【Clip! アカデミー】 第6回 2005/06/07
第3週 解説号「心の側面をどう捉えるか」
◆提供:臨床心理士指定大学院受験講座◆
http://www.clinicalpsychology.jp/
◆目次◆
1)【前回のまとめ】
2)【問題号の解説】
【Q1】「意識」に関する問題
【Q2】「身体」に関する問題
【Q3】「認知過程」に関する問題
【Q4】「ゲシュタルト」に関する問題
【Q5】心理学の「枠組み」に関する問題
【参考文献】
【編集後記】
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○ ~~~~~~Clip!アカデミーサイクル~~~~~~ ○
■ 基本サイクル ■
第1週「エッセイ号」…問題提起
↓
第2週「問題号」…練習問題
↓
【今回はこちら!】 第3週「解説号」…確認とフィードバック
↓
第4週 基本的にお休み
(特別号が配信される場合があります)
↓
■ 第2サイクルへ続く ■
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1) 【前回のまとめ】
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本サイクルでは、
「心の側面をどう捉えるか」と題して、
心理学で扱われている心の側面を、
暫定的に以下の6つの側面から捉える試みをしています。
第4回エッセイ号では、
“コンビニの社長=意識が、各店舗の現状=現実をどのように知るか”
という例を通じて、
心の各側面のつながりを、総体的に把握する、
ひとつの枠組みを提示したのでした。
● コンビニの各側面
┏━━┳━━━━━┳━━━━━┳━━━━┳━━━╋━━┓
┃ ┃ | | ┃ ┃ |
┃本社┃ 報告書 |店長の野望| レジ ┃従業員┃販売|
┃社長┃ | | ┃ ┃ |
┗━━┻━━━━━┻━━━━━┻━━━━┻━━━╋━━┛
● 心の各側面
┏━━┳━━━━━━┳━━━━┳━━━━┳━━━╋━━┓
┃ ┃ | | ┃ ┃ |
┃ ┃ 知覚 | | ┃ ┃ |
┃意識┃ゲシュタルト|潜在意識|認知過程┃身体 ┃行動|
┃ ┃ | | ┃ ┃ |
┃ ┃ | | ┃ ┃ |
┗━━┻━━━━━━┻━━━━┻━━━━┻━━━╋━━┛
● 外界とのかかわりから生じてくる3つの側面
◆ 他者との比較=個人差
◆ 過去との比較=発達
◆ 他者との関わり=コミュニケーション
そして、前回第5回は、上の図解に上げた6つの側面を中心に、
問題号をお届けしました。
今回は、その解説号をお届けします。
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2) 【問題号の解説】
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【Q1】「意識」に関する問題
以下に挙げた研究者の、意識(consciousness)についての考え方について、
正しい組み合わせを、次の選択肢から選びなさい。
(1)ワトソン(Watson,J.B.) (2) フロイト(Freud,Sigmund)
(3) フェヒナー(Fechner,G.T.) (4) ヴント(Wundt,Wilhelm)
A 意識と身体との間の関数関係を明らかにする必要がある。
B 意識こそ、心理学の研究対象である。
C 意識よりも、意識されないものが重要である。
D 人間を理解するために、意識を研究する必要はない。
==============選択肢===============
(1) (2) (3) (4)
a. B C A D
b. A B D C
c. D C A B
d. D A B C
===================================
【解説】
研究者として取り上げた人々は、
皆心理学の在り方自体に影響を与えた巨人達です。
意識という側面は、まずデカルトによって規定され、
フェヒナーとヴントの努力によって科学の対象となりました。
それに対し、フロイトとワトソンは、研究対象として、
無意識(潜在意識)と行動という意識以外の側面を強調しました。
これによって心理学は、様々な方向へ発展していきました。
(1) ワトソン … D 人間を理解するために、意識を研究する必要はない
(2) フロイト … C 意識よりも、意識されないものが重要である。
(3) フェヒナー … A 意識と身体との間の関数関係を明らかにする
必要がある。
(4) ヴント … B 意識こそ、心理学の研究対象である。
非常に基礎的な問題です。
ただ、フェヒナーのところは
ピンとこない人も多かったかもしれないので、
すこし解説を加えておきましょう。
「意識と身体の間の関数関係」とは、
我々の意識と身体とのつながりを、関数によって表したものです。
物理学でいえば、アインシュタインのE=mc二乗という公式は、
エネルギー(E)は、質量(m)掛ける光速(c)の二乗で表される、
という関係を表しています。
物理学者フェヒナーは、
意識と身体の関係をこのような形で解明するため
内的精神物理学を構想しましたが、
そのためには、まずは外界の刺激と身体的な感覚の関係から
始める必要がありました。
これが、外的精神物理学です。
その成果は、
フェヒナーの法則(S = k log I)や精神物理学的研究法として、
今日の心理学の礎になっています。
ただ、彼の目指した意識と身体との関係を、
関数として表すことはついに出来ませんでした。
人間の意識は、
心理学の誕生から考え抜かれているにもかかわらず、
いまだ決定的な研究のやり方自体、
ハッキリしていないフロンティアでありつづけています。
よって、
正解は 【 c. 】
【Q2】「身体」に関する問題
身体の側面から、心へ影響を与える方法の1つとして、
薬物療法が挙げられる。
抗うつ薬であるSSRIがうつ症状の軽減に効果を発揮するとき、
脳の内部で作用しているのはどこか。
もっとも適当と考えられる選択肢を選びなさい。
============選択肢===========
a. シナプス(synapse)
b. レセプター(receptor)
c. トランスポーター(transporter)
d. セロトニン(Serotonin)
============================
【解説】
※ この問題は、最終的には正解する必要はありません。
SSRIの詳細な作用機序は、
実際にはまだ専門家間でも議論が分かれていて、
我々門外漢の場合、理解しようとすることによって、
逆に混乱してしまうことの方が多いと思うからです。
したがって、この問題に正解してしまった人は、
逆に、勉強においてカンペキ主義に陥っていないか注意してください。
とはいえ、医療現場で心理職として仕事をしたいという場合など、
脳の構造と脳内の神経伝達の仕組みなどは、
基本的な知識として、理解できるようにしておきましょう。
まずSSRIが、うつ病の治療に用いられる、
セロトニン 選択的 再吸収 阻害薬
(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)
の略だということを思い出しましょう。
次に、脳細胞間での神経伝達の仕組みを思い出す必要があります。
選択肢のなかに分からない単語があっても、
これらの知識から、答えを推測することが出来ます。
まず、感覚刺激等は、電気信号(神経信号)として、
脳内ではニューロンと呼ばれる脳神経細胞によって伝えられます。
ただし、ニューロンとニューロンの間では、
神経信号ではなく、神経伝達物質と呼ばれる化学物質によって
情報を伝達する仕組みになっています。
● ニューロン間での情報伝達経路
ニューロン → シナプス前部
↓
神経伝達物質(セロトニン)
↓
レセプター(シナプス後部) → ニューロン
ニューロンとニューロンの間の隙間は、
シナプス間隙といいます。
シナプス前部では、ニューロンを伝わってきた神経信号を受けて、
セロトニンのような神経伝達物質を放出します。
放出された神経伝達物質は、
相手側のシナプスにあるレセプターと結びつき、
それによって、次のニューロンに信号が伝わります。
このとき、レセプターに結びつかなかったセロトニンは、
セロトニントランスポーターと呼ばれる回収機構によって回収されます。
● SSRIは、セロトニンの再吸収を阻害することで、
シナプス間のセロトニン濃度を高める働きをしているとされます。
脳内のセロトニン量はうつ症状と関係しており、
セロトニン濃度を高めることで、
うつ症状に効果を発揮していると考えられます。
これまで、他の三環系抗うつ剤は、
セロトニン以外の伝達物質にも影響を与え、
その結果、様々な副作用を生じていました。
今回、セロトニンだけに作用するフルボキサミンの発見によって、
この点が改善されたSSRIは、うつ病への第1選択として、
世界的に広がりつつあります。
よって、
正解は 【 c. 】
【Q3】「認知過程」に関する問題
認知過程(cognitive process)の特徴として、
もっとも適当な語句の組み合わせを次の選択肢から選びなさい。
A 感覚刺激
B 記憶や思考
C 独自な構造
=======選択肢========
a. A + C
b. B
c. A + B + C
====================
【解説】
※ 感覚・知覚・認知の関係を問う問題です。
感覚は、感覚刺激を最大限忠実に反映しています。
ここで、 感覚 = A
それに対して、知覚は、
感覚から成立する物でありながら、
ある程度感覚刺激から離れた独自な構造(ゲシュタルト性)を持ちます。
つまり、 知覚 = A+C
感覚から得られた情報への推測や、補足などを反映し、
またそれらを全て統合するプロセスが介在しているためです。
認知過程は、
知覚(A+C)について、
既存の記憶と照合し、分析して理解すること(B)を含む、
非常に高度な処理過程です。
よって、 認知過程 = A+B+C
人間の心のどこまでが、認知過程の問題として解明できるのかは、
まだ明らかになっていません。
しかし、以上のように心の広いの領域を扱えるために、
現在の心理学においては、
欠かすことに出来ない側面になっています。
したがって、
正解は 【c.】
【Q4】「ゲシュタルト」に関する問題
以下に示した選択肢のうち、
知覚現象におけるゲシュタルト(Gestalt)の存在を
示唆するとはいえないもの、を選びなさい。
================選択肢===============
a. 仮現運動(apparent movement)
b. 両眼視差(binocular disparity)
c. 図と地(figure and ground)
d. プレグナンツの法則
(principles of pregnancy)
====================================
【解説】
※ ここでは、選択肢に上げられた概念を、
一つ一つ検討していきましょう。
まず、a.の仮現運動は、ネオンサインに応用されています。
二つのランプが交互に点滅するとき、
一定の速度を超えると、
光が横に移動しているように見える現象です。
仮現運動が生じているということは、
実際の刺激(交互に点滅する光点)から、
移動する光点という、実際には存在していない知覚が
作り上げられていることを、示唆しています。
移動する光点は、ゲシュタルトの性質を備えています。
c.の図と地も同様です。
日本ではルビンの杯と呼ばれる図では、
白い部分に注意を向けるか、黒い部分に注意を向けるかによって、
まったく違う図に見えます。
注意を向け換えた瞬間、我々には意識できないくらいの時間で、
成立していた知覚の全体としての性質はバラバラになり、
次の瞬間にはまた新しい図として体制化されます。
これがゲシュタルトの崩壊と、再体制化のプロセスです。
こうした体制化に際しては、いくつかの要因があることが、
ゲシュタルト心理学の研究からわかっています。
それがd.のプレグナンツの法則です。
人間は全体として、
もっとも簡潔な秩序を持ったまとまりを見出そうとする
傾向をもっている、とするものです。
b.の両眼視差は、両目から見える像のズレのことであり、
外界の奥行きを推し量るための情報として利用されます。
視覚は、
そのゲシュタルト性が非常にシンプルに現れる領域です。
そのため、ゲシュタルト心理学においては
中心的に研究されました。
ただし、他の3つに対して、
直接的にゲシュタルト性の存在を示唆するとはいえません。
よって、
正解は 【 b. 】
知覚現象におけるゲシュタルトの存在は、
行動主義全盛の当時の心理学界に対するアンチテーゼとなりました。
人間の知覚が現実を忠実に反映したレンズではなく、
無数の情報から統合された、
独自の構造として成立しているという発見からは、
その背後にあるべき、なんらかの統合プロセスの存在を暗示します。
これは後の認知心理学にも大きな影響を与えました。
また、
部分に対する全体が、
単なる総和以上の独自の性質を持ちうる
という発想は、
個人の知覚現象を超えた集団への視点として、
社会心理学にも受け継がれました。
ゲシュタルトの成立と、崩壊、再体制化のプロセスは、
我々が、同じものを見ているにもかかわらず、
まったく異なった見方をするようになる、
気づきの瞬間の比喩にも用いられます。
これは、ゲシュタルト療法の基本概念として、
広く受け入れられるようになっています。
このように、心の持つゲシュタルトという側面は、
のちの心理学に様々な影響を与えています。
勉強を始めたばかりの人には分かりづらいかもしれませんが、
理解できれば、新しい心の見方が開けていくはずです。
【Q5】心理学の「枠組み」に関する問題
ゲントナー(Gentner)とグルーディン(Grudin)は、
心理学は歴史的に、「生き物」「神経」「空間」「システム」
の4つのメタファーによって説明されてきたとしている。
心理学史後期において、もっとも多く利用されたメタファーは、
次のうちどれか。
===============選択肢==============
a. 「神経」(neural metaphor)
b. 「生き物」(animate being metaphor)
c. 「システム」(system metaphor)
d. 「空間」(spatial metaphor)
==================================
【解説】
※ 最後に、心理学の試験勉強には必要ないかもしれませんが、
本メルマガでも大きなテーマとしている、
心理学をより大きな枠組みから分類しようという試みを、
1つご紹介したいと考え出題してみました。
提唱者の名前などはあまり重要ではないので、
あまり気にしないでかまわないと思います。
ただ、心を何に例えるか、という視点は、
非常に一般的で、理論を分かりやすくする以上に、
重要な意味を持っていると思われます。
4つのメタファーが挙げられていますが、
正解を知ろうというより、
おのおのの比喩に、どのような理論が当てはまるのか、
現代における心の捉え方としては、
どのような方向に向かっているのか、を、
考えてみてもらえるといいと思います。
例えば、「空間」メタファーとしてすぐに思いつくのは、
認知心理学における記憶モデルです。
心を大きな空間と仮定して、入力された情報を、
◆ 仮に置く場所(ワーキングメモリ:working memory)
◆ 一時置き場(短期記憶:short-term memory)
◆ 保存庫(長期記憶:long-term memory)
に分ける、という発想をします。
心や心の要素それ自体を「生き物」として捉えることは、
現代の心理学ではあまりありません。
ただ、フォーカシングや、ユング派、などなど、
心理療法の世界では、
様々なレベルで心の一部を自分とは違う生き物とみなすことで、
内的対話をしやすくすることはよくあります。
「神経」のメタファーは、
例えば、眠気を副交感神経が優位な状態、
と考える、といった、神経系についての理解に依存しています。
それに対し、
生理的な構造や働きは気にせず、心の働きの様々な側面を、
相互作用し合い、フィードバックし合う、システムとして捉えるのが、
「システム」メタファーです。
システムの比喩は、
以前は単なる機械を連想させるところがありましたが、
近年様々な新しいモデルが提唱され、
有機体や環境の在り様までもが
システムとして捉えることが出来るようになりつつあります。
システムは、心理学だけでなく、
他の多くの学問にも持ち込むことが可能な概念であるため、
これからますます多くなっていくことが予想されます。
よって、
正解は 【 c. 】
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【参考文献】
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● 比喩から学ぶ心理学 2004 田邊敏明 北大路出版
● キーワードコレクション 心理学 1994 重野純 新曜社
● 心理用語の基礎知識 1973 東 洋・大山正・詫摩武俊・藤永保 友斐閣
● 心理学 1996 鹿取廣人・杉本敏夫 東京大学出版会
● 心理学辞典 1999 中島義明ら 編 有斐閣
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【編集後記】
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ここまで読んでくださった皆さん、お疲れ様でした。
…正直、お疲れでしょう。
前回解説号でも同じような編集後記を書いてしまったのですが、
今回、輪をかけて
長くなってます。
ただ、解説号では、
問題も載せつつ、単なる答え合わせに終わらないよう、
広がりを意識した解説を載せています。
そのため、ちょっとしたエッセイが5本載っている、
というような状態になってしまうんですね。
この件については、
問題数を減らす、解説を短くする、などの手段を検討中です。
どれも一長一短なので、正直悩んでいます。
ご意見をお持ちの方は、
clip-academy@clinicalpsychology.jp
までお寄せください。
そのほか、ご意見をお寄せくださった皆さん、
ありがとうございます。
順次対応していきたいと思いますので、
今しばらくお待ちください。
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送信者:臨床心理士指定大学院受験講座
http://www.clinicalpsychology.jp/
※Clip!アカデミーの記載内容は臨床心理士指定大学院受験講座に帰属します。
無断転載・転用を禁止します。
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2005年6月7日火曜日
【Clip!アカデミー】第6回:解説号「心の側面をどう捉えるか」
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