します。

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